義姉は僕の好みじゃない。

@umibe

義姉は僕の好みじゃない

 何よりもまずは、自己紹介である。僕の名前は愛居也あいいなりだ。愛が名字で、居也が名前だ。僕には義姉がいる。名前は春だ。義姉は義父の連れ子である。僕が五歳の頃、突然家にやって来て、家族になるのだと宣告されたのだ。それから時が経って、現在僕は高校一年生、義姉は高校二年生である。

 僕は義姉が苦手だ。第一、気が強い。ちょっと喧嘩になって、明らかに向こうが悪くても謝ってくれない。これは良くない。


 第二に、身長が高い。僕は165cmでほぼ170cm到達の夢は潰えた。平均以下だ。姉は175cm。これはでかい。加えて時々、成長痛だからと言って、僕にふくらはぎのマッサージを要求してくる。これは腹が立つ。僕は優しいから、もちろんマッサージしてやっている。義姉はバレー部だから、程よく筋肉がふくらはぎに纏わりついている。彼女はストレッチを毎晩欠かさないので、柔かな筋肉である。この年の女性というのは大抵痩せぎみだが、姉は運動しているせいか全体が肉感的だ。体重を彼女の身長と照らし合わせBMI換算したところ、適正体重より数キログラム重かった。

 この数キロは十中八九、いや確実に二つのふくらんだふかふかした部分の重量だ。おかげで、彼女は肩こりを持病としている。おかげで、僕は彼女専門の肩もみ家である。

 

 前掲で気付いた方もあろう、第三に乳房が巨大である。南国の海辺の、高い木のてっぺんに実るフルーツの如きおっぱいなのだ。大きいのが悪いこととは思わない。でも考えてほしい。手の届かない、高木の果実であるとしても、見るのは無料なのだ。意地悪な姉は、それに感づいたらきっと弄ってくる。僕が悶えるほどに。


 この前だって勝手に冷蔵庫のプリンを義姉に食われた。それも僕の部屋の小さな冷蔵庫に入れていたプリンだ。それを彼女に咎めたところ、最終的に謝ったのは僕であった。どうして僕が謝るはめになったのだろう? 未だ謎である。


 そんな義姉が近くに居たせいか、僕の女性の好みは全く義姉とは正反対に形成された。小柄で、貧乳で気品ある性格。これが僕の女性の好みである。しかし、そんな女性が都合よく僕の前に現れてくれる訳無いことは、重々承知だ。重々承知だが、現れてくれたのだ! これが! 僕は猛アプローチした。端から見れば、僕は猪だったに違いない。猪突猛進というやつだ。対して彼女は、青々とした草原をぴょんぴょん跳ねる子ウサギのような可愛らしさを持って、僕の告白を受けてくれたのだ。

 そして彼女、裏麗うららさんとの初デートは、今週の日曜である。ちなみに、今日は金曜日。だが、デートにぴったりな服が僕には無い。土曜日、服を買いに行かねばならぬ。


 そういう訳で僕は今、僕の部屋の机に座り、スマホと睨めっこ。どのような洋服が僕に似合うだろうか。やはりジーパンか。上はどうしよう。


 ブッと、スマホがバイブレーション。画面上部に通知バー。「部屋に来い! マッサージ!」と表示された。義姉からだ。「あと十分待って」と返信する。「待てない! 一分!」と即返される。


 僕はポケットにスマホ入れて、渋々義姉の部屋へ向かった。一応扉をノックする。ちなみに義姉が僕の部屋に入って来る時、ノックされたことは一度としてない。これからもきっとない。


「入れ入れー」

 と扉越しに声が聞こえた。

 入ると、義姉は白のストレッチマットを床に敷いてそこにあぐら掻いて座っていた。風呂上りの、ボディ・ソープの香り。スポーティなショート・ヘアはドライヤー後でとっくに乾いてさらさら。上着は白のキャミソールで、ほんのり黒のブラジャーが透けている。ほんのりだがブラ自体が大きいから、割に存在感がある。キャミソールがぴっちりめだから、体のしなやかな線がくっきり分かる。乳房のたっぷり感も。下にはこれまた白のショート・パンツだ。太腿は三分の二ほど露出し、おまけにあぐら掻いてるから目を凝らせば向こうにあるであろうパンツが見えるかもしれない。


「何だよ、いきなり呼びつけて」

 と一応用件を訊ねる。

「見てわかるでしょ、マッサージ。とりあえず肩揉んでよ」


 ふいに、ついこの前の彼女の誕生日にプレゼントしたハンディマッサージャーが目に映る。机の上に放り投げたようにある。何のためにこれをプレゼントしてやったのだろう。一万円したんだぜ。プレゼントした誕生日、僕はもう二度と彼女のマッサージを担当しないでよいのだと心身を軽くした。しかし翌日、義姉はいつも通り僕を部屋に呼び寄せた。当然、マッサージさせられた。


「あれでマッサージしても良いかい?」

 と僕は義姉の背後に立って言った。

 彼女はこちらへ振り返っって、「あれ」が何を指しているか察した表情になった。

「駄目だよ。直接手で揉んでくれなきゃ。じゃないと効果ないもん」


 効果ない無い訳、無いだろうに。


 僕はスマホをポケットから取り出して、お気に入りの音楽プレイリストを再生した。リリンゴmusicのファミリープランである。


「音楽変えてよ、つまんない」

 と義姉は振り返りもせずに言った。


 この女は、どこまでわがままなのだ。いっそのこと、無駄に肥大した乳房を背後から鷲掴んでやろうか。


「じゃあ、自分で何流すか決めてよ」

 僕はスマホのロックを解除して、義姉に手渡した。

 義姉は鼻歌なんぞ歌って、僕のスマホに集中している。


 僕のスマホがバイブレーション。義姉の鼻歌が止まった。


「ねえ、この人誰?」

 と義姉はこちらを正面にして、スマホを突き出してきた。彼女からのメッセージであった。「日曜日のデート楽しみだね。どこが良いかな?」に加えて、子熊が跳ね回っている絵文字。何とも可愛らしい。義姉なら死ぬまで使わないに違いない。


 



















 








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