第3話

「お断りします。」


 何が勝ち組だ。

 住み慣れた地球を離れ、どんな世界か知らないが食物連鎖の均衡が崩れて世界のバランスとか何とかいう文明が発展してなさそうな世界になど行きたくない。

 勝ち組っていうより負け組だよ!

 最強種とか何それ。私は人間でいいです。

 アイラブヒューマンですよ。


『お断り……? 貴女、最強種になれるんですよ!? いいんですか!? 最強種でやりたい放題できますよ!?』


 綿毛モドキがブルブルと震えている。

 白くて丸くてフワフワしてるけど、中身がこんなんだと思うと何だか気持ち悪い。


「そういうの興味ないんで、お断りします。」


『いやいやいやいや、困ります。』


「私も心の底から困っています。

 自分の住まいに不在中の所を不法侵入された上にそのまま居座られ、不気味な綿毛の化け物が紹介してくる異世界に転生できますってしつこい勧誘に遭って。

 その迷惑極まりない、生まてから一度も見たことも想像したことすらない怪しい化け物から、素晴らしい世界だ最強種だ超勝ち組だの言われても、全く心惹かれませんし、何より信用出来ないですし。

 私からすれば綿毛の先ほども嬉しくない提案なんで。」


 スンっとした顔付きで淡々と綿毛モドキに心情を吐露していく。

 思考が読めるなら察してほしい。

 今すぐ消えてくれって思ってることを。

 こっちは連日の徹夜明けで心身ともにコンディションは最悪。まさに疲労困憊である。

 仕事を達成する為にがっつり削った睡眠を求めてひどく眠いし、帰って来てからずっと訳の分からないことばかりで、緊張の連続だ。

 精神を磨り減らすどころか、こちらに歩み寄る事などなさそうな無遠慮な存在が磨り潰してきている。


 もはや謎の化け物に対して何を言いたいか思考も纏まらないが、もう色々と限界でいっぱいいっぱいなんだ心読めるなら察してくれ。


「最強種の魂がどーのこーの仰ってましたけど、私のほかにも居ると思うんですよ。

 最強種の魂をお持ちの方。

 その方を転生させてあげたらいいと思います。

 超勝ち組なんですよね? 私のように気味悪がって断る人もいるかもしれませんけど、

 数撃ちゃ当たると諦める事なく探し続ければ、必ず綿毛モドキが望む人が見つかると思います。

 その人は私のように嫌がる事なく、喜んで転生してくれる方でしょう。

 ――――たぶんね?」


 私のことは諦めてほしい。

 声を出す事すら億劫なんだから、ほっといてほしい。


『いやいやいやいや! 貴女を知った後で他の方に打診なんて考えられませんって。

 貴女の魂は稀少な最強種の中でも、存在すら信じられない程に稀少な最上位だ。

 その眩い魂の輝きと強靭さを知った後で他を探す? 出来る訳がない!

 貴女以外考えられないと思っています!』


「……私は最強種の中でも最上位なんですね。どうでもいいです。」


『何て宝の持ち腐れ!』


 キャンキャン甲高い声で喚く小型犬を相手にしているような気がしてくる。

 見た目は可愛いけど(小型犬ならであるが)相手するには、自分の元気が全くもって足りない。

 最上位と言われてもピンとこないし、ピンと来たとしても興味が持てない。


「そうです! 数多の世界をひとつの大海だとすれば、貴女はその中のたった一滴でしかない。その一滴でしかない貴女の存在が波及する影響力の何と大きなことか! おそらくは、即座にピラミッド型に戻っていくと思います。世界の均衡など余裕で保たれていくと、私は確信しています!」


 (ふーん……そう。)


 たくさんの異世界が存在する中にある一滴ねぇ。

 そんな一滴は他にもあると思う。

 数多に存在しているであろう世界にたった一滴だけなんてないだろうから。


「でも、お断りします。」

『お断りされるのをお断りします!』


 綿毛モドキが訳わからないことを叫んでいる。


(ああ……もういい、もう無理。)


 相手にするのめんどくさい。

 こいつをどうしてやろうか考えることすらめんどくさい。


 眠い。

 もう耐えられない。



「もう寝ていいですか?」


 こんなに眠たい頭じゃまともにものも考えらない。


『えっ!? まだ話は終わってませんよ!』


 綿毛モドキが何かを叫んでいるが、無視する。


 着ていた衣類を脱ぎ捨て、無言のままベッドにダイブした。

 シャワーくらい浴びたかったけど、綿毛モドキの相手でその余力もない。


「おやすみなさい」


 ぐぅ。


 きっと三秒にも満たない早さで私は眠りに落ちた。


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