第29話 『亜   (デミ・ゴット)   神』

オレは、太古の昔にあった出来事でうらみをつのらせ、いつか自分が復活した折にはこの次元うちゅうを崩壊させようと目論んでいる女神―――【不和と争いの女神】と言われている『エリス』を復活させようと躍起やっきになっている『次元の魔女』達から、同じく『次元の魔女』ながらも他の者達とは意見を違わせている【崩壊】を名乗るベアトリクスをかくまっている、そして彼女と一緒に逃げている時にまたしても同じ『次元の魔女』―――【無痴】なる者からいざなわれ、【無痴】“個人”の所有モノと思われる『次元の狭間はざま』で追手達をやり過ごしていた。

「しかしそれにしても―――なぜお前は他の者達と歩調ほちょうを合せなかったんだ。」

「『歩調ほちょう』……って―――まあ私も【干渉】や【怪復】となら合せても良かったかなと思うわよ歩調ほちょうをね、だけどね…笑っちゃうんだけどこの私が“主軸”―――なんだって。」

「“主軸”…つまりお前が仲間であるヤツらの中心となって、この次元うちゅうとやらを崩壊させようとしている危ないヤツを復活させる―――」

「そ―――簡単に言っちゃえばね。」

「(…)おかしな事を聞くようだが、お前があの連中の中心人物だと言うなら、何故今更そんな事にそむくんだ?」

まあーーーそれがに抱く疑問よね…けど私からしてみたらじゃないんだよなあ……「あのさ―――あんたにも聞いてみるんだけども、だったら『女神エリスの復活』ってどうやるの?」

「(―――ん?)それってどう言う…」

「一口に『復活』って口にするけどさ、?太古の古い歴史書にはこうある―――『女神エリスは他の神々とも争いを起こし、ついに敗れてこの次元うちゅうより遥か遠くに追放されり』…私達『次元の魔女』の間ではそれは56億8千万年前とされている…。」

「(!)56―――…」

「そんな存在をさ、一口に『復活させる』って言うけれどだったら?!直接復活させるっていうのが難しいなら限られた方法でしかない。」

「それって―――…」

そう言う事だ、その女神エリスの由来となるモノを『次元の魔女』の“主軸”と成っている【崩壊】に持たせればいい、そしてある程度の“きっかけ”となるモノが溜ったらそれを引き金として【崩壊】の身体をしろにして『復活』させる……女神エリスに心酔している【怪復】や【干渉】などの他の魔女達はどうかは知らないが、は…ベアトリクスはこれまでつむぎあげたものを奪われるのが嫌だったのだろう、目の前に突き付けられた現実から逃避にげ出して来た…

「冗談じゃないわよ…確かに私の半生はんせい、面白くない事ばかりだったけれど、面白くない事ばかりだった訳じゃない―――私は今まで色んな次元世界せかいを渡り歩いてきたけど、その中でも気に入った次元世界場所があってね…いでそこで“運命の友人”にも出会えた、もし私が人身御供ひとみごくうとなって女神エリスのしろになったらそうした思い出も…なにもかも―――」

「(…)はあーーーわーかった、これも行きずりだ最後まで付き合ってやるよ。」

「…え?いいわよ―――別に…付き合って貰わなくても。」

「オレの母さん…育ててくれた人からも口を酸っぱくして言われた事があった、オレの目の前で困っている人を見かけたなら、『決して見棄てるな』と―――」

「(…)あんた―――おっさん臭い見かけしてる割りには恰好いいことを言うわね。」

「放っとけ―――それより、聞いていたなオレ達の話し。」


「ほう、このワレも巻き込むかね。」

「成り行き上オレ達をかくまってくれたんだからな、ここまでの事は刷り込み済みなんだろう?それともなにか―――何も考えなしでオレ達をかくまったって訳か。」

「フッ…ワレは『無知』だからな―――こうなるものだと至らなかった…」

「ちょっと―――あのねえ?」

「だが面白いではないか?ワレは『無知』ゆえにこそ知りたくもある…このワレのした事の先に待つ『結末』というものを。」

何だろう―――こいつ…不気味だ、不気味過ぎる。 確かに未知なるものを知りたくもなる―――と言うのは魔法使いの“さが”とも言い切れはしないけど…けれどそれを差し引いてもこいつの言動は不気味だった、『次元の魔女』であり【無痴】のを持つこの“少女”…

