第5話


 あれから二日――――


 何とか生活出来ていた。

 食べ物は勝手に自殺していく魔物の肉と、木の実と、果物。


 しつこく纏わりついてくるの不快な羽虫のような魔物たちへの対処方法を得た後、

 やっとこれからどうするか? に意識が向いた。


 魔法や魔物が存在する世界へ異世界転生した場合のあるあるを一通りこなす。

 だって綿毛モドキはエンシェントドラゴンに転生出来るとか、最強種だとか、最上位の魂で強いとかを話すばかりで、基本的なことは何ひとつ説明してくれなかった。

 不親切もいいとこである。

 あとは、転生して欲しいしか訊いてない。

 と考えると、ドラゴンの生活が嫌になったら元の世界へ戻れるという話も反故にされる可能性だってある。


(反故にしたらこの世界をぶっ壊してやろう)


 なんてったって私はこの世界の最強種らしいので、世界をぶっ壊す事もきっと可能だろう。

 そっちが約束を守らないなら、こっちだって世界の均衡を正すとやらの話を守るつもりはない。


 そう決意するとスッキリしたので、まずは定番の『ステータス』なるものを調べる事にした。


「ステータス」


 右を見ても左を見ても魔物か魔物だったものの死骸しかない場所だ、何を恥ずかしがる必要があるかと呟いていたものの、何だか恥ずかしい。

 いい大人が某アニメの城を破壊する呪文を誰もいない部屋で呟く時くらい恥ずかしい。

 ドラゴンの尻尾が感情の起伏にぶるぶると思わず揺れてしまった。


 目の前には既視感のある光景。

 ゲームの画面のような電子文字が浮かびあがっていた。

 半透明なディスプレイが空中にあって、目の前にある……ちょっと近未来的な感じ。

 この暗い森の原始的な景色には違和感がありまくりであるが、そういうのを突っ込んでいると色々と長くなるので、まぁいいだろう。


「名前は人間の時のなんだねぇ、あ、仮って語尾にあるからこの世界で付け直せって事なのかな? 種族はエンシェントドラゴン……まぁ、いいかドラゴンだし。」


 誰に訊かせる訳ではないけれど、ひとつひとつを口にしながら確認していく。


「レベル上げとかした事ないけど、レベルはMaxと。」

 この世界に誕生したばかりなのにレベル1じゃないんだな。

 最強種だからかな。


(そういえば、転生特典を百倍にするとか毛玉モドキが言ってたような……)


 なるほど、納得。

 百倍になった事で初期ステータスがカンストしたのかも? しれないな。

 レベル上げを楽しみにしてた訳じゃないから、カンストしてる事を残念に感じる事はないけど、やることがなくなったような気はする。


「えーっと、全属性、物理防御力に攻撃力、魔法防御力に攻撃力は勿論Max、スキルは……ブレスに威圧に鑑定と状態異常無効と体力魔力自動回復、うわあ最強だな、いや最強種って言ってた毛玉が。」


