サトリの花嫁 ~旦那様と私の帝都謎解き診療録~

栗原ちひろ/メディアワークス文庫

第1話

 覚えているのは、百日紅さるすべり


 じーわ、じーわ、じーわ。


 アブラゼミの声がする。肌があぶられるみたいに暑い。


 低木の枝の先、泡立つように真っ白な百日紅が咲いている。


 誰かが歩いてくる。その人は百日紅の横で立ち止まって、うずくまる私を見下ろす。




 そうして、言う。



「待っていてください」



 ──と。

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