「それより、以降ワレを呼ぶ時は名で呼んでもらおう、【無痴】でも構わぬが一応ワレも名を持っているのでな、ワレの名―――『ジイルガ』と呼ぶがよい。」

「ほおう―――珍しい事もあったもんだな、【怪復】って言う『次元の魔女』は名前なんぞと言い張っていたが…」

「『名』は、その者のていを現わす―――よってしんさかしき者はそう易々やすやすと名は明かさんものだよ。」

「そう―――なのか…?」

「けど、は名乗った―――どうして?」

「名を、明かさぬのは他人を信用してはおらぬ証拠、故に知らぬ者に名を明かすのは余程のお人好しか凡愚ぼんぐであろうな。」

「へえ…だったらあんたは―――」

ワレは、『知』っているからな、ナレらの事を。」

「妙な言い方をするな、あんた確か【無痴】じゃなかったのか。」

話しの流れで私達はその“少女”が『ジイルガ』と言う名前だと言う事は判った、判ったのはいいのだがその“少女”―――ジイルガが【無痴】だと言う事がどうしてそう呼ばれるようになったのか…それが話されたのだ。

「ああ、ワレは【無痴】だよ、それは今以いまもってしてなおそうと言える―――そもそもワレは…いや、はその最初から『無知』なる存在だ、最初から至れた存在など原初げんしょの神々くらいでしかない、しかし我々を産み出した時、神々は我々を『真っ白』な状態で産み落とされたのだ、何故だと思うね?原初げんしょの神々は知っておいでだったのだ、所詮“我々ファースト・ジェネレーション”は“原初のオリジナル”よりは劣る…故に原初げんしょの神と同じ様に産み出してはそのうち破綻はたんひんする事をな、だから『真っ白』で―――『純真無垢』で―――『無知』であるように創られたのだ。」

「(ん~?)なんで―――またそんな面倒臭い事を…」

「『無知は、罪』そう言う事ね…」

「(ん?)なんだそれは―――ベアトリクス。」

「『無知は、罪』…知らない事は罪を犯しているに等しい―――そう言う考え方よ、だけどねこの考え方には続きがあるの。」

「その通りだ―――ただ、無知である事は恥ではない、皆誰しもが生を受けた時から『真っ白』な状態であるのだ、なればナレは見た事があるのかね、母胎ぼたいより取り出されてすぐの赤子が、“泣き声”よりも前に“言葉”を発するのを。」

「そんなの―――見た事も、してや聞いた事もないなあ…」

「『言葉』と言うものは、ある意味他人が発しているのを見様見真似みようみまねで発して出来るものだ、赤子ならば近くの―――取り分けて自分の親とか、な。 その耳で親が発している会話を『知』り、そして真似をしていくようになって、それを聞いた親が言うものよ…『一体どこで覚えて来たんだか』―――と、な。」

言われてみれば、オレは『話している事』『喋っている事』その殆どが周りの大人達の話している事を聞き、そして話すようになった―――それに今現在[英雄]として剣を振っているのも母さんから教えられたからだ、そう―――つまりオレは自分から為した事などない、他人から…大人達から教えて貰う事で『知』ってきた、この少女の言うように『真っ白』な状態から色々な事を『知』って行く事で…それが今の―――[英雄]としてのオレ……

「『一体どこで覚えた』―――のではない、子供と言うのは『真っ白』だ『純真無垢』であるが故にこそ、その吸収力も半端なものではない、“”かろうが“わる”かろうがおやなる存在に近づくために『知』ろうとする、故にこそ子供は『世界の宝』だと呼ばれるのだ―――そうは、思わんかね。」


『無知の知』―――という言葉がある、その意味は『私は、知らない事を、知っている』…そう言った意味だ、確かにこの少女が言っていたように私達はその最初からなにもかも知っていたわけではない、むしろその最初から知っている存在こそが『神』なる存在なのだ。 それに神が次世代を産んだ経緯も判る、確かに神は万知万能だがそれでもやれることは限られている、それが『次世代を遺す事』…今現在では大小を合せるとおよそ『八百万やおよろず』と言う数がいるが、そもそもその始まりはたったの数柱でしかなかったはずだ、けれどもそれだけの数に増えたと言うのは『次世代を遺せた』からと思う者もいるのだろうが、実際の処はそうではない…原初げんしょ1柱ひとりである『彼女』は自身を分かち『天空』を創り出した、そして『天空』を伴侶に持ちその後『時空』を産んだとされる、その『時空』も子神こどもに幽閉され、今は冥界で大人しくしているのだとか……

