第16話 謁見2

「まずは、あの時の発言について聞きたい」



「何で君が使徒だと思ったのかって事かい?」



「あぁ、そうだ」



 最初に王都を訪れた時も、デリエラに俺からクソ神の臭いがすると言われた。



 ナイジェルも何かそういった臭いのようなものを感じる事が出来るのだろうか。



「それは単純だよ、僕のスキルで分かったのさ」



 なるほど、スキルか。



 確かにナイジェルは試験の時に予知のようなスキルを使っていた。



「そうか、それでお前のスキルは一体どんなスキルなんだ?」



「う〜ん、まぁ話してもいっか。ラルフ君は信用できそうだし」



 そう言うとナイジェルは、自分のスキル効果について話し始めた。



「僕のスキルは『千里眼〈サイトビジョン〉』っていうものさ。簡単に説明すると、人の心を感じ取れたり、これから未来に起こる事が見えたりするって感じかな」 



「なるほど……という事は俺の事情や目的も最初から分かってたって事か……?」  

 


「そういう事。君の精神がこの世界の人間ではない事や、君が神を殺そうとしてるって事も、更にはその理由も試験の時には筒抜けだったって事さ」



 ナイジェルは人差し指を俺に向けながら、得意げに語る。



 人に指を差すなって習わなかったのか?



 だが、さすがは使徒だ。



 持っているスキルがチートすぎる。



「おもしろそうな子がいるなって思ってさ、スキルを使ってみたらもう驚きだったよ。まさか異世界から転生してくる人間がいて、しかも神を殺そうとしてるんだから」



 ナイジェルはクックックと笑っている。



 だが、その表情は笑っていない。



「ただ、神によって世界がリセットされ続けていたっていうのは知りたくなかったね……」



 まぁ知りたくない現実だよな。



 それにしても、まさか俺の心が筒抜けになっていたとは。



 閉心術のような魔法を覚えた方がいいかもしれない……



 とりあえずだ、ナイジェルは俺の心を読んだ上で、俺の事を信用できると判断した。



 つまり俺の目的にも同意してくれる可能性があるのではないか?



「俺の事が全て筒抜けなら話は早い。ナイジェル、俺の目的に協力してくれないか?」



「神を殺すって目的の事かい?」



「あぁ、そうだ」



 ナイジェルは難しい顔をして、顎に手を当てる。



 そして俺の目を見て口を開いた。



「ラルフ君、君は神がどういう存在か知っていてその上で殺そうと言っているんだよね?殺そうにも、そもそも誰も神を見た事がない。つまり神の元へ辿り着く事すら出来るか分からないんだよ?」



 ん?どういうことだ?



 使徒であれば俺と同じように、神に呼ばれるのかと思っていたがそういう訳ではないのか?



「なぁナイジェル、お前も使徒なんだよな?使徒なら神から直接呼ばれたりするんじゃないのか?」



「ん?少なくとも僕は一回も呼ばれた事はないよ」

 


 なんだと?



「それじゃあ、神から使命を受けているっていう噂は違うのか?」



「それは本当かな。スキルを授かった時に『この世界を繁栄させなさい』って声が聞こえたんだ。その話が広まった結果、多くの人に噂として流れていったんだろうね」



「え、それだけ?」



「うん、それだけだよ?」



 声だけだったら俺も聞こえたが、あの声は神というよりは、システムのような機械的な声だったと思うんだがな。



「なぁナイジェル、その声ってどんな声だった?」



「う〜ん、無機質な女性の声って感じだったよ。神はきっと綺麗な女性の姿をしてるんだろうね〜」



 ナイジェルは目を閉じながら、うんうんと頷く。



 やはりその声は神の声ではないな。



「ナイジェル、それは神の声ではないぞ」



「え、どういう事だい?」



 ナイジェルは閉じていた目を見開く。



「俺は神に二回会った事があるんだ。顔は見えなかったが、人間の体にしては背が高すぎたし、声も甲高い声だったな」



「ラルフ君……それは本当かい……?」



「あぁ、本当だ。だからナイジェルが聞いた声は神が作った世界のシステムのようなものだろう。それと少なくとも、俺は神の元に辿り着く事は可能だと思っている」



 俺の話を聞いたナイジェルは、驚きすぎて目だけでなく口まで開ききってしまっていた。



「それじゃあ、神を殺しに行く事は不可能じゃないってわけだね」



 ナイジェルは気を取り直して、真面目な顔つきに戻る。



「あぁ、だが肝心の神を殺す方法がまだ分かっていない。だから強力なスキルを持っている使徒に協力を仰いでいるんだ」



「なるほど分かったよ」



 そう言うとナイジェルは、大きなため息をついてから口を開いた。



「実は僕もこの世界について、疑問に思っていた事があるんだ」



「どういう事だ?」



 ナイジェルは続ける。



「さっき僕のスキルは、未来に起こる事も見えたりするって説明しただろ?具体的には、パズルのピースのように情報が散りばめられた状態で突然頭に流れてくるんだけどね……」



 俺はナイジェルがこの後話す事が、おもしろおかしい話である事を願った。



 だが、現実は甘くなかった。



「ある日の事だ。僕は、この世界が消滅する未来を見たんだ。しかも戦争や災害が理由じゃない。突然世界が真っ白になって一瞬で消滅するっていう未来さ」



 何という事だ……



 ナイジェルが見たという光景は、確実に神による世界のリセットだ。



 やはり神をなんとか殺さなければ……



 俺がそう考えていると、ナイジェルは更に衝撃の内容を俺に告げた。



「しかもそれは遠い未来の話じゃない。近い未来、恐らくあと数年で世界は消滅する」

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