第13話 高木さんと会長さん


 担任の大島先生が引き上げた後、青木竜久りゅーくは斎藤の袖を捕まえると、グイッと引っ張った。


「おい見たか? 石田のヤツ、ひなちゃんたかぎさんと一緒だったよな?」

 

 斎藤は「オレも見た。一緒だった」と、竜久の顔を見る。


 無言である。


 その圧力に屈したかのように斎藤は「わかった。ちょっと見てくる」と一言。


「わりぃな。恩に着るぜ」

「いや。オレとお前の仲だからな」


 おもねるような笑顔を浮かべた斎藤は、いつもの手下である松下に「行くぞ」と声をかけて走り出したのだ。



 ※青木君は高木さんに片思いしています。




・・・・・・・・・・・・・・・・




 学校から徒歩10分。


 高木さんの家に来た。


 緊張したけれど、お家の人は誰もいなかった。


 しかも二階の彼女の部屋にそのまま通されてしまった。


 家族が誰もいない家に、二人っきり。これはこれで、かつて無いほどの緊張を生んでいた。


「えっと、これって……」


 家族みくと、幼馴染みののかを除けば、女の子の部屋に入るのは初めてだ。


 なんか、良い匂いがするし、部屋がすっごくきちんとしてるのは同じだけど、初めて入った家だし、相手はろくに話したこともない、我が校の四大美少女の一人である高木さんだ。


 緊張度はMAXなオレは、出されたクッションの上で半あぐらで座り込む。手を伸ばす距離でチョコンと女の子座りの高木さん。可愛い。


 激ヤバ緊張で、紅茶の味がわかんねーよ。


「改めまして。いらっしゃい」


 ペコン。


「あ、ど、どうも」


 慌ててペコン返し。


「ところで、あのぉ話って?」

「試験が終わった日に、わざわざ来てもらってすみませんでした」

「いえ。それはいいんですけど」


 フワッと笑顔を孕む顔が近づいてくる。ヤバッ、可愛い。


「石田君、みんなに、ひどいことをされてるでしょ?」

「ひどいことって」

「ウソの告白ですよ。さっきも、きっとそう思っちゃったんですよね?」

「あ、え、そ、そうなんですよ。つい、とっさに」

「ひどいですよぉ。今まで黙って見ていた私も悪いんですけど、でもでも、でも!」

「いや、高木さんは別に悪くないし」

「でも、私がそんなことをする子だって思われてたなんて。ショックです」

「ごめん。つい」

「ううん。責めたみたいになってごめんなさい。でも、私はウソで告白なんてひどいことしませんよ? それに……」

「それに?」


 ヤバい。息がかかる。なんて甘い匂いなんだよ。


「告白するなら、キスだって、できちゃいますよ。そのくらい好きじゃないと告白なんてできないって思います。ね? 石田君はキスしたこと、ありますか?」

「な、なぃ、デス」


 口の中がカラカラだ。ヤバい、ちょっとでも顔が動いたらキスしちゃう。


「もしも、キスしちゃったら、本気の告白だって認めてくれますよね?」

「そ、それは、あの、も、もち、の、ろん」


 パチッとした瞳が、その瞬間、そっと閉じられたんだ。長いまつげが震えてる。


 え? マジ? これってキスしちゃって良いんだよね?


 キスして良いですか? なんて聞くのはさすがのオレでもヤバいとわかってる。


 えええい! 勇気だ! 勇気をだせぇえ


 ゴクリとツバを飲んでから「たか、ぎ、さん」と声を出したけど、瞳を閉じたまま、小さく頷くだけ。


 いいんだよね? いくよ?


 ピンポ~ン


「キャッ!」


 弾けるように、びょびょーんと飛び下がった。女の子座りの体勢から、見事なジャンプ力! ……じゃなかった。


 何? いったい誰が?


「もう~ ミズったら! 早いよ、早すぎだよぉ~」

「みず?」


 真っ赤になって口を尖らせる高木さん。ぷんすか状態だ。


 でも、チラッとこっちを見て真っ赤になると、両手で顔を隠した。


 そんな慌て方も可愛い。美少女は何をやっても可愛いんだな。世界の真理かも。


 トン トン トン トン 


 勝手に入ってきたらしい。階段を一気に上ってきた人物は、ノックも無しにドアを開けた。


「会長?」


 まさかの、若葉瑞穂さんだった。しかし、オレの問いかけが届く前に、会長の視線は、真っ赤になってる高木さんに合っていた。


「あああ! ひな! ずるい! 私が来る前になんかしようとしたでしょ!」


 なぜか激オコの会長であった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

 若葉瑞穂……生徒会長(任期は切れてます)で2組です。

 高木ひな……光樹と同じ1組。合唱部長。

       合唱コンではクラス全体の

       リーダーを務めています。

 なお、光樹はバス・パートのリーダーです。


 ※中学の男子は、ワンパートにすることが多いですが、物語上、バスとテノールとに分けてます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 

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