第18話 正体

「な……何をおっしゃっているのですか殿下!そんな訳の分からない奴に騙されてはいけません!」



「残念だけど僕のスキル『千里眼〈サイトビジョン〉に間違いはないんだ」



 慌てる門番の兵士を見て、やれやれと呆れるナイジェル。



 ナイジェルのスキルで心を読んだ結果だ。



 間違いなくこいつが侵入者だろう。



 だが一応、これ以上言い逃れができないように追い討ちをかけておくか。



「お前が侵入者じゃないって言うのなら、着ているものを全て脱いで傷を見せろ。その傷の深さは生命に関わる。早急に治療した方がいい」



「えっラルフ君……まさかのそっち系?」



 誤解したのか冗談なのか、ナイジェルが口を挟む。



「さぁ、早く脱いで見せろ」



 俺はナイジェルを無視して話を続ける。



 ナイジェルは人生で初めて無視されたのか、隣でションボリとしている。



「う……うるさい変態め!くそ……脱げばいいんだろ脱げばぁ!」



 半分ヤケクソになった門番の兵士が、ガチャガチャと音を立てながら鎧を脱ぎ始めた。



 俺とナイジェルは、目の前で裸になった男の姿を見て吐き気を覚えながらも確信した。



「やっぱりな。なんでお前の身体には傷が一つもないんだ?鎧はボロボロで血まみれだというのに」



 男の姿は、ナイジェルの『千里眼〈サイトビジョン〉』の正しさを物語っていた。



「くそ……くそぉぉぉ!こんな屈辱は初めてだ!俺の計算では、ここで油断した二人を確実に殺せていたのだ……!」



 門番の男は、歯をギリギリと鳴らしながら悔しそうにしている。



「それで、お前は何者だ?」



「俺が何者かだと?」



 そう言うと、門番の男の体中がボコボコと音を立てながら蠢き出した。



「グゥゥゥ……グォォォアアア!」



「なんだこいつ気持ちわる……」



 ナイジェルは、グロテスクな状況にドン引きしている。



 そして数秒後、男の身体つきは全く別人のものになっていた。



 その姿は色白で細身、身長はやや高め。



 そして坊主頭に薄い顔立ちという姿だった。



「俺は十二司将が一人、序列十位メキラと申す。よろしく頼むぞ」



 先ほどまでの雰囲気と打って変わって、凛とした雰囲気を放ちながらメキラは答える。



「十二司将……ゲネシス教か!」



「あぁ、しかもこいつは序列十位だ。油断するなよ?ナイジェル」



 ナイジェルは俺の言葉に頷いて返事をする。



 それにしても、さすがはナイジェルだ。



 やはり、十二司将の事も知っていたか。



 そして俺がナイジェルに感心していると、メキラが口を開いた。



「それでは、そっちの茶髪の少年。申し訳ないが服を着させてもらうよ」



 別にお前の裸が目的ではないんだがと思っていると、メキラは部屋にあるテーブルに手をかざした。



 その瞬間、テーブルがみるみる変形していき服へと形を変えた。



 メキラはその服を手に取り、堂々と着替える。



 その服は袈裟のような形をしており、メキラの見た目は前世でいうところの『僧』のような出たちとなった。



「待たせて悪いな。こちらの準備は整った」



 そう言うと、メキラは独特な構えの体勢を取った。



 前世で似たような構えを見た事がある……



 確か漫画で見たような……ハッ!思い出した!



 確かこれは蟷螂拳の構えだ。



 構えをとったメキラの雰囲気は、より強者の者へ変わっていく。



 でもまぁ俺の能力なら、メキラに遅れを取る事は無いと思う。



 だがなんというか……



 俺はこいつの独特な空気感に気圧されている感じがしている……



「ラルフ君、大丈夫かい?」



 命を狙われているというのに、俺の心配をするナイジェル。



「あぁ、大丈夫だ。心配をかけて申し訳ない」



 ここで気圧されてどうする。



 気合いを入れろラルフ。



 すると、メキラが口を開いた。



「一応聞いておこう」



 メキラは妙な構え方をしながら、こう続けた。

 


「俺の計算では、君たちの勝率は0%だ。だが俺にも慈悲の心はある。そこで、君たちにとって魅力的な提案があるんだが……」



「提案だと?」



 こんな変な男の提案など、どうせロクな物じゃない。



 ん?なんか前もこんな事があったような……



「今なら楽に死なせてやるが、どうするかね?」



 思い出した。



 ハイラと戦った時も、こんなくだらない事を言っていた。



 まったく……悪人というものは全員こうなのか?



「その提案は却下だな」



「そうか、魅力的な提案だと思ったのだが……」



 メキラは提案を断られると思っていなかったのか、見るからに残念そうにしている。



 こいつの頭の構造はどうなってるんだ?



「提案を飲んでくれないのであれば仕方がない。苦しみに悶えることなっても知らんからな?」



 そう言いながら、メキラはニヤリと笑った。



 その顔からは、明らかな殺意を感じる。



「ラルフ君、ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」



 ナイジェルはメキラの方を向きながら、俺に話しかける。



「コイツの相手は僕に任せてくれないかな?」



「なんだって?」



 俺が驚いていると、ナイジェルはその理由を語り出した。



「君の仲間として、十二司将を相手にしても戦えるという事を証明したいんだ。それに、僕の国の兵士が少なくとも一人こいつに殺されている。これは王族として、断じて許せない」



 ナイジェルは拳を握りしめながら、仲間として、そして王族としての強い思いを口にする。



「だめかな……?」



 まったく、カッコつけやがって。



「わかった。ただし、危ないと思ったらすぐに俺も参戦するからな」



「うん、ありがとうラルフ君」



 ナイジェルは一人、メキラの前に立ちはだかった。



「君の相手は僕がするよ。ラルフ君が出るまでもない」



「俺としては二人で来てもらっても構わんのだが……まぁいいだろう」



 ナイジェルとメキラの間に緊張が走る。



「それじゃあ、いくよ!」



「かかってこい!ナイジェル=グランハイム!俺に使徒の本気を見せてみろ!」



 こうして戦いの火蓋は切って落とされた。

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