第12話 リオンたちとランチ。アルダとディナー。


「オルソンさん、ごちそうさまでした」


 リオンはペコリと頭を下げる。

 食事を奢ってあげたことへの感謝だ。


「アンタのことはまだ認めてないけど、お礼だけは言っておくわ。ごちそうさま」


 しっかりとツンを織り交ぜながらも、お礼をするナタリアーナが微笑ましい。

 ちょっとほっぺが赤くなっているのもポイント高い。

 やっぱり、メインヒロインだけあって、美少女なんだよな。


「気にしなくていいよ。たいした額じゃないから」

「さすがはお貴族サマ、言うことが違うわね」


 ツンツンしてても、この先デレると知っているから、なに言われても許せる。


「そんなこと言っちゃダメだよ、ナタリアーナちゃん」

「だって、本当のことでしょ。私たちにはあんな額、払えないわよ」

「多分だけど、このお金はオルソンさんが自分で稼いだお金だよね?」


 へえ、そこに気がつくか。

 その通り。二年間の修行で稼いだ金だ。

 この世界のリオンは賢いようだ。

 俺は笑みを浮かべ、否定も肯定もしない。


「早く強くなって、今度はオルソンさんに奢るからね」

「私もよ」

「楽しみにしてるよ」


 リオンが身体の前でギュッと両手を握りしめる。

 俺は顔をそらして、軽く流す。

 赤くなった顔を見せないように。


 可愛すぎだろ!

 庇護欲をかき立てる、あどけなさがハンパない。

 俺はリオンの破壊力を知らされた。


 他のヒロインももちろん可愛い。

 ギャルゲーのヒロインなんだから当然だ。

 ただ、彼女たちの可愛さは想像の範囲内だ。

 ああ、そうそう、こういう言い方や表情するよね。

 リアルになった分、可愛さは増すがそれ以上ではない。


 対して、リオンの可愛さは想像できない可愛さだ。

 追加コンテンツで初登場するヒロインを初めて攻略するときのドキドキ感みたいなものだ。

 それに加えて、少年版リオンを知っていることが、彼女の魅力を倍増させる。


 結論――リオン、マジ、カワイイ。


「オルソンさん、この後の予定は?」


 ダメ。そんな目で見ちゃ、ダメ。

 だけど――。


「ごめん、用事があるんだ」

「そっか」


 はい、そこっ!

