第20話


 ジェイクさんに手を引かれて本当にギルドだよね? と不安になりそうな建物の中に進む。


「あそこが入口だ」


 ジェイクさんが少し先を指さして説明してくれる。

 人の出入りが激しいところが入口のようだ。

 入口というからには出口もありそうだけど、人が出たり入ったりしてる様子からそこらへんは気にしないで良さそうだと感じる。

 人が出たり入ったり忙しいので、大きな扉は閉められる事なく開けっぱなしになっているようだ。


 ジェイクさんとその大きな扉がある部屋の中に入ると、ざわざわと賑やかな場所だった。

 入口から入ってすぐの左側が受付なのだろう。

 室内の入口から奥の壁まで細長い木のテーブルがあり、物凄く長いテーブルは等間隔で仕切り板が差し込まれて区切ってあって、そこに受付担当が一人一人と立って業務をしているようだ。

 一番奥の壁の上から真ん中くらいまで凄い数の紙が貼られていて、そこにたくさんの人だかりが出来ていた。


(たぶんあそこに依頼が貼ってあって、その依頼を選んで受付でやり取りするのかな)



 ジェイクさんと手を繋いだまま受付待ちの列に並ぶ。

 強面のジェイクさんと少女の組み合わせが目立つのかチラチラと見られている。

 あちらこちらからの視線が痛いほどに刺さってる気がして居心地が悪い。

 ジェイクさんも嫌だろうなと見上げて確認したけど、見られ慣れてるのか一切気にする感じでもない。

 ジェイクさんが不快な思いをしてないなら別にいいやと視線を前に戻した。


 長い待ち時間の末にやっと私達の番になった。


(結構待たされたな……お仕事中のジェイクさんには申し訳ないなぁ。今度何かお礼をしなきゃ)


 仕事の一貫なのかもしれないけれど、心の中で親切なジェイクさんを拝んでおこう。


「ギルドへようこそ。本日はどうされますか?」

 落ち着いたアルトの声が耳に心地よい。

 男性の受付職員は穏やかな笑顔で声をかけてくれた。


「あー、今日は俺は関係してないんだ。この子を冒険者登録して欲しくてね」


 そう言って繋いだ手を放し私の頭の上にその手をぽふりと置いた。

 受付の人は視線はジェイクさんに向けていた視線を下にやると、私の存在に今気付いたかのように驚いていた顔を一瞬したが、パッと表情をすぐに変えて優しい笑顔になる。


「これは失礼しました。こんにちは、ギルドへようこそ」

 と笑顔と同じ優しい声で話しかけてくれた。

 その笑顔に釣られるように笑顔になりながら、挨拶を返す。


 ジェイクさん目立つもんね、私に気付かないのは仕方ない。

 存在感凄いもん。


「こちらの用紙に記入してくれるかな?」

 手渡された用紙と先ほどと同じ万年筆と似たペンを受け取る。

「ジェイクさん、魔法を使う職業の人って何ていえばいいでしょうか?」


 魔法使いとか、魔導士とかいろいろあるよね?


「ナギは魔法に適正があるのか。一般的には魔法使いだな。同じ魔法系統だと魔導士と呼ばれる職業もあって、それは魔法の研究も兼ねてる魔法使いの事を指していてな、それには難関資格の取得が必要なんだ。魔法に興味があるならいずれ目指してみてもいいと思うぞ」

「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」

「知らないこと知りたいこと何でも訊いてくれ」


 ニヒルな笑顔で大きな手で頭をワシワシと撫でられて首がグラグラ揺れる。

 ジェイクさん、力の加減間違えてませんか。


 用紙の記入を済ませて受付の男性に渡す。


「確認しますね」


 また優しい笑顔を向けられた。

 ジェイクさんのニヒルな笑顔を見た後のこの笑顔は癒やされるなーと、ジェイクさんにまた失礼なことを考えながらほっこりしていると、すぐに確認が済んだようで丸いガラス玉が付いた道具を目の前に置かれる。


