第48話 ダンジョンマスターの間で

 巨大な水の塊が波打った。


「危ない!」


 こっちの誰かが叫んだのが聞こえたようにロンドが横に飛ぶ。同時にレーザーのように飛んだ水が

 水流が白い灰色の壁に深い傷を刻み込んだ


『なんなんですか……これは、こんなのがいるなんて聞いていませんよ』


 ロンドがサーベルを構え直しながら言う。


「おい、アトリ、あの蛇みたいなのはダンジョンマスターじゃなかったのか?」

「いや、間違いなくそうだ……こんなのは見たことが無い」


 そう言ったところで思いついた。

 これはもしかしてアップデートか?ミッドガルドは定期的にアップデートがあってモンスターの追加やダンジョンマスターの変更がある。


『どうやらこれはアプデがあったようですね。全く仕事熱心な運営です』


 レーザーブレードのように振り回される水流をロンドが躱しながら言った。

 やはり同じ発想らしい。周りのアタッカーは首をかしげているが。


 画面の中の水の球のような名称不明のダンジョンマスターを観察する。

 水没都市フレグレイ・ヴァイアのなかでで出てくる水の精霊オンディーナに似ている。


 ただ、サイズが5倍近い。

 中央に陣取る巨大な水球はかなり威圧感がある。


 水の精霊オンディーナは中央に浮いたままレーザーのような水流を打ち続けていた。

 移動しない砲台タイプのダンジョンマスターだろうか。 


『これだけでしょうか?』


 鮮やかにレーザーを避けながらロンドが言う。

 攻撃の密度が低いわけじゃないんだが、本当に攻撃を受けないな。

 暫くして水の精霊オンディーナの攻撃が止んだ。


「ダンジョンマスターっていうけどよ……」

「姐さんなら勝ってしまうんじゃねえか?」

「それは言える」


 今一つ緊張感のない口調で周りのアタッカーたちが言うが

 ……ダンジョンマスターは弱くない。例えCランクであっても。


「大丈夫かな……あの人」


 隣に立っているマリーが聞いてくる。


 RTAの走者がソロでダンジョンマスターを倒せるのは、相手の攻撃パターンや弱点を研究し尽くすからだ。

 あいつがいくら強くても、まったく未知のダンジョンマスター相手に正面からと言うのはいくらなんでも厳しい。


 ただ、ミッドガルドのダンジョンには何体か隠しダンジョンマスターがいる。

 特殊な条件を満たしてクリアすると出てくるボーナスキャラで、そいつらはさほど強く設定されていない。

 倒すとレアなドロップアイテムを出すから狙う奴は多い……もちろんあいつもそれは分かっているはず。


 あのダンジョンマスターがそのパターンなら一人で倒せるかもしれない。

 水の精霊オンディーナは様子を伺うように沈黙したままで、ロンドとのにらみ合いが続く。


「どうするんだ……?」


 重苦しい沈黙の中で誰かのつぶやきが聞こえた。

 俺なら適当に遠間から銃で撃ちつつ相手の出方を伺いつつ攻撃パターンを読むところだ。


 ただ、軽戦士フェンサーであるロンドは近づかないとダメージが取れない。 

 どこかで切り込まないといけない。例え危険であっても。


『では行きますか』


 サーベルを一振りして、ロンドがボクサーがやるようにステップを踏む。

 それを待っていたように水の精霊オンディーナの体に波のようなものが走った。

 

 水の精霊オンディーナの巨体から水弾が撃ち出された。 

 弾幕のように水弾がロンドの方に降り注ぐ。壁や床に銃弾で打たれたような穴が開いた。


『これは?』


 ロンドが壁際を走るように水弾を避けるが、攻撃範囲が広すぎる。それに攻撃が止まない。

 二発がロンドの体に刺さった。




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