第2話 状況確認をしよう話はそこからだ①

「はっ!?」


誰かに呼ばれた気がして、私は勢いよく飛び起きる。周囲をきょろきょろと見渡すが当然ながら先ほどの声の主は見当たらなかった。広がるのは薄暗い洞窟。時折コウモリだろう羽音とさらに奥からはおそらく水が流れているのだろう。流水音が聞こえてくる。場所と相まって少しばかり薄気味悪く聞こえた。


「っ…気味が悪い…」


僅かに感じる程度にまで収まった不快感と軽い頭痛に頭を抱えながら立ち上がり、出口に向かって歩き出せば靴底に砂が擦れる音が聞こえた。


ざっ


「それにしても…」


ザッ…


「なんで"私"こんなとこに…」


ざっ


ザザッ…


「来てたんだっけ…?」


確か怪物と出くわして見えない何かに触られたことは覚えている。


そもそもだ、そもそも何故ここに来たんだっけ。


頭の中がぼんやりと霧がかっているかのように上手いこと思いだすことが出来なくなっている。これは困った。


そんなことを考えながら出口へ向かって歩いていけば洞窟から抜け出すこともそう困難ではなかった。ああやっと外に出れた。そう思ったその時だった。


「ザイーーーーード!!よかった!!」

「ぐえっ!!」


光の中にやっと戻れたかと思えば、そんな叫び声と共に小柄な影が勢いよくこちらへ向かってきた。暗闇に慣れ切ってしまった瞳でははじけ飛んできた相手を避けることは出来なかったようで、何者かのタックルを直で腹にくらいヒキガエルがつぶれたかのような無様な声が喉からこぼれた。


「あれ?ザイードが珍しく避けない…まあいっか!抱き着けてラッキー!」

「おいこらロジー!ザイードは洞窟から出て来たばっかなんだぞ。目が慣れてないから避けれなかっただけだろ。つか離れろよ、いつもみたいに殴られるぞ」

「もーデュオうるさーい。ザイードが突き飛ばさないんだからイイってことでしょー?アタシに指図しないでくれない?」


少しばかり腹から痛みを感じつつ、私は視線を自分の腹あたりまで落とせば金髪ツインテールでくりっとしたかわいらしい碧眼の女子が自分に幸せそうに抱き着いている。少し猫っぽい雰囲気がする。顔立ちは美少女といった見た目だが、話し方や態度から不良少女のようなものを感じる。


そんな彼女に対して呆れたように肩を竦めるのは、赤髪に白のメッシュを入れている青年だ。目つきは悪く身長もそれなりにあり、見るからにヤンキーといった雰囲気である。


ロジーと呼ばれた女子は嬉しそうな表情を私の方へ向けており、思わずゆっくりと瞬きをしてしまう。するとロジーはにこにことしたまま同じようにゆっくりと瞬きをした。猫ちゃんかこの子は。そんな呑気なことを一瞬考えるが、考えた所で状況が把握できるわけではない。


「なんだこの状況は…」


私がそうぼやけば、デュオと呼ばれた青年は「ほら、早く離れねえと殴られるって」とロジーの腕を掴んで引きはがそうとする。


「ちょっと!触んないでよ!」

「触んねえと離れねーだろお前!」

「アタシに触っていいのはザイードだけなんだから!」

「ま、まあまあ二人とも落ち着いて…」

「え?」

「ザイード?」


私が二人に声をかけると、ロジーはきょとんとした顔を向けてきた。デュオも名前を呼んで少し不思議そうな顔で見てくる。何がおかしいのだろう?つられて私も不思議そうな顔をして少し首をかしげてしまう。単純に二人の空気が険悪になった気がしたから止めただけなのだが。


そうしているうちに目が光に慣れてきたのか、周りの状況を通常通り認識することが出来るようになってきた。


場所は洞窟前で間違いないようだ。周囲は木々が生い茂っていることからファンタジー世界にある洞窟ダンジョン前のような印象を受けた。そして、自分の腰にしがみつく女子と、自分とそこまで背丈は変わらないだろう青年がこの場所に居る。


ん?ちょっと待て……自分の腰に……?背丈は変わらない……?


じわじわと頭の中の霧が晴れて行く感覚と共に、落ち着いて私は自分の手を確認する。節ばった大きい手だが、指は長い。整った手をしているがところどころ傷跡が見える。これは切り傷と…


「え?殴り傷?だよね?なんで?」

「?」


ロジーが不思議そうな顔をして見上げてきている。彼女の顔を見る時、当然ながら視線を落としたわけだが、自身の胸は真っ平でわずかなふくらみも無い。


「まって!?」

「?!」


胸無くない?!私のささやかながらあった胸はどこに!?


動揺のあまり声を張り上げればロジーは目を丸く見開き、一瞬びくっと体を震わせた。そんな彼女の様子に気が付いてはいるが、声をかけてあげる余裕は今の私にはない。


真っ平になっている胸にぺたぺたと手を当てればちゃんと鼓動を感じることが出来た。どうやら造りモノではないうえに夢でもないようだ。


「(お、お、男になってるー?!)」


頭の中の霧が、見事に晴れた瞬間であった。



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〇追加キャラクター簡易メモ


【ロジー】

女/156㎝程度/17歳

一人称:アタシ

二人称:アンタ、呼び捨て

外見:金髪碧眼の猫っぽい雰囲気の美少女

性格:強気なヤンキー少女。デュオが口うるさくて面倒だと思っている。こいつがいなければザイールと二人きりなのに…と今は思っている。


【デュオ】

男/178㎝程度/18歳

一人称:俺

二人称:お前、呼び捨て

外見:赤髪に白メッシュが入っている見るからにヤンキー

性格:悪いやつではないがヤンキーなので喧嘩っ早い。ロジーとよく言いあっているようだ。


【ザイード】

絶賛置いてけぼり中

性別:男(魂女)

身長:182㎝

外見:健康的な褐色肌に黒髪つり目のイケメン


性格(記憶戻る前)

・俺様であまり性格が良いとは言えないタイプ

・どちらかというとドSのいじめっ子気質

・高飛車


性格2(記憶戻った後)

・礼儀正しく真面目

・穏やかすぎるが故に気が弱いところがある

・恋バナが大好き

・性別問わず「愛」や「恋」は尊いものだと考えている


※作者はザイールの性別は「性別ザイード」として考えています

※キャラビジュアル(ノート記事内一番下の画像)

https://kakuyomu.jp/users/arigaaltuto/news/16817330655401487887




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