古代種ドラゴンになったら、異世界で犬を飼う事になりました。
いぶき
第1話
太陽は真上にあるというのに、鬱蒼とした森の木々は陽射しを細切れに遮断し目に映る景色はどこまでも暗く陰鬱さが増す。
此処が有名な自殺の名所だと紹介されてもおかしくない、ひどく濃密な闇を感じさせる。
それは、私の心が荒んでいるから余計にそう見えていたり感じてしまうのだろうか。
これから先の未来に何の希望も持てない……そんな気持ちだ。
だって―――――
「あのね、私をそっとしておいてほしいの。
突然この世界に連れて来られて……もういっぱいいっぱい。
異世界転生だか、魔法だか、魔物だか、考えたくもないし知りたくもない。
何もかも、もうウンザリ。」
怨嗟を口にしだしたら止まらない。
次から次へと溢れてくる。
ほっといて欲しいのに、ほっといて貰えない。
イライラする度に私の口から青白い炎が漏れ出す。
私の心の在り様をそのまま反映するように、太くて堅い尻尾がバッシンバッシンと上下に揺れ地面を深く抉り続けている。
蚊のように小さい生き物たちが顔や体に纏わりつこうとするから、鬱陶しくなって体をブルブルと動かして近寄らないように威嚇すると、私の周囲にそびえ立っていた岩山がプリンのように簡単に抉られて、生い茂っていた木々たちがお菓子のポッキーをパキンと折るような軽さで次々に薙ぎ倒されていく。
血を求めて纏わりつく蚊のように私の周囲で耳障りな音を立てて群がっていたものたちは、魔物であろうと思っている。
だって見た目が地球に存在し知っていた生物たちとは明らかに違う異形だから。
どちらかと言えば、兄がよくプレイしていたゲームの世界等に存在していたような見た目である。
頭には動物の耳が複数生えていたり、ギョロリとした小さな目玉がたくさん付いていたり、口が頭の半分を占めるほどに大きかったり。
ヒュドラーという頭が九つある大蛇で、ギリシャ神話に出てくる化け物っぽいのもいて、何だか気持ち悪い世界だ。
そんな地球での架空の生物のように、頭が複数あるものが色別にゴロゴロ居る。
その魔物たちの腕や足や胴体が、鬱陶しいと振り払う度に私の周囲にばら撒かれていく。
(魔物の体液って緑色、なんだ……)
たくさんの魔物の死骸が、いくつもの山となって私の周囲を囲っている。
グロ映画なんて目じゃない凄惨で気持ち悪い光景が眼前に広がっている――――
そんな、現状。
どれだけの数が居るのだろう。
次から次へと……。
「もうっ! ほんっとにしつこいの!」
巨体で起き上がるのはまだ不慣れだ。
ヨロヨロとバランスを取ろうとしているのに、体が右に左にと揺れる。
背中に大きな翼があるようだが、飛び方がいまいち分からないので折りたたまれたままだ。
飛ぶ練習をしたほうがいいかもしれない。
こんなに次から次へと魔物に近寄られては落ち着いて考えることも出来やしない。
だって、私、この世界に来て半日も経ってない気がする。
体感で五時間くらい……?
あくまで体感だけど。
「結界とか張れないのかなー。ホント不親切な異世界転生だよ。
とんでもない世界に連れてきて、とんでもない姿にさせられて、
断固拒否していたのに無理やり落とされて。
あげくの果てにそのまま放置って。説明くらいしなさいっての!
あの綿毛、今度見かけたら、覚えてなさいよっ」
怒りに合わせて、また口から青白い炎がチロチロと漏れ出す。
「このすぐ炎が出る口ってのもどうかと思う。
ちょっとイラッとくるだけで漏れてきて怖すぎ。
ドラゴンの仕様なの? 出さないようにするには怒ったらダメってこと?」
イライラが止まらない。
……が、ずっと怒って岩を砕き木を薙ぎ倒し、魔物を解体している場合ではない。
異世界転生あるあるで、適当に何かイメージしてみたら魔法とか使えないだろうか。
何せドラゴンである。
この世界の説明は無かったが「最強種の
魔力が最高峰ってことは、魔法も余裕で使えるって事ではないだろうか。
毛玉のやり口に腹を立てて冷静に考えられず怒りのままに愚痴っていたが、適当にやってみたら出来るかもしれない。
だってドラゴンだもん。
異世界でドラゴンで
「えーっと……」
何もかもを弾いて、ガラスのように透明で、物凄く堅くて……。
『バリア』
私がそう口にした瞬間、薄青く透明なドーム型の何かが私を包んだ。
ガラスのようなソレ。
「あ、出来ちゃった?」
ドラゴンだから表情筋があるかは分からないが、私はポカンとした間抜けな顔をして私を包むドーム型の何かを見ていたと。
「凄い。何だか王道の異世界の物語っぽい感じがする。
じゃあ、コレもいけたり……?」
『結界』
イメージは私と他の間にそびえ立つ壁のような感じ。
これもまた唱えた瞬間、透明な壁のようなものが現れた。今度は少し白っぽい。
私に近づこうとしていた魔物たちが、その壁に強い力で激突してぐしゃりと潰れている。
「うわ、こわ……。見なかった事にしよう。」
結界とバリアの二つを使うと、煩わしいものたちを一切寄せ付けなく出来た。
バリアは薄い膜のように私の巨体に沿って覆っているようで、魔物の血や肉片も直接皮膚に触れなくなった。
早く考え付いていればよかった。
身体に飛び散ってくる血も肉片も、生々しすぎて気持ち悪かったから。
「やっと落ち着ける……。」
イライラがやっとのことで収まってきて、口から青白い炎が漏れ出る事もない。
そうして私は、ドラゴンになるまでの経緯を考える事にする。
「あの綿毛の化け物が全ての元凶だわ。何を言われも初志貫徹で断ればよかったっ!! 私のバカバカお人好しっ。」
日本人特有のNOと言いづらい性分が憎い。
あんな怪しい綿毛が紹介する世界に転生なんて絶対嫌だと断っていたのに、
ずっとずっとしつこく言われているうちに、何か転生に了承したことになっていたのだった。
気づいたときには足元にアニメや漫画で見かけるような魔法陣が現れて。
「行くってまだ決めてないっ!」と叫んだ時には既に手遅れで。
肉体が上下に強く引き伸ばされる強烈な感覚が襲ってきて、意識が朦朧としてブラックアウトする直前に「綿毛、殺す」を口にしたことだけは覚えている。
次に私がヤツを見かける時は、綿毛モドキの命日だ。
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