それよりも、あれ?どうして私…こんなにも神の事情に詳しいんだろう―――けどまあ、あれね、きっと多くの書物を読んだりしてきから、きっと…記憶の片隅に残ってた事だった―――から…


今はまた、ほんの少しばかり“きっかけ”を与えてやったに過ぎぬ、故にこれでい、他の者共はズレた感覚で師の事を受けれておったが、ならば次元を崩壊させたその先の事は考えているのか。

ナレらが憎んでおるこの次元うちゅうも、いわば師エリスと他の神々が辛苦しんくなされて積み上げられた一つの成果かたちに過ぎん…それを『崩壊』などと―――その行為は他の神々のみならずに師エリスの意思をも踏みにじる行為である事が判らんのか。

それとも……1度真っさらにしてナレらが新たなる原初の神にでも成ろうとしているのか?出来ようはずもあるまいに、ワレ『成り損ないの神』になど―――


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれから幾何いくばくかが経ち、そろそろあの2人が諦めたんじゃないかと思われた時機タイミングに私達は出て来た、けれど―――


「あら出てきたようだわね、と言う事は我慢比べは我等の勝ち―――と言う事なのだわ。」


『諦めた』…どころの話しじゃなかった、それどころかオレ達が出てくるまで『我慢比べ』―――やもすれば永遠に出てこないとも限らなかったのに、出てくるまで待ち伏せていたって事だ、しかも……「厄介な事に新たなる『次元の魔女』様のご登場かい、全くもってオレ達も有名人になったもんだ。」

「有名―――ああ有名だわね、何しろ貴様は大願である主神エリスの復活を邪魔立てしているのだから、だから―――ここは強引でも“主軸”である【崩壊】を連れ帰るまで…なのだわ。」

「いかにも、それに余計な考察をしていると言うのなら一度真っ白な産まれた時の状態にするまで、また“一”からのやり直しは時間がかかるものだけど、ここまでこじらせたならそうした方が早いと言うものよ。」

呵呵かか―――それにしても身内からの裏切者がもう一人おったとはなあ、それにしても何者なのだあやつ…」

「覚えがない―――逆にお歴々れきれきは存じてはいないのか、存じていないと言うのならば【崩壊】をかくまったとが、その身をもっあがなうがいい。」

を追い詰めていたのは当初は【干渉】と【怪復】だけだった、けれど私を取り逃がしたことによりあの2人のどちらかが他の者達に協力を要請したのだろう、私達が【無痴】の個人的空間から這い出てきた時、私を確保する為に集まっていた『次元の魔女』は4人に増えていた。

参ったなあ―――これは…さすがに詰んだかも、しかも抵抗するのが『無駄だ』と言わんばかりに他の『次元の魔女』達は手薬煉てぐすねを引いて待ち構えている、それだとここは一度白旗をげてくだった方が良さそうだ、これまで協力してくれたベレロフォンには悪いけれど、この問題は私の問題…私一人が犠牲になればこれ以上の損害は出る事はない、願わくなら私が私でなくなる前に一目“運命の友人”に……会いたかったなあ―――


「ほう、随分な歓迎ぶりではないか、久しくワレナレらの顔を見れて感慨一入かんがいひとしお―――と言ってやりたい処だ。」

「はあ?何を言ってるの、こんな状況で余裕ぶるなんて逆に滑稽|ルビを入力…《こっけい》そのものよ。」

「―――と言うより、達の顔見知りだと?の記憶にはの事などないのですが。」

初顔合わせとなる4人もの『次元の魔女』達に加え、後から…【干渉】と【怪復】も現れて来た、これで現在の処6対1―――状況的にはかなりまずい、周りを囲まれている上に皆一様にして殺気立ったギラついた目をしている、こいつは…五体満足で戻れるなんて思わない方がいいのかもな…


         ―――そう、思っていたのだが―――


ワレ記憶ことなどナレらにはない―――か…それは当然だな、なによりワレの主目的としているところはナレらの様な『この次元うちゅうをどうするか』と言う事ではない、ワレの主目的こそは―――師の追い求めていた『知』への探求…その事の前には次元うちゅうの崩壊など児戯にも等しいと言うべきよ。」