「ここに手を置いて魔力を流して下さいね。ギルドカード登録に必要になります」


 言われるまま手を置き魔力を流す……あれ? どうやって流すんだっけ? やり方がわからずに戸惑っていると、手の中にある何かがスルリと抜ける感覚がした。

 持っていた物が手からスルッと無くなるような感覚。


「はい。登録完了しました」


 あっさりと受付の男性に言われた。自動的に魔力が抜かれるのかもしれない。


「これが貴女のギルドカードになります。登録料が銅貨一枚頂きますね。それと、別料金になりますが、チェーンに通したタグ型のギルドカードも作ることが出来ますけどどうされますか? 登録料と同じ銅貨一枚です」


「落とすか心配で予算に余裕があるなら作っておいた方がいいんじゃないか? 俺も作って持ってるぞ」


(ジェイクさんも冒険者登録してるんだ)


 ジェイクさんに言われて、確かに落とすと怖いなと思ったのでお願いして作って貰うことにした。


「タグの色はランクで決まるからな。最上位ランクの色は一度も見たことないけどな。ちなみに俺はCランクでシルバーだ。一番下のランクはブロンズだな」


 タグを用意して貰っている間、ジェイクさんがギルドランクについて説明してくれた。

 登録したてはFランクで、Eまではギルドで用意されたクエストを真面目にコツコツこなしていくだけでもなる事が出来るらしい。

 Dランクに上がるには昇級試験があるのだそうで、試験に受からなければDランクにはなれない。

 Dランクからは魔物を討伐するクエストも受けられるようになるため、知識や戦闘能力が討伐を受けられるに達しているのかをしっかり査定するんだって。


 そりゃそうだよね、命の危険があるんだから誰にでも受けられる訳にはいかないだろうし、そこは厳しく対処するんだろう。

 最上位はSSSクラスで、いま世界に二人だけしか存在してないとのこと。


(ふぅん、いつか見てみたいな。どんな人がSSSクラスなのか興味ある。世紀末覇王みたいな人だったりして……)


 タグが出来上がったので受け取りお金を渡す。

 ジェイクさんが首にチェーンをかけてくれた。


「ありがとうございます」

 お礼を言うと、ジェイクさんは「似合ってるな」とニヒルに笑ってくれた。


 タグの色は銅の色で赤銅色だ。

 登録したてという事は一番下のランクだろうから、使い古された十円玉のような色を想像していたけど、艶のある赤黒い色だった。

 カッコイイ装身具っぽくて気に入った。


「仮の身分証はもう必要ないから、俺が預かって戻しておくから渡してくれ」

「あ、そうですね。渡しておきます。ありがとうございます」


 ジェイクさんに仮の身分証を返す。

 またあの場所まで戻らなくて済むから手間がなくて有り難い。


「こちらギルドが発行している冊子になります。冒険者の心得と初心者に必要なものやそれらを購入する店と、FとEランクにお勧めのクエスト例が載っています。採取クエストをされる場合は一番最後のページに簡易地図がありますのでそちらをご利用下さい。冒険者のノウハウをもっと知りたい場合は定期的に勉強会のようなものを開催していますのでカウンターで予約を取り受講して下さい。それは無料ではなく有料となっていますので、お気をつけ下さいね」


 その後、森に入る際の注意事項などを説明されたり、採取の際のお約束みたいなものの説明を受けた。冊子に詳細が載ってるのでちゃんと読むようにとのこと。


 いろいろ細かく丁寧に教えてくれた受付の男性にお礼を言って、ジェイクさんとカウンターをさっさと離れる。

 私とジェイクさんの後ろにも人がいっぱい待っていた。

 登録する際は時間が掛かるものだとはいえ、なんだか申し訳ない。


「ジェイクさんありがとうございました。あと―――」

「次は今日泊まる場所だよな。お勧めの宿があるから今から連れていこうと思うんだが、どうする?」

「えっ、いきます!」

 ちょうど宿のことを尋ねようと思っていたから、とても助かる。

 ジェイクさんは、本当にいい人で有り難い。

 頼りまくりで申し訳ないけど……大きなお礼をしてお返ししようと思う。


「ジェイクさんありがとうございます! いろいろすみません」

「気にするな。子供は大人に甘えるもんだぞ」


 わしゃわしゃと頭を撫でられる。

 ちょっと力の加減を知らないジェイクさんだけど、大きな手はとってもあったかいなと思った。




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