第16話 ホーム固定と先行配信契約

 宿をうつった二日後。

 食事を取りに星空の天幕亭に行った。


 最初のアタック後に最初に行っていい反応が見れたから何となく親しみがあるんだが。

 あと、投げ銭スパチャ……この世界ではチアメニューなんて言うらしいが、その収入も大きい。


 こういう言い方はゲスだが、金払いがいいところには顔を出してアピールした方が良い。

 配信者たるもの投げ銭スパチャをしてくれる人には愛想よくしておくべきだ。



「あら、いらっしゃい。来てくれてうれしいわ」


 ドアを開けて入ったら、奇麗な女将さん……グレイスというらしいが、にこやかに出迎えてくれた。

 少し早い昼飯時だから、まだ店内は人がほとんどいない。

 壁のディスプレイには俺たちのアタックの映像が流れていた。


「昼ごはんよね。お任せでいいかしら?」

「はい、お願いします」


 アストンが礼儀正しく言う。

 しばらく待っていると、分厚く切ったローストビーフのような肉を焦げ茶色のパンに挟んだサンドイッチとスープをグレイスが運んできてくれた。

 

「はいどうぞ」

「ありがとうございます」

「頂きまーす」


 サンドイッチはパンは香ばしく焼かれていて麦の香りが強い。ざらついた歯ざわりも独特だ。

 肉汁と少し辛めのソースがパンにしみこんでいて旨い。レタスっぽい葉野菜がソースと肉の脂を和らげてくれている。

 分厚くて食べ応えがあるな。


 豪快に頬張るアストン、幸せそうに食べるマリーチカ、上品に少しづつ食べるオードリーは性格の差が出ていて見ていると面白い。

 スープは玉ねぎっぽい甘みがある。胡椒のようなピリッと辛いスパイスが効いていてこれも美味いな。


 シンプルな味付けながら飽きない。

 そういえばこの辺の描写もやたらと凝っていたな。ミッドガルドが和ゲーだからかどうなのか。

 いずれにせよこうなった今となっては食事が上手いのはありがたい。



「ところで、少し話があるんだけどいいかしら?」


 食後のお茶を運んできてくれたグレイスが声を掛けてきた


「って……誰に話せばいいの?リーダーは?」

「アストンだろ」 


 そういうとグレイスがアストンの方を向いた。


「アストン、うちを貴方のパーティのホームにしない?」

「ホーム?」


 聞いたことが無い言葉だが。


「アタッカーのホーム契約。要は、貴方たちの配信を優先して受けれるようになるのよ」


 グレイスが説明してくれた。サイトを限定した動画の先行配信的な感じか。

 俺たちのアタックを早く見たければここの酒場に来るのが良い。となれば俺たちが活躍すれば酒場も潤うわけだ。


「でも僕等はまだ次の配信で4回目ですよ」

「あなたたちはきっと成功する」


 グレイスが自信ありげにいう。


「俺たちにメリットあるのか?」

「勿論よ。ギルドと契約して私の店から固定でギルドに支払うからね。貴方たちの稼ぎも安定するはずよ」

 

 聞いてみたら、グレイスが答えてくれた。

 要は店側は先行配信料をギルドに払うわけだ。


「どうかしら?ギルドと契約するんだけど、パーティの了解があるかはとても大事なのよ」


 グレイスが言う。先行配信はともかくとして、ホーム契約をパーティとの了承なしでは決めることはできないだろうな。

 アストンが緊張したような顔で考え込む。


「どうしようか?俺としては誇らしいと思う」

「ボクはいいと思うな」

「私も……特に断る理由は無いと思います」


「アトリさん?」

「いいんじゃないか?俺たちの能力を認めてくれてるってことだしな」


 勿論こっちにはメリットはある。

 超絶駆け出しの俺達に大口課金してくれるっていうんだから、店としてもかなりの賭けだろう。


 まあ、この段階で声をかけてくるってことは青田買いというか……今なら安く契約できる、なんて思ってそうでもあるが。

 ……そんなことは考えてもいなさそうな純粋なアストン達の前でそれを言うのも気が引けたのでやめておいた。


「じゃあ、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね」



 アストンとグレイスが握手を交わしてすぐに どやどやと5人ほどの男が入ってきた。


「おっと、おっと。俺の推しがいるじゃねぇか」

「いいタイミングだな」


 先頭の髯のオッサンはたしかマーカスとか言ったかな。

 しかし推しか。どうせ推されるならかわいい女の子に推される方がいいんだがな、気分的には。


「相席いいか?」

「次はどこに行くんだ?」


「女将さん、ビール」

「お嬢ちゃん方、デザートとか食べるかい?」


「アトリ、あんたは飲めるんだろ?一杯付き合えよ」

「奢りなら、喜んで」

「勿論だぜ」


 マーカスたちが横のテーブルを引き寄せてきて、アストンと話を始める。

 グレイスがすぐにビールとマリーチカやオードリーのためにケーキを持ってきてくれた。


「さあ、遠慮なく飲め飲め」

「有難く頂くよ」

「ご馳走さまです」


「で、だ。聞きたいことが一杯あるんだぜ。まずは次にどこに行くか」

「それはまだ決まってない」


「勿体ぶるなよ」

「悪いな。本当に決まってないんだ」


「まあいいさ。3回目も良かったぜ。お前らに乾杯だ」


 有無を言わさずって感じでジョッキを押し付けられて、マーカスと乾杯した。

 まだしばらく帰れそうにないな……まあこれも視聴者サービスか。



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