第25話 ソロウとの戦い・上
今日のアタックは
目標タイムは35分で20階層。
ここは銀色の岩塩層に穴を掘りぬいたような丸い通路の左右に骸骨が並べられているという、中々におどろおどろしいダンジョンだ。
俺的にはリアルで白い塩の粒に覆われた骸骨を見るのは若干引くものがあるんだが、意外にもオードリー達は気にしてないらしい。
ルートは比較的シンプルだが階層ごとの移動距離が長く、接敵リスクが高い。
ここのRTAでは主に敵をどう裁くかがタイム短縮の肝になる。
アンデッド系の敵と何度か接敵したが、大体は無難に対処できた。
アストンたちも手慣れて来たな。
順調に階層を走りつつ15階まではほぼ予定通りに到達し、16階まであと少しというところで、見覚えのあるやつに会った。
◆
「いやあ……ちょっと足を挫いてしまいましてね」
「もう少しで16階層です。まあゆっくり行きましょう。お互い、急ぐ旅でもないでしょうし」
長く伸びた回廊の途中に、あのマルズとやらのパーティが陣取っていた。
回廊を塞いで、まるで亀のようにゆっくりゆっくりと歩いていく。一人はわざとらしく足を引きずっていた。
「アニキ……」
アストンが振り向いて聞いてくる。
迂回路がないか、と言いたいんだろうが。
「さすがにここはどうにもならん」
16階層への階段の部屋が通路の奥に見えているっていうのに、こんなことになるとは。
こっちが撃たないと思って余裕で背を向けているのもまた腹が立つ。
しかしこいつら……このダンジョンの15階層まで来る腕があるなら、こんな詰まらない妨害なんてしてないで、普通にアタックすれば良い物を。
「あー足が痛い足が痛い」
「ねえ、そこのかわいい
「優しく手を取ってかけてくれると尚良い」
マルズたちが立ち止まってわざとらしくいう。
普段はニコニコしてるマリーチカが嫌そうな顔をして俺に寄り添ってきた。
「うーん、掛けてくれないかぁ……残念!」
「じゃあゆっくり行きましょか」
マルズたちがまた前を向いてゆっくり歩きだす。
視聴者にこの姿がどう映っているのか気になるところだ。こういうのを喜ぶ奴もいるんだろうが。
アストンがいらいらした顔でマルズたちの背中を睨んだところで、マルズたちの足が止まった。
また何かを言ってくるのかと思ったが……狭い通路に白い炎のようなものが浮かんでいた。
◆
白い炎がそのまま大きく膨れ上がった。モンスターだ。
人の身長ほどもある白い炎というか人魂のようなものには無数の恨めしそうな人の顔が浮かんでいる。
アストンが気圧されたように一歩下がった。
「アニキ、やべぇぞ」
「……ソロウか」
アンデッド系で最も性質が悪いモンスターの一つ。それがソロウだ。
設定的には確か無念の死を遂げた死者の悲しみの魂の集合体。
嫌なのは特殊攻撃である「叫び」だ。
防御不能、回避不能の範囲攻撃という性質の悪さに加えて、受けたらダメージと共に暫くスタンする。
大抵はスタンしたところをボコられてダウンを食らってタイムロスする。
ソロでやるRTAだとそのまま叫びでハメ殺されかねない。
なのでRTAなら即リトライ。
RTAじゃない普通の攻略でも難敵だ。
この階層で出てくることはあまりないはずだが、絶対にないわけじゃない。
RTAは常に確率を信じて確率の高い方に動いてきた。
だが確率は確率でしかない。低確率のことも起こり得る。
しかし……ここでよりによって厄介な奴が来るとは。
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