「な、にぃ?わたし達の主神の願望を『児戯』と抜かすのか!」

「(それより…の『師』?と、は)」

「ああ―――児戯だとも、その余りの下らなさ故にワレは『知』への更なる探究を邪魔されたくなくてナレらとの繋がりを断ったのだ、だからこそワレ記憶ことなど、ナレらに残るはずもあるまい。」


「まっ―――まさかこやつ…」

「今の証言が本当だというのなら…」

「この者こそが『存在しえぬ者』?だ、と…」

「ならばこの存在こそが…」


「そう言う事だ―――【干渉グネヴィア】【怪復デルフィーネ】【壊蘇ヨルハ】【忘殺レイテナ】【錯虚ブリギッド】【捻曲カタリナ】…この【無痴】なるワレこそがジイルガと呼ばれたるが…はて?それにしては数が合わぬものよなあ?あとの2人はどうしたのだ。」


「わ…わたし達の名を―――言い当てるとは…」

「そう言う事でしたか、こそは達の主神であるエリス様に最初に教えを乞うた者、としては遺ってはいたのですが何分吾達よりも随分と太古まえの事ゆえ創作話つくりばなしだと思っていた…いえ、この様子ではみたいです。」

「それに…確かにヨルハ達にはあと2人同胞がいたはずなのに、なのになぜか連絡が途絶えた…」

「まさか―――とは思うが貴様、同胞をその手にかけたと!?」

「何と言う恥知らずな、我等が主神の崇高なる意思、それが判らないとは―――」

「しかしそれなら話しが早い、今この状況は6対3―――いや戦力的には6対1と言うべきか、ならばここは先手を打って…」

オレ達に対し敵意を剥き出しにしている6人もの『次元の魔女』達、オレ達だけでは彼女達の名前まで突き当たるのに大変な苦労をしても辿たどり着けたか怪しいものだったのに、ジイルガは彼女達全員の名前を知っていた、つい先程ジイルガも言っていた事だったのだが本当に賢い者は自分の本当の名前を他人に明らかにしないらしい、しかし本当に信用の置ける者だけに“それ”は明かすと言う…けれど、ジイルガが明かした事によってオレ達の事を信用していない魔女達の事が一気に明らかにされてしまったのだ、それにジイルガが言うのにはあと2人ほど魔女はいるらしいがそいつらが来ていない理由とは何があるのだろうか…

けれどここで事態が一気に動き出した、自分達の『真の名』を明らかにされてしまった魔女達が圧倒的数的不利に陥っているジイルガに制裁を加えようとしていたのだ、それを見たからこそオレは……

「ほう―――このワレの『盾』になろうと言うのかね、それは殊勝しゅしょうな事だ…だが邪魔だ、退きたまえ。」

「そう言う訳にはいかないだろう、先程の数字にオレは加えられていないかも知れんが、それでもオレは…」

「なにかね?するとナレワレ窮地きゅうちに追い込まれていると?これは愉快な……このワレが[英雄]如きに心配されるようになるとはなあ。」

そこで―――私は息をんだ…む、しかなかった。 彼女達は自分達の数的有利でもって一気に私達を潰しにかかって来たけれども、6人もの―――私に匹敵するくらいの威力の魔法を…「(掻き消した?いや―――これは…)」


「バ―――バカな、ヨルハ達の魔法が!」

「あやつの掌の上で展開しおる“くすぶっているもの”に…」

「集約―――され、た?」

「(それも圧縮されて…)ここまで―――と言うのですか、達との実力差の開きと言うものが。」

「わたしは認めない…認めてなるものですか!“今”はダメでもいずれ機会は訪れる、その時まで首を洗って待っている事ね。」


「これ以上不毛な争いは望まぬ―――と言うのか、それは賢明だ…だが絶望的な事を敢えて聞かせてやろう【干渉グネヴィア】よ、今ナレは『いずれ機会は訪れる』と言っていたようだが、それはワレが死した後―――と言う希望的観測きぼうてきかんそそく。」


