幸せを運ぶ花
ソードメニー
第1話 命の誕生
日が暮れかけの頃、静かに僕は誕生した。僕を作った彼女、ヒナギクさんは僕を見て言った。
「君は、どこまでも澄んだ目をしてるから、名前は“ソラ”」
初めて名前を呼ばれたこの時、静かに誕生したんだ。それから1週間経った今でもその事をはっきりと覚えている。懐かしむ僕の首を咥え、運ぶ者が現れる。僕は声を上げて抵抗したいけれど、思いは声にならない。何故なら、僕は猫のぬいぐるみだからだ。僕と共に僕を咥えた者が抱きかかえられる。
「ミィちゃん、お友達には優しくしてあげてね。ほら、ご飯の時間だよ」
ヒナギクさんはそう言って煮干しが入った皿を床に置く。“ミィちゃん”は、僕への興味をわすれ、煮干しが入った皿を目掛けてまっしぐらに走る。まさに猫まっしぐらである。僕は寂しさを感じる。その時、ヒナギクさんは僕を撫でる。
「痛かったよね。ごめんね。ミィちゃんも悪気はないの。さ、一緒にお茶でも飲んで気分転換しましょ」
ヒナギクさんは、僕を席に座らせて、向かいの席に座る。淹れたての紅茶が入ったポットを持つと、カップに注ぎ入れる。台の上には、花瓶に一本の花が活けてある。なんて言う名前の花かは分からない。ヒナギクさんはお菓子を一口食べ、僕に向かってほほ笑む。
「美味しいね、ソラくん」
僕は嬉しさを感じる。それと同時に美味しさを共有できないことに悲しさも感じる。僕も物じゃなくなれればいいのに・・・。そう思う今日この頃である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます