幸せを運ぶ花

ソードメニー

第1話 命の誕生

 日が暮れかけの頃、静かに僕は誕生した。僕を作った彼女、ヒナギクさんは僕を見て言った。

「君は、どこまでも澄んだ目をしてるから、名前は“ソラ”」

初めて名前を呼ばれたこの時、静かに誕生したんだ。それから1週間経った今でもその事をはっきりと覚えている。懐かしむ僕の首を咥え、運ぶ者が現れる。僕は声を上げて抵抗したいけれど、思いは声にならない。何故なら、僕は猫のぬいぐるみだからだ。僕と共に僕を咥えた者が抱きかかえられる。

「ミィちゃん、お友達には優しくしてあげてね。ほら、ご飯の時間だよ」

ヒナギクさんはそう言って煮干しが入った皿を床に置く。“ミィちゃん”は、僕への興味をわすれ、煮干しが入った皿を目掛けてまっしぐらに走る。まさに猫まっしぐらである。僕は寂しさを感じる。その時、ヒナギクさんは僕を撫でる。

「痛かったよね。ごめんね。ミィちゃんも悪気はないの。さ、一緒にお茶でも飲んで気分転換しましょ」

ヒナギクさんは、僕を席に座らせて、向かいの席に座る。淹れたての紅茶が入ったポットを持つと、カップに注ぎ入れる。台の上には、花瓶に一本の花が活けてある。なんて言う名前の花かは分からない。ヒナギクさんはお菓子を一口食べ、僕に向かってほほ笑む。

「美味しいね、ソラくん」

僕は嬉しさを感じる。それと同時に美味しさを共有できないことに悲しさも感じる。僕も物じゃなくなれればいいのに・・・。そう思う今日この頃である。

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