五色の王の物語

園後岬

プロローグ

 むかしむかし、あるところに、五つの国がありました。


 砂漠と火山に覆われた不毛の赤の国、

 豊穣な大地を誇る緑の国、

 嵐と大水の青の国、

 信仰と調和を重んずる白の国、

 そして毒と瘴気に侵され、呪われた黒の国―――


 それぞれの国は強大な竜の王と、その眷属たちに治められていました。


 赤の国の王は、高潔で気高く、また最も強い王であったので、尊敬を込めて“威厳王”と呼ばれていました。赤の国の土地は痩せていて、眷属の竜たちはしばしば飢えに悩まされましたが、王自ら獲物を探し出して狩り、少ない食事をみなと分け合いました。その徳に感じた他の国の王は、こぞって彼に食物を贈り、返礼として赤の王は、他国のために戦い、どんな大敵をも討ち果たしたので、“威厳王”の名は大陸中に知れ渡りました。


 緑の国の王は、獣のごとく振舞う、あまり賢くない王でしたが、心は穏やかで、自分の国の民を守るためには勇敢に戦い、いつも勝利を収めたので、人々の敬愛を一身に受け、“地母神”と称えられました。彼女は貞潔で、眷属をわずかしか生みませんでしたので、緑の国の民は王に守られるだけでなく、自分たちも眷属に代わって王を守ろうとし、そのために緑の国は屈強な戦士の国として他国に知られるようになりました。


 青の国の王は、この世のことで知らぬことは何一つない博識な王で、その吐く息で嵐を起こし、その鼓動に従って稲妻を降らせることができたため、“雷帝”と畏怖されていました。彼の起こす嵐の為に、青の国は常に水で溢れかえっており、大陸にありながら巨大な“水たまり”によって隔絶されていたため、青の国の土地が攻め込まれ、戦場にされることは一度もありませんでした。


 白の国の王は、彼もまた賢い王で、人々を教え導き、文明を大きく繁栄させたので、白の国は史上最も大きな都市を築くことができました。人々は王に支配されることを強く求めましたが、彼自身は象徴のような立場でいることを望んだので、民はいつしか、神殿の御座から奥ゆかしく見守ってくれる彼のことを、“神”“創造主”と呼んで崇めるようになりました。


 黒の国では、愚かしいことに王を置きませんでした。傲慢な貴族たちは、国にいる竜たちを我が物に従わせようとし、邪悪な魔術師を集めて怪しい呪いをかけ、無理やりに言うことを聞かせようとしたので、竜はみな身も心も病んで死んでしまったのです。その後、竜の体にかけられた呪いは行き場を失い、黒の国の地に降り注ぎました。今では黒の国は、自ら招き寄せた呪いに土地を汚され、生き物の生きていけない、地獄のような地になってしまいました。


 もう一つ、古い伝説では、大陸のどこか、誰も知らない秘密の場所に、“無色の国”と呼ばれる国があったらしいのですが、今では誰もその場所を知らず、またその国の王がどんな竜だったかということも忘れ去られてしまいました。

 しかしいつか、彼の地の王が、無色の竜の軍勢を率いて、五つの王国を滅ぼしにやってくるという預言が、誰が言うともなく、いつの世にも、まことしやかにささやかれているのでした―――。


 どうか、そんな日の来ぬよう願って。緑の国の司祭、オグウイィトが後世の為に記す。


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