第14話 午前中は座学だ。

 ――翌日。


 今日から授業が始まる。

 この世界でも地球と一緒で、一週間は七日、月曜日から日曜日まである。

 平日は月曜から金曜まで。

 昨日の入学式が月曜日で今日は火曜日だ。

 平日のスケジュールは以下の通り。


 午前:座学

 午後:実戦授業

 放課後:自由活動


 ――現在午前八時。


 Sクラスには二〇人の生徒が椅子に座り、座学の授業開始を待っている。

 さすがに昨日の今日で欠席者はいない。

 座席は四行五列で配置されている。

 右隣はファヴリツィア。

 左隣はナタリアーナ。

 後ろはリオン。

 完全に囲まれている……。


 ちなみに、ゲームではリオンと俺が入れ替わった配置だ。

 ここでも改変が起こっている。


「アニキ、レポートまとめてきたっす」

「リオンに渡しておいて」

「うす」

「ボク?」

「ああ、いい勉強になるぞ」


 適当なことを言って、リオンにぶん投げる。

 リシパは「失礼するっす」と頭を下げて、自分の席に戻っていた。

 奴の席は離れている。鬱陶うっとうしくなくて良かった。


 やがて教員がやってきて、授業が始まる――。


 ゲーム内では、座学の時間は毎日ひとつランダムで情報を得られる。

 役に立たないフレーバー情報から、攻略を大きく左右する重要情報まで。

 その数は数万とも数十万ともいわれ、攻略ウィキでも全部を網羅できないほどだった。


 では、この世界ではどうなるのか?


 普通に授業が行われた。

 席について教師の話を聞く、中学や高校で受ける一般的な授業形式だ。


 ちなみに、昨日の説明では、座学はテストで合格点をとればよく、欠席してもまったく問題ないそうだ。

 授業に参加すれば、それなりに楽しい時間を過ごせるだろう。

 しかし、この時間を修行やダンジョン攻略にあてれば、より強くなる。

 どっちを選ぶか――ジレンマに悩むが、しばらくの間は様子を見よう。


 それでも、ただ受けるだけではもったいないので、授業を受けながらでもできるトレーニングをする。

 スキルを使ったトレーニングだ。


 教室で攻撃魔法やデバフ魔法は使えない。

 使えるのは、自分に対するバフ魔法だけ。

 といっても、さすがに腕を切り落としたり、眼球にダガーを突き刺したりしたら、ただの危ない奴だ。

 俺は小声で呟く。


『――【生きるとは死ぬこと成りトゥ・リブ・イズ・トゥ・ダイ】』


 漏れそうになる声を抑え、動きそうになる表情筋を引き締める。


 さあ、絶え間ない苦痛を受けながらお勉強だ。

 授業中の水分補給が許されている。

 優雅に紅茶をたしなむ生徒もいるが、俺はウォーターボトルのふたを開け、中身を飲む。

 水分以外の物も補給するためだ。

 その中身は、体力回復ポーションと魔力回復ポーションのカクテルだ。


 二年間の修行の成果で、ここまでならオーケーというギリギリの境界線が分かるようになった。

 なので、あと一歩で死ぬというところまで体力を減らし、そこからポーションで回復という繰り返し――ゲームで行われたチキンゲームの再現だ。

 自分の命をベットしたチキンゲームはクセになる。

 そう感じる俺はどこか壊れているのかもしれない。

 クラスメートもまさか、何度も死にかけながら授業を受けている奴がいるとは思わないだろう。


 教師の話が始まった――。


「まず、最初に言っておこう。皆も知っていることだが、現時点でのクラスは入学試験の点数に応じた仮配属だ」


 当然、知っていることなので、皆、うなずく。


「正式な配属は一ヶ月後。ダンジョン演習の成績で決まる。Sクラスに入れたからといって、油断するなよ。毎年、数人は入れ替わるからな」


 入学試験では、基本的な能力しか測れない。

 実戦での強さは、実戦でしか計れない。

 そのために一ヶ月後のダンジョン演習がある。


 ――というのが、もっともらしい理由付けだ。


 だが、メタな視点からいえば、別の理由も存在する。

 いきなり大勢のヒロインを登場させるとプレイヤーが混乱するので、少しずつ登場ヒロインが増えるようになっているという理由だ。

 最初の一ヶ月はナタリアーナかファヴリツィアと仲良くする期間――誰もがそう思うだろう。

 だが、テスレガはひと筋縄ではいかないと、すぐに悟ることになる。


 ダンジョン演習はゲームで重要なイベント。

 それまでの一ヶ月をどう過ごすか、演習でどのような結果を示すか。

 それによって、登場するヒロインや、ヒロインの好感度が変わるのだ。


 そして、テスレガがテスレガたるゆえんは――演習の結果次第で、ヒロインが死ぬ。


 すなわち、俺の行動次第で、誰かが命を落とすのだ。

 それを回避するため、残りの一ヶ月、まったく油断ができない。

 すでに原作からは大きく外れている。

 同じような攻略では、失敗するかもしれない。


 演習で誰も死なせないことが目標だが、それ以前に控える一週間後のイベント。

 そっちの方が、喫緊だ。それを無事に乗り越えないことには、演習どころではない。


「それでは、授業に入ろう――」


 今日は初回ということで、学校の設備の使い方や、ダンジョンについてなど、基礎的なことを教わる。

 授業中の他の生徒の態度はというと――。


 リオンは一生懸命、真剣に授業を聞いている。

 平民出身なので、前知識は少ないが、その分意欲的だ。


 ナタリアーナはポンコツだ。

 戦闘能力は高いのだが、座学はからっきし。

 ナタリアーナ攻略を進めていくと、一緒に勉強会をするイベントが発生するが、そのポンコツ振りはヒドいものだ。


 ファヴリツィアは、安定の俺ガン見。

 彼女は王族として幼少期から知識を叩き込まれたし、本来なら首席になる存在。

 なので、授業を聞き流しても、問題ないはずだ。

 だからだろうか、授業そっちのけで、俺に熱い視線を向ける。

 昨日の手紙が気になるのか、ソワソワしているようだ。

 俺が視線を向けると、慌てて顔を背ける。

 分かりやすいなあ。


 そして、リシパは分かったような分かってないような顔で「うんうん」と頷いている。

 まあ、コイツについてはどうでもいい。

 育ててもたいした戦力にはならないはずなので、さっきみたいに適当にあしらっておくつもりだ。


 やがて、授業はクライマックスにさしかかる。


 ――テスタメンティア・レガシーについてだ。


 この言葉はゲームタイトルであるとともに、もうひとつ重要な意味を持つ。

 そもそも、テスタメンティアとは、いにしえの大賢者の名前だ。

 遥か昔の存在で、その実在を疑う者もいるが、彼女こそ魔王を封印したと言われてる。


 この学校――『テスタメンティア学園』も彼女のように「魔王を封印する力を持つ者」を育てるのが目的だ。


 そして、テスタメンティア・レガシーとは彼女が残した強力な武具のことだ。

 レガシーはダンジョンの奥に隠され、ゲーム内で最強の性能を持っている。

 どれだけヒロインを育てるかと同じくらい、どれだけレガシーを集められるかも、攻略にとって最重要だ。


 レガシーについての講義を生徒たちは目を輝かせて聞き入っている。

 デレステ公式設定集(辞書並)をすみずみまで読み尽くした俺にとってはほとんど知っている内容だった。

 だが、知らなかったこともあったので、まったく無駄というわけではなかった。

 これなら、しばらくは座学に参加する価値があるな――俺は死にかけながらもそう判断した。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『午後は実践授業だ。』


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