第3話 ドルトディチェ大公一族

 ドルトディチェ大公城。ロゼは、城内にある塔に向かって歩く。

 人間であるのも疑わしいほどの美貌に一切変わらない表情を貼りつけた女性は、やっとの思いで目的地の塔に到着をする。ドルトディチェ大公家に仕える騎士たちに案内された先、長い階段をヒールで楽々と上った。

 最後の一段を上りきった時、コツンッとヒールの音が響き渡った。扉の両端で見張りを担当していた騎士たちは、ロゼの姿を確認するなり、重厚な扉を開け放つ。地獄への入口。明らかに外気とは違う空気が立ち込めた空間に、ロゼを足を踏み入れた。間に入るなり、無数の赤い目に睨みつけられる。ロゼは動揺することなく、城の主が座る上座から最も遠い、空いた席に座った。

 ロゼの右斜め前に座る少女がロゼを見るなり、突然小刻みに震え出す。


「怖い……怖いよ……」


 少女はブツブツと独り言を呟く。

 セラサイト色の髪を両端で結い上げ、黄色のリボンで彩っている。大きな瞳は、血色であるブラッドレッド。美少女と言うに相応ふさわしい顔は、青白く染まりきっていた。

 少女の名は、レアナ・テクラ・リーネ・ドルトディチェ。ドルトディチェ大公家六女の14歳。一族直系の中での序列じょれつは第8位だ。

 無様に震えるレアナの正面、ロゼの右隣に座っていた少女が突如立ち上がる。


「レアナ! そんなに弱々しくてどうすんの!? そんなんじゃ後継者になれないわよ!」


 甲高い声でレアナを怒鳴りつけるのは、セラサイト色の髪を頭頂部近くで結び、青色のリボンで彩る少女であった。瞳の色は、レアナと同じブラッドレッド。レアナとは違い、風貌からして気が強そうだ。

 少女の名は、リアナ・アクラ・リーネ・ドルトディチェ。大公家の五女であり、14歳。リアナの双子の姉である。序列は、第7位。


「リアナ。一旦落ち着こうか」


 興奮気味のリアナをなだめるのは、癖のないベビーブルーの髪に、ブラッドレッドの瞳の美少年。一瞬、少女かと見紛う可愛さであるが、立派な成人男性だ。

 彼の名は、マウヌ・ツ・リーネ・ドルトディチェ。大公家の五男であり、21歳。序列は、第6位だ。

 マウヌにさとされたリアナは、どこか不満げに唇を噛みしめるも、大人しく彼の言うことに従った。不貞腐ふてくされ、わざと音を立てて椅子に座る。


「まだまだ子供ですね」


 やれやれ、と呆れた様子で肩をすくめるのは、ラピスラズリ色の髪が特徴的の青年だ。丸眼鏡のレンズの向こう側できらめくブラッドレッドの瞳がリアナをさげすむ。

 彼の名は、ヴァルト・レフ・リーネ・ドルトディチェ。大公家四男にして、22歳。序列は、第5位。ヴァルトは勉学が得意であり、魔術に長けている。


愚妹ぐまいが……。恥ずかしいぜ」


 そう吐き捨てた人物は、双子の姉妹と同色のセラサイト色の短髪に、ブラッドレッドの瞳を持ついかつい青年だった。男らしく刈り上げた部分が勇ましい。肩幅は広く、強靭きょうじんな肉体を誇っていた。

 ジル・エクトル・リーネ・ドルトディチェ。大公家三男で、24歳。序列は第4位だ。リアナとレアナとは、同じ母親を持つ実兄妹である。

 そんなジルの真正面に座っていた青年は、あからさまに溜息を吐く。


「もうそろそろ、父上がいらっしゃる。情けない姿は見せぬよう、皆尽力しろ」


 スモーキーベージュの髪は、中心で分けられている。ブラッドレッドの瞳は切れ長で、どこか恐ろしい雰囲気を漂わせる。

 彼の名は、オーフェン・ロティ・リーネ・ドルトディチェ。大公家長男にして、28歳。序列は第3位だ。


「ふふふふふ」


 不気味さを漂わせる高い笑い声が間に反響した。赤い唇が弧を描く。ラピスラズリ色の長髪は背上まで伸びており、その毛先はクルクルと巻かれている。瞳は、ブラッドレッド。優美な印象が滲み出る美貌だが、どこか気味が悪い。言い表すなら鋭い棘のある薔薇ばら。それも棘を隠すことなく、むしろ堂々と見せているような。

 影のある美女の名は、ユーラルア・チェフ・リーネ・ドルトディチェ。大公家次女であり、23歳。序列はなんと、第2位。そしてヴァルトの実姉だ。


「別に情けない姿を見せたっていいじゃないですの。愛するお父様に殺されるだけですので♡」


 黒いレースの手袋に包まれた両手を合わせ、満面の笑みを浮かべるユーラルアは、狂気じみた言葉を口にした。

 ユーラルアの影響により静まり返る空気の中、上座に最も近い椅子に座る青年が、伏せていた瞳を開いた。

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