第8話 リオンと再会する。

 隣室のドアをノックすると、中から生徒が出て来た。


 ……………………えっ!?


「あっ、あの……」


 固まる俺に、隣人は戸惑っている。

 いや、俺はその何倍も困惑していた。


「失礼した。隣室になったオルソンだ。これからよろしくな」

「オルソン……あっ、あのディジョルジオ家の。失礼しました。私の名は――」


 どうやら当家より格下の貴族らしいが、彼の自己紹介は俺の耳に入ってこなかった。


 ――なんで、モブキャラが?


 隣の住人は、まったく見覚えのない顔。

 ゲーム内では顔すらないモブ役だ。


 おかしい……。


 本来、隣室に住むのは主人公リオンだ。

 作品内で最初のイベントは、オルソンとの顔合わせ。

 隣室をきっかけに二人は仲良くなり――という設定なのだが、いったいなにが…………。


 まさか、村襲撃イベントに俺が介入したからか?

 散々煽って、ケツに火をつけたつもりだったが、足りなかったのか?


 不安が湧き上がってくる。

 リオンがいないとなると、原作から大きく外れてしまう。

 俺は頭をかかえた。


 モブキャラ君となんて話したのかすら分からないまま、混乱した俺は自室に戻る。

 ベッドに身を投げ、目を閉じる――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


「オルソン様。そろそろ、起きてください」


 アルダの声に目を開けたら、翌朝だった。

 彼女に支度してもらい、俺は入学式に向かう。

 リオンがいることを祈りながら――。


「――新入生首席。オルソン・ディジョルジオ」

「はい」


 入学式の半ば、俺は壇上に上がりスピーチする。


 テスレガではクリア時にステータスが一部引き継がれる。

 完全にではないが、例えばレベル50でクリアしたら、レベル10くらいのステータスで次の周をスタートできる。

 そうやって、少しずつ強くなっていき、少しずつ攻略を進めていくのだ。


 入学スピーチに関しては、一周目ではこの役目は王女であり、ヒロインの一人ファヴリツィア・ブルニョンが務める。

 何周目かで首席合格すると、主人公がスピーチをすることになる。

 そうして初めて、ファヴリツィアルートが攻略可能になるのだ。


 会場には在校生と教師やら来賓やら。

 観客席をチラリと見るとアルダの姿も。

 子どもの晴れ舞台を見守る母親のような顔をしてる。


 前世ではこんな大勢の前でスピーチなんてやったことない。

 だけど、ゲーム内でのスピーチを丸暗記してるから、それをしゃべるだけだ。


 散々練習してきたので、頭は使わず、口だけを動かしていると――ファヴリツィアからの視線を感じる。

 彼女は幼少期から優秀で、同年代に彼女に及ぶ者はいなかった。

 はじめて自分を超える存在に出会い、俺に興味を持ち始めたところだ。


 俺が入学試験で本気を出したのはこのためだ。

 彼女を含め、一周目では攻略できないヒロインがいる。

 彼女たちをリオンに任せると、助かる保証がない。

 だから、彼女たちは俺が助けるつもりだ。

 結ばれようとは思っていないが、彼女たちも幸せになって欲しい。


 ともあれ、彼女の攻略は後回し。

 彼女の視線をガン無視しつつ、問題なくスピーチを終えた。

 その後はお偉いさん方のスピーチを適当に聞き流しているうちに入学式が終わった。

 この後は自分のクラスに向かうのだが、歩いている途中に見覚えのある二人が視界に入った。

 一人はメインヒロインのナタリアーナだ。


 金髪のストレートロング。

 制服に身を包み、派手さはないが、可愛く親しみやすい顔つき。

 メインヒロインらしきオーラが漂ってくる。


 そして、彼女の隣にいるのはリオンだ。

 良かった。ちゃんとリオンは頑張ったようだ。

 一番の懸念事項が解決し、俺はホッとする。

 リオンがいなかったら、いろいろ計画を修正する必要があったが、取り越し苦労だったようだ。

 ホッとするが、俺はおかしいことに気づく

 ナタリアーナの隣にリオン!?


 ――ナタリアーナは男嫌いだったはず。


 彼女は過去のトラウマで男性嫌いだ。

 そのせいで、スタート時点での主人公への好感度は低い――ツンツンなのだ。

 それでもめげずに、声をかけ続け、あるイベントをきっかけにデレデレになる。

 それが彼女の役割だ。

 それなのに、なぜ……。

 あり得ない事態に頭が混乱する。


 そのとき、リオンが俺に気がついたようで、こちらに向かって走ってくる――って、えっ!?


 半年前と変わらぬ赤髪。

 青臭さが抜けた顔。

 そして――風になびくスカート。


 はっ!?

 スカート!?


「オルソンさんっ!」

「リオン?」

「はいっ!」


 そうきたか……。

 まさか、リオンが女になっているとは。

 だから、ナタリアーナと仲良しなのか。

 こればかりは、まったく想像していなかった。


 リオンと出会ったときの会話を思い出す――。


 ――なのに、なんでヘラヘラしてるんだ? それでも男か?

 ――えっ、いや……ボクは。


 言い淀んでいるだけだと思っていたが……そりゃ、あの反応も納得だ。


「まだ、オルソンさんを殴り返すほどの強さはないですけど、それでも、ボクはここにやってきました」


 ボクっ子だったのか……。


「必ず、オルソンさんに認められるようになります。一発はそのときまで取っておきます」

「おっ、おう……」


 なんか凄い懐かれているぞ。

 見えない尻尾がブンブンと揺れている。

 慕われているのは良いのだが、こうなると俺が全ヒロインを攻略しないといけないのでは――予定が狂い、途方に暮れていると、別の声が割り込んできた。


「リオンちゃん、待ってよ」


 ナタリアーナが遅れて駈け寄ってきた。


「あっ、首席の人」


 ナタリアーナはリオンを守るように、俺との間に割って入る。


「いくら優秀でも、リオンちゃんは渡さないから」


 ギュッとリオンを抱きしめ、キッと俺を睨みつける。


 この気の強さ。

 自信に満ちた顔。

 隠しもしない男嫌い。


 間違いない、彼女こそ、『テスタメンティア・レガシー』のメインヒロイン――ナタリアーナだ。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『リオンが原作と違うんだけど。』


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


   ◇◆◇◆◇◆◇


完結しました!


『前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢』


TS、幼女、無双!


https://kakuyomu.jp/works/16817330650996703755


   ◇◆◇◆◇◆◇


【新連載】


『変身ダンジョンヒーロー!』


ダンジョン×配信×変身ヒーロー


https://kakuyomu.jp/works/16817330661800085119

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