第1話 設定ガッツり語りがち
ラノベーション。それは、20XX年に起きた革新を指す、ライトノベル+イノベーションからくる造語である。曰く、ライトノベル世界へのダイブ。これは、さらに二つの技術の特異点到達によって成り立っている。
一つは、201X年頃から注目を浴び始めた
Narrative Advance Assist Learning Operation Writer(人工知能による作家支援)
通称、NAALOW(ナーロウ)システムと呼ばれた。
このナーロウシステムは流行小説の分析、フィードバックを繰り返し、投稿された小説をスコアリングして、売れる作品以外を淘汰し、選別を行うことで人件費の節約に寄与するはずだった。しかし、この大仰なネーミングに反して、このシステムは実装当初、控えめに言ってポンコツだった。主人公の性格やヒロインの容姿、敵方の残虐度など様々なスコア項目で誤判定を出し、出版した本は大爆死。作者サイドからは当然の如く内容の開示を求められ大炎上。運営会社であるオメガパレスは倒産の一歩手前まで追い詰められた。
しかしそこは歴戦の雄。オメガパレスにはまだ、人力選考の眼力が残っていた。伝説の編集者達が結集し、一致団結して世に送り出した作品が『go(o)d-bye earth ~地球の神はブラック過ぎるのでお前ちょっと代われ~』この物語は典型的な地球を舞台にした箱庭系で、地球の神を任された主人公が自分の思いどおりの世界を構築していくという話にこれでもかとテンプレを盛り込み、それでいて作り込まれた世界観が人気を博した。『このライトノベルがキテる』でも一位を獲得するなど快進撃を見せたのである。
この一撃に全てを賭けるとばかりにメディアミックスを展開させたオメガパレスだったが中でも圧巻だったのは、どういう契約を結んだのか、コミカライズを『週刊少年ステップ』で行うというものだった。この形振り構わない手段に主にネット界隈が反応。一般認知度も飛躍的に高まり、アニメ化も大成功のうちに一期を終了した。
これにより息を吹き返したオメガパレスは人工知能、ナーロウの完成に今一時の猶予を与えられたのである。
そして、実装から三年、十分過ぎるほどのフィードバックを経て、新生ナーロウは改めて世に送り出された。ベータ版として無料開放されたナーロウは当初、懐疑的に見ていた作者達の予想を裏切り、ナーロウに高スコアを付与された小説は悉く大ヒットを遂げ、世間ではナーロウ作品群としてもてはやされた。オメガパレスは長き雌伏の時を脱したのだ。
しかし、このスコアシステムに誤算があった。判定アルゴリズムを別のAIによって解析され、ネット上やSNSで、オメガパレス攻略サイトなるものが乱立・拡散されてしまったのである。
高スコアを得る手段が考察と検証を経て開示された結果、何が起こったか。流行の単語を継ぎ合わせたようなパッチワーク作品が雨後の筍のように公開されてしまったのだ。事態に頭を痛めた運営はナーロウに使用料をとったり、アルゴリズムの変更などを試したが、これらは既存の作者の反発を招き、またしても炎上騒ぎとなってしまった。
そして紆余曲折を経て、このAIの進化は数多の技術者たち、多くの創作活動家たちの手によって20XX年、完全に花開く。
それは、AIによる創作活動の完全サポート。元となる文章やキーワードを打ち込み、いくつかの選択肢から自分のイメージに合う状況を選ぶ。そんな作業を繰り返すことで完全完璧に自分好みの作品が僅か1日で完成するのだ。これは、有料サポートであったが、爆発的な支持を得て市場を席巻した。誰でも、名作とまではいかなくとも
――そして、同時期に起きたもう一つの技術革新が、このナーロウシステムを完成形へと導く――
20XX年代初頭にイタリア人研究者、アントニーノ・ガッバーナ、ベルナルド・ガッバーナ兄弟によって提唱された『脳細胞における電気信号の抽出と解析及びその再現』(通称ガバガバ理論)はAIによる無限に等しい試行錯誤を経て、ついに実用化の目途が立った。生み出されたのは体感型VRである。ガバガバ理論を用いた技術により脳に直接信号を送ることで視覚のみならず聴覚、触覚、嗅覚、味覚にまで影響を与える事が可能になったのだ。
この技術は、世界の有り様を変えた。自宅に居ながらショッピング、海外旅行、ゲーム、あらゆる体感型アトラクションが開発され、そしてそれらが一般家庭へと普及するのにそう多くの時間はかからなかった。そしてついに、二つの技術は邂逅を果たす。
ラノベーション。ナーロウが生み出したのは小説としての一つの到達点。
それは、小説へのダイブ。ナーロウが構築した小説世界をナーロウがVRとして再現。もちろん、特許料を支払えば、既刊作品やその二次作品にもダイブできる。自らの手で編集を行えば、その世界の再現度は上昇し、その手の求道者を熱狂させた。物語の構成に至っては二次創作者が無限とも言える派生作品を生み出すことを可能にし、そこにダイブすることはもちろん、人気作品のレビューや動画共有サイトへの投稿、それらを基にしたメディアミックスなど、界隈は大いに沸いた。
そして、ナーロウが生み出した誰にでも作成できるVR世界は、その手軽さからいつしか『インスタントワールド』と呼ばれるようになったのである。
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