ラブコメ編

#06 新たなステージ




 初めての実戦から1ヵ月が経ち、夏休みも今日で終わる。


 あの日以降、特殊スキルを使うような場面に遭遇はしていないが、次の日からの肛門挿入訓練は、左手でやっている。

 今までずっと右手でやっていたが、どうも右手よりも左手のが成功率が高い様なので、そうすることにした。

 そして、今では失敗して躊躇いキズを付けることもほぼ無くなり、おケツのお肌的にも改善しつつあった。


 因みに、夜のジョギングも休まず続けているが、あれ以来ちぃたんを見かけることは無かった。

 夜に見かけないということは、家に居るのだろう。

 家族仲良く過ごしていることを、切に願う。



 ◇



 夏休みの間は、宿題と修行とピザの日々だった。

 友達居ないし、妹は冷たいし、遊ぶ相手が居ないからな。



「ヒーローとは、孤独との闘いである。」


 ちょっと格好付けて言ってみた。


 うむ。

 結構しっくりくるな。

 キャッチコピーはコレに決めた。

 将来、テレビや雑誌の取材を受けたらこのキャッチコピーで行こう。




 キャッチコピーはともかくとして、肛門挿入の成功率がほぼ100%となった今、難題は全てクリアしたと言っても良いだろう。

 浣腸マスター、否、スキルマスターとなった俺は、向かうところ敵なしのはず。


 そして、明日からは2学期。ヒーローとしての闘いが本格化することが予想される。


 明日からの闘いに備えて、いつもより3時間早く就寝した俺は、次々と巻き起こるトラブルを颯爽と解決して皆が俺に羨望の眼差しを向ける光景を思い浮かべて、ニヤニヤしながら眠りについた。




 ◇




 翌日の2学期初日、朝。

 俺は、母さんが改造してくれたゴム仕様の制服と、その左ポケットにいちじく浣腸を仕込んで家を出た。


 9月に入ってもまだまだ暑く、教室に辿り着くころには汗で全身びっしょり。 教室へ向かう前にトイレに寄り、全身にファブリーズしてから教室へ向かう。


 教室では、クラスメイト達が夏休み明けの興奮冷めやらぬ様子で賑やかに騒いでいたが、俺はいつもと変わらぬ態度で、自分の席で一人読書をして過ごす。


 俺が特殊スキルをマスターして、ヒーローとなりうる逸材であることがバレては意味無いからな。

 あくまで、ただのぼっちでぽっちゃりさんだと思ってたら、とんでもないチカラを秘めたスーパーヒーローだった!というギャップが重要だと考えているから。

 なので、教室では真の姿を隠して1学期と同じように過ごす。




 この日、担任教師がやってきて朝のHRが始まると、2学期初日ということで、いきなり席替えが強行された。

 席替えにはあまり良い思い出は無いので、俺としてはドコの席でも良いからさっさと終わらせて欲しいイベントだ。



 だがしかし、この日の席替えでは思いもよらぬことが起きた。


 隣の席になった女子から「うお!?隣、あんみつじゃ~ん!よろしくね!」と挨拶されたのだ。


 想定外の出来事に動揺するが、こんなことで動揺しているのがバレるのはヒーローとしては格好悪いと思い直し、冷静を装ってポーカーフェイスで挨拶に答えた。


「うむ。これからよろしく」


 挨拶しながら右手を差し出し握手を求めた。

 ジェントルマンとしての嗜みだ。


「え?握手して欲しいの?」と言いながらも嫌な顔をせずに俺の差し出した右手を掴むが、「なんかヌルヌルする!」と叫び、俺の右手を払いのけた。


「ちょっと!あんみつ!ちゃんと手洗ってる!?」


「さっきトイレでファブリーズした後にちゃんと洗ったが、こうも暑いと手汗で直ぐに濡れてしまうのだ。許せ」


「しょーがないなぁ、今から洗っておいでよ」


 ココは素直に応じて廊下の水場で手を洗う。

 正直に言うと、既に2学期とは言え高校入学して初めてクラスメイトに話しかけられて、嬉しかった。 しかも、同級生にフレンドリーに話しかけられるなんて、小学3年の遠足のバスで隣の席になった坂本君以来だ。


 しかし、気になることもある。

 『あんみつ』ってなんだ?

 まさか、安藤ミツオを略して『あんみつ』なのか?

 俺の知らない内にアダ名を付けられていたのか?

 もしそうなら、俺のフルネームを知ってるということか?

 『あんみつ』ってちょっと可愛いから、俺の思い描くヒーロー像には合わないな。

 でもちぃたんパパから言われた『変態豚野郎』よりはマシではあるか。


 教室に戻り自分の席に座ると、隣の席の女子が「ちゃんと洗った?見せてみ」と言って、俺の手を掴んで掌を確認すると「おっけー!」と言いながら、その掌を握って握手してくれた。


「はい、握手したかったんでしょ?」


 女子からフレンドリーに話しかけられるのも、可愛いアダ名で呼ばれるのも、握手して貰うのも、生まれて初めての経験だった。

 小学5年の妹ですらこんな風には接してくれない。


「ああ・・・女子の手って、こんなにも柔らかいんだな・・・あと良い匂いもする」


 ちぃたんの手はこんなにも柔らかくなかった。小さいうえに握力が俺より強かったしな。

 しかし、この女子の手は、柔らかい。


「なにその感想!あんみつまじウケるですけど」


「そうか、喜んでもらえたのなら何よりだ。 俺は安藤ミツオ。キミの名は?」


「知ってるし!今更自己紹介すんなし!っていうか、私の名前知らずにしゃべってたの!?」


「うむ、すまない。今まで女性に人間扱いされたことが無かったのでな、名前を覚える必要が無かったんだ」


「あんみつギャグまじハンパねーし。さっきから腹筋崩壊寸前ヤバすぎ」


 先ほどからギャグは言ってないんだが。


「私は犬山ランコ。みんなからランちゃんって呼ばれてるから、あんみつもそう呼んで!」


「そうか、ランちゃんって呼べば良いんだな。改めてよろしく」


 再び握手しようと右手を差し出すと、ランちゃんはそれに応じて俺の右手を掴むも、「もうヌルヌルしてるし!」と叫び、俺の右手を払いのけた。



 初めて真面に同年代女子と会話した俺は、極度の緊張で手汗が半端なかった。




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