第六話 ベルクを追放した後1 チャン視点


 ダンジョン内で『お楽しみ』を終えたチャンは脱ぎ捨てていた服を着ると、自然と笑みが溢れた。


 自分は今、欲しいものは大体手に入れた。

 S+級ブレイカーという肩書き。

 ダンジョン攻略の報奨金で稼ぎまくった金。

 裸のまま仰向けになっている二人の女。


 たしかに世界で一番ではないかもしれない。

 ブレイカーの階級は最大でSSS級だし、自分より金を持ってる奴はたくさんいるし、女だって五人とか十人とか侍らせてる男はいるかもしれない。


 しかし、そこまで望まなくても今のままで十分すぎる。

 あとはゆっくりSSS級を目指せばいい。占いなんかに頼る必要なんてない。


「なーにニヤニヤしてんのよ」


 パルが起き上がって、短い髪を手で梳かしながら、呆れたような口調で言った。右の乳房には歯形がついている。チャンがつけたものだ。


「別になんでもねーよ。しかし一匹たりともモンスター出て来なかったな」


 チャンは、パルが怠そうに服を着るのを眺めながら言った。女を脱がすのも好きだが、服を着ているところをぼーっと見ているのも格別だ。


 パルとグインの一方を監視役にして、もう一方と『お楽しみ』を行い、終わったら交代させて再度『お楽しみ』を行っていたのだが、結果としてそこまで警戒する必要など全然なかった。


「良かったじゃない。邪魔が入らなかったんだから」

「そりゃそうだけどよ。なんかこのダンジョン、深いわりに敵が少ない気がするんだよなあ」


 ダンジョンの深さは危険度と相関する。これはブレイカーの常識だ。

 ゲートから出てきたモンスターはダンジョンの中を進み、やがてダンジョンから人間の住む世界へと出てくる。


 だから、深いダンジョンの中には、それだけ多くのモンスターが蠢いているはずなのだ。

 さらに、たいていにおいて、深いダンジョンには強いモンスターが出現する。なぜかは分からないがそういうふうになっている。

 それなのに、今自分たちがいるダンジョンにおいてはそれほどモンスターと出会わなかった。出会ったとしても強くないモンスターばかりだ。


「もう。汗でベタベタする」


 今度はグインが起き上がった。裸体に髪の毛が貼り付いていて、とても扇情的だった。


「汗だけじゃないだろ?」

「ばか」


 グインが頬を紅くして、横を向いた。その姿が愛おしくて、チャンは股間が熱くなるのを感じた。


 そして、そんな愉しい時間を噛み締めていた時だった。


 ——ズオオオオオン。


 と大きな音と振動がダンジョン内に響いた。


「な、なに? なに?」


 パルが動揺する。今まで何度もダンジョンを攻略しているが、こんな凄まじい音がしたのは初めてだった。

 チャンは音がした方に視線を向けた。今のところモンスターは見えない。


「グイン、早く服を着ろ」

「了解」


 グインに指示をして、チャンは地面に放っていた長剣を手に取る。パルも残りの服を急いで着てから、槍を手に取った。


「この音の正体はよく分からんが、ゲートを壊してしまえばダンジョンからは脱出できるんだから、とにかく前に進むぞ」

「そうね。それが一番いいと思う」


 ——ズオオオオオン。


 また音と振動が響く。さっきより大きい。近づいてきているようだ。


「お待たせ」


 グインが鉤爪を両手につけながら言った。


「よし、行くぞ」

「うん」

「了解」


 三人でダンジョンを進んでいく。チャンは撤退するつもりなどさらさらなかった。


 S級というランクはそんなに安いものじゃない。何年頑張ってもたどり着けないような人がわんさかいる。しかしここには、S級以上のブレイカーが三人も揃っているのだから、ダンジョンの攻略なんてできて当然だ。失敗したなんて噂が広まったら、笑い者にされてもおかしくない。


 ——そもそも、失敗なんてするわけない。


 チャンは長剣を強く握り直して、轟音が鳴り響く方へと進んだ。

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