第31話 ユリウスの謝罪

 一呼吸置いてからドアが開き、ユリウスが食事をカートで運ぶ使用人と連れだって入ってくる。

 カートにはミルク粥と紅茶が載せられており、使用人はアイリのテーブルにそれを配膳すると、ユリウスに一礼して部屋を後にする。

「ありがとう、下がっていいよ」

 使用人は声をかけられたのが少し嬉しいのか口角を上げてお辞儀をし、部屋を辞した。その様子を見ていたアイリが目を瞬かせる。

「アイリ、起きてたんだね。具合はどう?」

「ええ、少しだるいくらいで、後は平気です」

「よかった」

 ユリウスはアイリのベッドの側に椅子を持ってくるとそこに腰かける。アイリは気絶する前、ユリウスを無下にしてしまったことを思いだして気まずくなった。

「……ユリウス様、私」

「ごめんなさい」

 アイリが答える前に、ユリウスは頭を深く下げて謝った。アイリは何のことかわからず目を丸くしてしまう。

「ごめんなさい。俺、アイリのことでいっぱいになってて、他のみんなのこと全然考えてなかったよ。だからレオにもオルヴォにもいっぱい迷惑掛けて、それがアイリは許せなかったんでしょ。だから、そういう風に嫌な気持ちにさせちゃったの、ごめんなさい」

 そんな風に謝られるとは思っていなかったから、アイリは戸惑ってしまう。いつもいたずらばかりで人を振り回してばかりのユリウスが、自分の非を認めているのだ。

「ユリウス様、そんな、頭を上げてください」

「ううん。俺、ちゃんと悪いところ直すからさ、アイリに、みんなに迷惑掛けたり、嫌な思いさせたりしないように頑張るから。だから、……許してほしいんだ」

 まっすぐにユリウスに謝罪の意を示されて、アイリはどうしていいかわからなくなる。だって拒んでしまったのはアイリの方なのに。ユリウスを嫌と思ってしまったのはアイリなのに。

 ごめんなさい、と言われることにアイリはとても戸惑っていた。

「私こそ、申し訳ありません。あなたの気持ちも考えずにひどいことを言ってしまって。私の方こそ、ごめんなさい」

 お互いに頭を下げ、謝り合う。あんな風に嫌な気持ちを言ってしまった自分がとても恥ずかしい。だから、こうして謝られると、ひどく悪い気持ちになってしまう。

「……ねえ、アイリ」

 そっと、ユリウスが聞く。アイリが頷けば、不安げに紅い瞳が揺れる。

「仲直りって、これでいいのかな」

 あどけなく、不安げに問うてくるユリウスに、アイリは仄かに胸が温まるような心地がした。ふわふわとした綿毛を胸で温めているような、柔らかく心地のいい感触だった。

 アイリは静かに頷いて、目を細める。

「ええ。きっと、きっとそうだと思います」

 気持ちが、ふわふわとわき上がってくるような心地だ。伝えたくて、温もりを伝えたくてたまらないのに、それをどんな言葉にして言えばいいのかわからない。

 アイリは困ったように眉を下げた。

「こういうとき、どんな風に言えばいいんでしょうか。すごく、温かくて、柔らかい感じ……」

 アイリは必死に言葉を紡ごうとするが、どういっていいのかわからない。そんなアイリに、ユリウスはくすぐったそうに笑いながらきっと似合うだろう言葉を教える。

「きっと、ありがとう、っていうんだよ」

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