第36話 侵入

「ここが目的のオークの集落か……」



「うぅ……ほんのりケモノ臭いですぅ……」



 オークキングの討伐依頼を受けた俺たちは、オークの集落近くに到着していた。



 現在地は王都と帝国の丁度中間地点辺りだ。



「ラルフ君、ルーナちゃん、知ってるとは思うけどオークは人間の雌が大好きなんだ。雌が近くにいるだけで、我を忘れて近づいてくるくらいね……」



 ナイジェルがオークの習性を説明する。



「うぅキモいですぅ……」



 オークというのはどこまでもオークなんだな……



「見たところ、あの集落には100体程のオークがいるが……どうする?」



この数に一斉に襲われたら、ひとたまりもないだろう。



 すると、ナイジェルが任せてくれと言わんばかりに口を開く。



「僕に作戦がある、二人とも耳を貸してくれ」



 俺たちはナイジェルの作戦に耳を傾ける。



「ルーナ、やってくれるか?」



「ぜ〜っったい嫌です!そんなの無理ですぅぅ〜!!」



 ナイジェルの作戦はいたって単純なものだった。



 その名も『ルーナを囮にしてる間に、僕たち二人でオーク達をやっつけよう大作戦』だ。



「ルーナちゃん、この作戦は君に全てがかかっていると言っても過言ではないんだ……正面からオーク達とまともにやり合っても、僕たちは全滅してしまうだろう……でも!君が囮になってくれれば、全員が五体満足で依頼を達成出来るんだ!」



 ナイジェルは熱い眼差しでルーナに語りかける。



 実際問題、ルーナが囮をやってくれた方が討伐しやすいのは確かなのだが……



「でもぉ……もし襲われたらわたし……」



 ルーナは既に気持ちの半分くらいはナイジェルに持ってかれているが、なんとか抵抗を続けている。



「ルーナちゃん、安心してくれ!君の事は必ず守る!ラルフ君がね!」



 いや、俺かい。



「うぅ……わかりました。ラルフさんが守ってくれるなら……」



 お前もそれでいいんかい。



「ありがとうルーナちゃん、それじゃあ作戦開始だ!」





「ハラヘッタ、モンバンヒマ」



「オイ、マジメニヤレ」



 オークの集落入り口前。



 俺とナイジェルは、門番オーク達の会話が聞こえるくらい近くで待機している。



 反対側ではルーナが俺たちのサインを待って、一人で待機している。



「ラルフ君、準備はいいかい?」



「俺はいつでも大丈夫だ」



 ナイジェルは俺に確認を取ると、反対側で待機しているルーナへサインを出した。



 サインを確認したルーナは、一人門番オークの元へと歩き出した。



「ハァ〜イ、オークちゃ〜ん!あなた達の大好きな人間の雌よ〜!」



 ルーナはあんなに嫌がっていたが、いざとなると肝がしっかりと座っている。



 素直に尊敬だな。



「ニンゲン!メス!」



「ハァ……!ハァ……!」



 ルーナに釣られて、二体の門番オークが動き出した。



 その目には既にルーナしか映っていない。



「ちょっとお二人さん!もう無理です!吐きそう!」

 


 ルーナは嫌悪が限界に達し、助けを求め絶叫する。



「行こうかラルフ君!」



「わかった!」



 二体のオークはルーナに夢中になっており、後ろがガラ空きだ。



 俺たちは後ろから近づき、それぞれ攻撃を仕掛ける。



「風の刃!〈ウィンドエッジ〉」



「次元斬!〈ディメンションスラッシュ〉」



 その瞬間、オーク達の頭はゴトッと音を立てて地面に落ちた。


 

「遅いですよぉ〜!二人ともちょっと楽しんでませんでした!?」



 ルーナは囮をするのが本当に嫌なのだろう、俺たちに文句をつけまくる。



「ごめんごめん、さぁこの調子でいこう」



「うぅ〜……次はもっと早く来て下さいね!?」



 こうして俺たちは無事、オークの集落内部へ侵入した。

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