第35話 思惑

「ハァーッハッハッハ!それで哀れにも逃げ帰ってきたと言う訳か!ダグラスよ!」



「ちがう!決して逃げ帰ってきた訳ではない!想定外の事が起こっただけだ!」



 ここはイヴァリス帝国、皇帝の間。



 今、この空間には三人の男が存在している。



 一人目は、イヴァリス帝国将軍ウォーロック。



 二人目は、グランハイム王国第一王子ダグラス。



 最後に、イヴァリス帝国皇帝ガーランド=イヴァリスである。



 たった今、帝国の動向を探ると王国を出発したダグラスが皇帝の間に参上したところだ。



 アルベルトの予想通り、やはりダグラスは帝国と通じていたのだ。



「ダグラスよ、貴殿は王国の将来を憂いていると言っておったな。平和主義の老いぼれには王国を任せておけないと」



 ガーランドは、落ち着いた低い声でダグラスに問いかける。



「その通りだ!今の王国は父上の意向通り、専守防衛を貫いている。だがそれは名ばかりで、兵士の質も悪く、とても他国からの侵略に耐えられるような状態ではないのだ……!」



「ハッ!だろうなぁ〜!ハッキリ言って王国なんぞ、いつでも侵略できるからのぉ!」



 王国の現状を語るダグラスは、とても悔しそうな表情を浮かべている。



 それに対してウォーロックは、自分にかかれば王国など眼中にないと自慢げに語る。



「私の目的は、王国の将来と民を守る事だ。その為なら悪魔にだって魂を売る所存……」



 ダグラスは、そんなウォーロックを睨みつけながら己の覚悟を表明する。



「悪魔ね〜……儂らを悪魔呼ばわりするのは構わないが、約束は必ず守るんだぞ?さもないと王族はおろか、全ての王国民は皆殺しだ」



 ウォーロックは、自分を睨み続ける20代半ばの男に念押しをする。



「わかっている……約束通りアルベルト王を征伐し、このダグラスが王国の新たな王となる……!」





「ハァ……ハァ……!二人とも速すぎですぅ!」



「そうかい?大して本気で走ったつもりはなかったんだけどね」



 俺たち三人は、王都の冒険者ギルドに到着したところだ。



 ナイジェルが競争だとか言うので、ギルドまで走ってきたのだが……



 思っていたよりルーナの脚は遅く、今にも吐きそうなくらい息切れしながら文句を垂れている。


 

「それじゃあ、中に入ろうか」



「ちょっ……!待ってくださいよ〜!」



 ルーナの息が整うのを待たず、俺たちはギルドの中へ入る。



「いらっしゃいませー!依頼の受付はこちらになります!」



 以前来た時とは別人の受付嬢が、元気に挨拶をしてくれた。



「やぁ、Aランクの依頼を受けたいんだけど、何か残っているかい?」



 ナイジェルは小慣れた様子で、受付嬢に話しかける。



 どうやら知り合いらしい。



「そうですね〜、Aランクですと丁度一つオススメの依頼があります!こちらはいかがでしょうか?」



 俺たちは、受付嬢に提示された依頼書を確認する。



「えぇ〜となになに?オークキングの討伐……?」



 オークキングは、オークの変異個体だ。



 オークの群れを統率し、通常のオークよりも頭脳、能力共に優れていると父から聞いた事がある。



「ふぅ〜ん、ラルフくん。これでいいよね?」



「あぁ、俺は構わないが……」



 特に俺の能力なら問題はないため構わない。



 だが一人、この依頼を嫌がる人物がいた。



「オークなんて絶対に嫌ですぅ!こんな純粋で可愛い少女、格好の餌食ですよぅ……もし捕まったら……あぁぁ!弄られ嬲られ続けて、いずれオークしか受け付けない身体にされてしまうんですぅぅ!」



 コミュ障は友達が少ないから、想像力が豊かなんだよな。



 俺も授業中の教室に、突然テロリストが来た時の妄想とかしてたな。



「ルーナ、心配しなくても大丈夫だ。俺とナイジェルがそんな事はさせない」



「うぅラルフさん〜……わかりましたよぉ……絶対に守ってくださいね?」



 守る確約でもさせたかったのだろうか?



 というか、ルーナは強いって聞いてるんだが……



 まぁ、いいか。



「依頼の受注ありがとうございます!それではカードの確認だけよろしいですか?」



 俺たちは受付嬢にカードを提示する。



「おや?ナイジェルさんがAランクなのは存じておりますので問題ありませんが、お二人のランクはFとEなのですね……」



 受付嬢が苦い顔をする。



「大丈夫、彼らの実力はAランクに匹敵するよ。Aランクの僕が推薦する」



「なるほど、わかりました。ナイジェルさんがおっしゃるのであれば、お二人の参加も許可致します。ただ、怪我には充分ご注意ください。それと、命を落としても責任は取れませんのであしからず」



 一応俺たちの参加も許可してくれたみたいだ。



 ただ、やはりこれは裏技みたいなものらしく、受付嬢の顔は穏やかなものではなかった。



「それじゃ、行ってくるよ」



「はい、ご依頼の達成を願っております」



 受付嬢は深々とお辞儀をして、ギルドから出る俺たちを見送った。


 



 


 

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