 確認すればする程、欠点のない災害級の強さ……いやドラゴンだからそうなんだろうけど。


「アイテムボックスは嬉しいな。ん? 変化? ってなんだろう。」


 ≪変化とは、現在の姿形を変化させる事が出来るスキルです≫


「うわっ!」


 毛玉モドキのように突然脳内に抑揚のないロボットのような声が響く。


「今の声って……えっ、どこから?」

 周囲は魔物か魔物の死骸か木とか草とかしかないけど、あ、あと砕かれた岩とか。


「誰?」


 ≪私はマスターのスキルにある“知識の泉”です。初めましてマスター、新しい至らない事もあるかと思いますが、宜しくお願いします。≫


「えっ!? 知識の泉……何か賢そうな名前だね。あの毛玉モドキよりは性格良さそうに感じるのは何でだろうね。こちらこそ宜しくね。」


《はい。毛玉モドキとはなんでしょうか?》


「うーん……知識の泉に必要ないものだから、知らなくていいと思うよ。」


《承知しました、マスター。》


「ちなみに知識の泉ってどんなスキルなのかな? この世界で分からない事を知識木として教えてくれるとかそんな感じのスキル?」


 ≪はい、その通りです。この世界のありとあらゆる知識は当然のことですが、マスターの転生前の世界のありとあらゆる知識も修得しています。≫


「えっ、前の世界って地球の?」


《はい、マスター。≫


 それは眉唾ものではあるが、この魔法と魔物の世界に必要かなと思ったりもするけど、知識が無いよりはあった方がいいし、深く考えないでおく。

 異世界転生で知識チートという言葉がフワッと浮かぶが、めんどくさいので。


「スキル確認に戻ろう……。」


 知識の泉の性能に横道に逸れたけれど、ステータス確認を終えたら食事とかドラゴンの体でも安全に眠れそうな場所とか探したいところだ。


「変化の次は、人化……あ、人間になれるのね。便利なスキルがあって助かる! こんな物騒な巨体じゃずっと魔物と一緒に森の中の生活かと思ったよ……。人がいる町

 に行けるなら少し楽しみが増えたかも。」


 住む場所も人がたくさん居る所がいいな。

 さみしいし。


「えっと人化の次で最後っぽいな。スキル創作ね……。古代竜ヤバいな。何でもありじゃない。これを追求するのは色々と落ち着いてからにしよう。

 んー、あとは、加護系か。」


(この世界の神様って毛玉モドキでは……。)


 毛玉モドキかどうかは分からない。アイツ名前も教えてくれなかったし。

 転生先の世界の名前も言わなかった。

 本当に自己中心的で適当な毛玉だった。


 毛玉モドキのことを思い出すと口から青白い炎がチロチロと出てきたので、考えるのは止めた。


 こんな時こそ知識の泉!


「知識の泉くん、この世界の名前を教えて欲しい。あと、ステータスの加護に載ってる人ってこの世界の神様かな?」


 ≪この世界は“アストライア”といいます。神は一神しか存在せず、この世界のすべての信仰の対象となっています。女神の名はこの世界では“アステリア”と呼ばれています。この世界以外にもいくつもの世界を守護している神なので、いくつもの名前を持っていますが、この世界ではアステリアという女神です。マスターの加護にアステリアの愛し子とありますので、アステリアの最大の守護対象となっています。≫


「な、なるほど……あの毛玉じゃなさそう。あの毛玉はこの世界にこだわってたし、いくつも守護してるならこの世界だけを必死にならない気がする。この世界の女神の仕事をサポートしてる眷属とかかもな……それなら、あんなに必死なのも女神に怒られたくなくて、とか。でも勝手に百倍の転生特典とか付けたりするのって女神に相談済みなんだろうか。」


 うーん。

 怒られるのは毛玉モドキだし、いいか。


「ありがとう。知識の泉くん。」


 機械的な声が何となく男の子っぽいので“くん”付けで呼んでみた。


「他にもいろいろ加護があるっぽいけど、また今度いろいろ訊くね。そろそろ食事だったり寝床だったり探したいからさ。」


 ≪はい、マスター。食事はここから1キロ程の距離に果実や木の実などが手付かずで実っている場所があります。そのすぐ側には魚の捕れる湖もあります。寝床に関しては湖から北西3キロ程の場所にマスターが快適に横たわる事の出来る広さの洞窟があります。≫


「泉くん便利! 凄い助かる! 有難う!」


 全くの手探りな状態で、こんな大きな体でこれからどう探そうかと悩んでた事が即解決するのは本当に便利だ。

 もしこのスキルをくれたのが毛玉モドキだったら、自己中心的なあの態度も赦してや……らないかな。

 毛玉モドキは絶対一度は殴らないと気が済まない。


「それじゃ、食と寝床を求めていきますか!」


 大きな体を起こし、空を睨む。

 誰に教えを請わずとも飛べる気がした。


 空に浮かぶイメージで伸びあがると、ふわりと体が浮いた。


「おおー、飛べた!」


 背にある二対の翼をバッサバッサと動かし、目的の果実がある場所へと向かうことにした。









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