 そんなにあからさまにショボンとしない。

 悪くないはずなのに、罪悪感がエグいから、今すぐ止めなさい。


「なに、明日からずっと一緒だよ」


 俺は無意識にリオンの頭に手が伸びていた。

 頭をガシガシと撫でる。

 赤くて細い髪から伝わるお日様のような匂い。

 リオンは目を細めて「えへへ~」ととろけきっていて、今すぐ連れ去りたい衝動にかられるが――。


「リオン、もっと街で遊びましょ」


 ナタリアーナはリオンの腕をつかみ、俺から引き離す。

 名残惜しそうに「あっ」と声を漏らすリオンはやっぱり可愛かった。


「うっ、うん。そうだね。でも、ボク、お金ないよ?」

「私だってないわよ。きっと、見て回るだけでも楽しいわよ」

「たしかに、そうだね」

「二人とも王都は初めてだよね?」


 ゲーム知識で知っているけど、尋ねてみた。

 二人は「うん」と返事する。


「あまり、キョロキョロしてるとお上りさんだと思われて、変なのに絡まれるから気をつけてね」

「王都って、怖いんだね」

「油断できないわ」

「怖がらせちゃったけど、学園の制服を着てればそうそうトラブルには巻き込まれないよ。それにもしそうなっても、二人なら返り討ちできるよ」


 原作でも、街中で起こるイベントがいくつかある。

 そのうち回収するつもりだが、急ぐ必要はないので、後回しだ。

 ちなみに、昼食をとった飯屋でもイベントが起こるが、それも先の話。


 俺は二人と別れ、寮に戻る――。


「お帰りなさいませ」


 メイド服姿のアルダに出迎えられる。

 頭を下げる彼女の青いボブカットが揺れた。

 住み始めたばかりの部屋なのに、彼女が待っているだけで自分の家のように感じられる。


「ああ、ただいま」

「素晴らしいスピーチでした」

「でしょ?」


 いろいろ問題が多いテスレガだけど、あの入学スピーチはプレイヤーの間で絶賛された。

 何度も周回して、ようやく到達できるスピーチ。

 知らない人からすると、「まあ、悪くないんじゃない」くらいだが、プレイヤーにはそれまでの苦労が報われる名スピーチだと分かるのだ。

 多くのプレイヤーが泣いたスピーチ。

 俺も初回は号泣した。

 テスレガやってて、本当に良かったと歓喜に全身が打ち震えた。

 そして、その一時間後には理不尽に死んで「マジでクソゲー、作ったヤツ死ねよ」と叫ぶまでがテスレガだ。


「台本は作っていなかったようですが……」

「ああ、全部頭に入ってる」

「さすがはオルソン様です。筆記試験も満点でしたし、オルソン様は強いだけでなく、知性も抜群ですね」

「アルダに見てもらえて嬉しいよ」


 アルダの敬意のこもった視線がくすぐったい。

 このままイチャイチャしてたいところだが――。


「準備はできてる?」

「いつでも出られます」


 明日から授業が始まり、リオンたちと一緒にダンジョンに潜ることになる。

 いくら俺が規格外といわれるほど強くなったとはいえ、テスレガのダンジョンはヌルくない。気を抜いたら、一瞬でバッドエンドだ。

 ゲームと違って、リセットでやり直せない。


 だから、その前に確認しておきたい。

 どこまでがゲームと一緒で、どこが違うのか。


「じゃあ、行こうか」

「久しぶりのダンジョンですね」


 入学準備やらなんやらで、一週間ぶりのダンジョンだ。

 普通の感覚だと、久しぶりというほどではないが、二年間ほぼずっとダンジョンにこもっていた俺たちにとっては、ずいぶん遠い過去に感じられる――。


「――今日はこれくらいにしよう」


 最初に潜る予定のダンジョンの様子を調べたが、無視できるような小さな差異しかなかった。

 これなら問題ないな――シナリオは原作からどんどん外れているが、ダンジョンは変わっておらず安心した。

 俺たちは寮の自室に戻り、夕食だ。


「今日はお祝いに作ってみました」


 ゲーム内では普通に日本の料理が出てくる。

 ファンタジー世界なのに牛丼とかラーメンとか出てきて「その設定どうなの?」とも思うが、テスレガはそれ以外の設定が狂ってくるから、さほど気にならない。

 この世界でもそれは同じだ。


「やっぱりアルダの手料理は最高だね。食べると幸せになるよ」


 いくらでも食べられるが、この後に控えてることを考えて腹八分目にしておく。


「オルソン様の喜んでいる姿が見られて、私も幸せです」


 軽く褒めただけでも、アルダは顔を赤らめる。

 二年前からは考えられない変化だ。


 食事を終えて、ソファーに移動する。

 食後のコーヒーとデザートなのだが……。


「近くない?」

「そんなことないですよ? オルソン様は放っておくと無茶するので、お姉ちゃんがちゃんとついていないとです」

「それは否定できないけど、この場合は関係ないよね?」


 アルダは俺の隣にぴったりと密着するように座る。


 大きなおっぱいをふにゅんと押しつけ。

 ムチムチの太ももでスリスリスリスリ。

 吐息が耳を優しく撫でてくすぐったい。


 それがさも当たり前のような振る舞い。

 これもまた、二年間を通じての変化だ。


 俺が命がけの無謀な修行を続けたせいで、アルダの庇護欲が限界突破した。

 その結果、「私が守ってあげないと」とお姉ちゃんキャラに進化した。

 原作では登場しない人格だ。

 オルソンを主と崇めながらも、主従の関係を保ち、一線を越えない。

 彼女が取り乱すのは、オルソンが死ぬときのみ――それが原作でのアルダだ。


 最初は戸惑ったが、アルダ自身は幸せそうだし、俺も嬉しいので、なんの問題もない。

 そして、最近ではそれがエスカレートし、ボディタッチが増えたり、距離が近すぎる。

 なので、ツッコミを入れたのだが――。


「はい、デザートですよ。あ~んしてください」

「そうやって誤魔化す」

「あ~んです」


 ゲームのモブキャラは何度話しかけても同じ返事を繰り返す。

 今のアルダもその状態だ。

 なにを言っても「あ~ん」の無限ループ。

 仕方ないと、口を開く。

 パリパリとサクサク。

 パイ生地を割ると、口の中に広がる酸味と甘み。

 オルソンの大好物――アップルパイだ。

 シナモンのきき具合もちょうどいい。


「うん。美味しい。手作り?」

「はい。昼間は時間があるので、張り切ってみました!」

「嬉しいよ」


 俺の口に入ったフォークをペロリと舐め、アルダは恍惚の表情を浮かべる。

 本当にこんなキャラでいいのか?

 カワイイから問題ナシ!


 あーんを繰り返し、皿がからっぽになる。

 口の中の甘みをコーヒーで流し、俺は態度を切り替える。


 本当はいつまでもこの楽しい時間を過ごしていたい。

 このままの関係を保っていたい。

 でも、それでも、伝えないといけない。


「アルダ、君に伝えたいことがある」

「はい」


 俺に合わせてアルダも真剣な顔になる。


「実は――」


 俺が話し始めようとしたとき、アルダの顔が近づいてきて、彼女の唇でふさがれた――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『アルダに告白する。』



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