水流を合わせて
@Natsume_Gusa
第1話 悪と正義
小さな長方形のアルミサッシの下から上へ入道雲が伸びる。
じめじめした蒸し暑さが肌にまとわり体内外が湿っていく。
虎太郎は週刊マンガを小さな手で開きノンフィクションの世界に入り込む。
先週、ヒーローであるセギーマンが悪の秘密結社ワールゾーの幹部に捕まってしまった。
次回セギーマンがどうするのか虎太郎はこの一週間ワクワクしていた。
セギーマンは檻の中で叫ぶ。
「おい、幹部!私を捕まえて一体何が目的なんだ!」
するとドアが開きワールゾーの幹部がカツカツ歩いてくる。
「ハハッ、そんなこと君には関係ないだろう!」
「教えないのならこちらにも考えがある!
必殺!ジャスティス…ソードレイン!」
セギーマンは無数の白い光の棘を放った。
しかし幹部は手を突き出し叫ぶ。
「そんな攻撃、全く効かないねえ!」
そして紫色の不気味なバリアで檻を囲む。
セギーマンの必殺技はバリアに刺さって幹部には届かなかった。
「っ…!」
「負けるなセギーマン!…クッソォ、幹部の奴め!」
虎太郎は漫画を握る指にぐっと力を込めた。
「ならばその身が滅ばぬよう一つだけ教えてやろう」
「何が目的だ」
「我々ワールゾー一族はただ元の生活がしたかっただけだ」
幹部はバリアを解き、セギーマンと面を合わせた。
「我々は、元々誇り高きフローラル人の一部であった。フローラル人は知っているだろう?」
「ああ。フローラル人は穏やかな性格で神に最も近いとされていた人種だ」
「そうだ。しかし、フローラル人の中で我々だけが神に見放されたのだ」
「どういうことだ」
「神は突然我々の住む地域を水に沈めたのだ」
その時一瞬だけ幹部が目を細め視線を下げた。
「我々は何もしていない。であるにもかかわらず、神はいきなり我々を水に沈めたのだぞ。もちろん我々は生きる場所を失った。水の中で救われることもなく死んだ奴だっている。我々は唯一見つけた岸を目指し団結して這い上がった。そしてこの世界を出ていくことを決めた。だが住む場所がない。だから君たちの世界を襲った」
そして幹部は拳を握り力をためて最後にこう言った。
「我々はただ今まで通りの生活がしたかっただけだ」
と。
そして貯めた力をセギーマンに放出しながら叫ぶ。
「なのにお前らは我々がそこで生活することを拒んだではないか!」
と。
セギーマンは一瞬出遅れたがバリアを放ちながら答えた。
「私たちと生活がしたかったなら最初にそう言えば良かったではないか!」
ここで虎太郎ははっと顔をあげた。
「もしかしてワールゾーたちは何も悪くないんじゃないか?
…悪と正義って、何だろう。」
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