#16 友達を救う為の決意
「―――あんみつくんは今のままでいい。痩せる必要ない」
「いやダメでしょ!こんなんデブってるからいつまで経ってもみんなからバカにされてんだし!」
「デブなのもあんみつくんのアイデンティティ」
あ、デブって言っちゃった。
俺としては、ぎりぎりデブ手前のぽっちゃりさんだと思ってたんだけどな。
「だいたいいっつも汗ダラダラでヌルヌルしてるし!コーラ飲みすぎなんだし!」
「ヌルヌルはちょっとアレだけど、汗ダラダラは問題ない」
ランちゃんはミヤビちゃんも俺のダイエットに賛同するものだと思って呼んだ様だが、ミヤビちゃんは真向から反対した。
そのミヤビちゃんは俺に背を向けてて表情は見れないけど、後ろ姿はなんだか怒っている様にも見えて、ちょっと怖い。 だけど、ミヤビちゃんの思惑は分からないけど、何故か今の俺の全て肯定するかの様な発言だ。
こういう時、どうすればいいんだ?
二人とも友達の場合、どちらの肩を持てばいいんだ?
そんな選択は俺には無理だ。
ここは友達としてではなく、ヒーローとして問題解決するべきか?
そうだ、むしろ脱ラブコメには丁度良い機会かもしれないぞ。
華麗に解決してヒーローになれば、デブだのヌルヌルだの汗ダラダラだの言われなくなるに違いない!
「二人とも落ち着くんだ。喧嘩は良くないぞ?仲良くしようではないか」
「ちょっと!あんみつからもこの分からず屋になんか言ってよ!アンタの為なんだからさ!」
「大丈夫。あんみつくんは何も言わなくていい。私に任せて」
「おぉぅ・・・」
喧嘩の仲裁なんて、俺にはハードルが高すぎる。
こんな経験無いからストレスで胃酸が逆流してゲボ吐きそうだ。
15年間ぼっち人生を歩んできた弊害がココに来て・・・
しかし天は俺を見離していなかった。
次の授業開始を知らせるチャイムが鳴り、二人の言い争いは中断された。
なんとかミヤビちゃんは大人しく自分の席に戻ってくれた。
それにしても、今まで女子に嫌悪感や謂れのない怒りを向けられ怖い思いをすることは多々あったが、女子同士の言い争いに巻き込まれるのもやっぱり怖いな。
ランちゃんもミヤビちゃんも良い人だから安心してたけど、ああいう場面だと怖くてどうすれば良いのか分からなくなるぞ。
そもそも、何でこんなことに・・・
確か、俺がヒーローになる為の活躍の場が無くて、困ってるって話だったよな?
なんで俺がダイエットするかどうかで二人は喧嘩してるのだ?
そんなことを上の空で苦悩している間に授業は終わってしまい、お昼の休憩となった。
ランちゃんはいつもの様に他の友達と売店へ行ってしまい、ミヤビちゃんもいつもの様にランちゃんの机を俺の机にくっ付けて、座ってお弁当を食べ始めた。
ミヤビちゃんは普通にしてるけど、先ほど言い争いを目の当たりにしたばかりの俺は緊張していた。
仲直りしてもらうには、どうすれば良いのだ?
うーん。
多分、なぜミヤビちゃんが今の俺(汗かきぽっちゃりさん)を肯定してダイエットに反対してるのかが分からないから、仲直りの糸口が見えないんだ。
だったらココは聞くしかないのか・・・
それを聞いたら、ランちゃんの時みたいに機嫌が悪くならないかな・・・
でも、話を聞かないことには何も変わらないと思う。
俺は今までそういったコミュニケーションから逃げてきた。
どうして、そんなにも俺を嫌うんだ?
ミツオ菌と言って迫害するのはやり過ぎだと思わないのか?
俺はキミに何かしたのか?
俺の何がいけないのか、教えてくれないか?
俺は、キミたちと仲良くしたいんだ。
小学生や中学生の頃はクラスメイト達には怖くて言えなかったけど、ミヤビちゃんは俺を友達と言ってくれた。
友達とは、信じあえることが出来る人間関係だと俺は認識している。
ミヤビちゃんに俺という人間を信じてほしければ、俺もミヤビちゃんを信じて質問するべきだ。
よし、聞くぞ。
「ミヤビちゃん。少し聞いてもいいか?」
「うん?」
「先ほどはどうしてあんなにもランちゃんの意見に反対したんだ? 俺がダイエットすることに問題があるようには思えないのだが。 実際に今までも俺は自分なりにダイエットの為に毎日のジョギングを欠かさずしているぞ?」
俺は質問を投げかけたが、緊張で額や首に汗がダラダラと垂れているのが分る。
ミヤビちゃんは俺の質問を最後まで聞くと、箸を置いて口元を手で隠しながら口の中の物を咀嚼して飲み込むと、机の上に置いてある自分のカバンからタオルを取り出し、俺の方へ向き直ってその手に持つタオルで俺の額の汗を拭ってくれた。
「あんみつくんの汗を拭くの、好き。「あーん」して食べさせるのも、好き。 私だけだから」
「すまない。言ってる意味がよく分からないのだが」
再び俺が疑問を投げかけると、ミヤビちゃんは唇を尖らせた。
怒らせてしまったか・・・?
数秒ほど間を空けて、ミヤビちゃんは説明してくれた。
「あんみつくんは汗かきのままのがいい。汗いっぱい流して一生懸命に頑張る姿が好き。その汗を拭うのは、私だけの特別な物だから」
「んん?」
「それに、「あーん」してる時のあんみつくんの丸々とした顔も好き。その顔が見れるのも、私だけ。 でもダイエットする様になったらそれが見れなくなるから、ヤダ」
言ってる言葉の意味は理解出来たが、ミヤビちゃんの気持ちはさっぱり理解出来ないままだ。
俺の汗や「あーん」に何の価値があるというのだ?
そんな物を欲しがる人間なんて、この世界には俺を含めて誰一人いないはずだ。
俺自身が汗かきの自分を嫌いなのだから。
「それに、最近はこうしてあんみつくんの汗の匂いを嗅ぐのも好き」
ミヤビちゃんはそう言って、俺の汗で汚れたタオルを顔に当てて、匂いを嗅ぐ仕草をした。
その恍惚とした表情を見て漸く理解が追い付いた。
ミヤビちゃん、キミは道を外そうとしている。
同級生のぽっちゃり男子の汗の匂いを嗅いで喜んでる女子高生など、俺が許しても世間が許さない。
俺の様に世間から爪弾きにされるだけだ。
だから、友達の俺が心を鬼にするしか無いだろう。
「ミヤビちゃん。キミの気持ちはよく分かった。 友達として敢えて言おう。キミは間違っている。そんな変態性癖は直ぐに治すんだ!このままじゃキミは俺の様な人間失格の烙印を押されてしまう! 決めたぞ!俺はダイエットする!ピザもコーラも断つ!ミヤビちゃんを真っ当な人間に戻す為に、俺は、痩せる!」
「むー!」
俺が宣言すると、ミヤビちゃんはほっぺをプクーと膨らませて、不満の声を漏らした。
かくして、この日から俺は長年こよなく愛してきたピザとコーラを断ち、本格的なダイエットを始めることとなった。
そして、俺の思い描いていた成り上がりのヒーロー物語からは更に遠のいていることに、俺はまだ気付いていなかった。
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