「な―――何よ…それ、あんたも生きとし生ける者ならば寿命の概念はあるでしょう、なのに『希望的観測きぼうてきかんそく』?」


「『寿命』……そうであったな、ああ、―――随分な太古むかしの事ではあるがな。」


「ちょ、ちょっと待つのだわ、その言い方だとような―――」


「おや、そう言わなんだか?ナレらにも判り易いように言って差し上げたのだがね。」


「待って…下さい―――では何ですか、は神に成ったとでも…?」


「“人”の身でありながら“神”に?ワレがそのような破廉恥はれんちな事を望みでもしたと一言でも言った事があるのかね、この次元うちゅうを崩壊させたのちみずからが神に成ろうとしているナレらと一緒にして欲しくないものだな。」


「ヨルハ達の計画が―――発覚し《バレ》ているだと?!」

「しかし妙な…貴様に寿命の概念がないのだとするのならば、貴様は一体何だというのだ!」


彼女達のやり取りで一つだけ私の内で思い当たる節があった、そもそも神には寿命の概念はない―――が、しかし『死ぬ』ことはままにしてある、けれども再度ふたたび復活しまた神としての活動を続ける…『死』ぬ事はあっても決して『滅』んだりはしない、『永劫不滅』―――それこそが神の…“ことはり


ただ―――その昔…興味本位で弟子の手伝いをしたことがある…“人”にして『人』にあらず、“神”にして『神』にあらず―――後世こうせいひとはそれを呼んだ…


         ―――「『亜神デミ・ゴット』」―――


その、魔女ベアトリクスの一言で場は波を打ったように静まり返った………


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「我が高弟ハイ・ディスクリプトジイルガ、君の研究は進んでいるかい。」

「これはマスター…ええですがしかし、わたくし達常命じょうみょうの眷属如きではマスター達みたいな“永遠”は得られない、ただ“永遠”を得られるすべはあるものの、それは所詮『不死』でしかありえません、そう…『不死』―――『不死者アン・デッド』は神の対極に位置する存在であり、不浄ふじょうにしてけがらわしき存在、何もわたくしも『死せる賢者リッチー』と成ってマスターに尽くそうとは思っていません。」

「フフ…可愛い子―――私の教えを曲解きょっかいすることなく正しく理解し、更なる知の研鑽けんさんいそししむ者よ、この私も“母胎はは”なる存在から分かたれた時、この次元うちゅうのあらゆる知を会得しましたが、それも所詮ふるき知。 よいですかジイルガ、知は生きています、君達眷属の様に日々進歩し続けている、新しき知が産まれるのは君の様な知への研鑽けんさん貪欲どんよくな眷属達のお蔭、私も“母胎はは”なる存在から分かたれてより数億年を紡いでいますが、君達におくれない様にしなければ。」

マスターより直々におめにあずかり光栄にございます、しかしなれど、そうはいいますがわたくしの知など所詮師マスター足下あしもとにも及びません、それに先程の議題に立ち戻らさせて頂きますが、このわたくしも何も『死せる賢者リッチー』と成ってまでマスターに尽くそうとは思ってはおりません、ならば“永遠”をつむぐにはどの様にしたらいいのか―――そこで提案です、こちらの案に目を通して頂けないでしょうか。」

「『案』……どれどれ―――ふうむ」

如何いかがでしょうマスター

「(……)ジイルガ―――?」

「まだ論説としては未熟な部分もありはするのですが、そこはわたくしとマスターとで煮詰につめさせれば…と。」

「愉快だ―――全く、愉快だよ…眷属達はくも大いなる可能性を秘めている、ジイルガ、君の説は『“人”の身でありながら“神”に成ろうとしている』…その禁忌きんきにも触れる危険性をはらんでいるけど、よく理解をすれば『“人”にして『人』にあらず、“神”にして『神』にあらず』―――つまり“人”をも超越ちょうえつしながらも“神”に近く成ろうとしている…そう言う事だね。」


    ―――これは“記憶”…遠い日の、在りし日の私の“記憶おもいで”…―――


遠い日の、在りし日の“私”が高弟ハイ・ディスクリプトに言い聞かせている光景が、私の目の前に鮮烈せんれつに視えた、そこにいた高弟ハイ・ディスクリプトの名は奇しくも【無痴】と同じくの『ジイルガ』を名乗っていた。

けれど重要なのはそこではなく、“私”の高弟ハイ・ディスクリプトが師である“私”の為の研究行程こうていを報告、いで相談をしている場面で研究の内容がつまびらかにされたのだ、そう―――『“人”にして『人』にあらず、“神”にして『神』にあらず』…それが『亜神デミ・ゴット』の基本的理念だったのである。





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