第14話 〜魔神VS哲治〜

 次の日哲治はいつも通りにギルドへ依頼をもらいに行くと,ランベルクが腕を組みカウンターの向こうで仰々しくいるさまが見えた。


 「ララさんおはようございます! 今日も何か依頼を――」

 「待ってたぞ哲治!!」

 「なんですランベルクさん! 懸賞金をくれるんですか?」


 「いやそれはまだだ! お前に頼みたい依頼がある」

 「ララさん何か依頼を見繕ってもらえますか??」


 「哲治お前は話を聞け!!」

 「だってランベルクさんそういった依頼は前にちゃんと聞いたじゃないですか! 今回は聞かなくてもいいですよね!?」


 「その通りなんだが,お前が良いんじゃないか? と俺は思ってな!」

 「ランベルクさん俺に頼り過ぎじゃないですか??」

 「それは悪いと思ってるんだがな。お前魔法使えないだろ? 肉体の強さだけで,俺と渡り合う位強いって事を俺自身が知っているからこそ,任せられると思ってな!」


 「それでも俺は聞く気ないですよ悪いですが。簡単に聞いたらまたランベルクさんまた俺に依頼頼んできそうだし」


 「……」

 「じゃあララさん。何か依頼頼めますか?」

 「相手が魔人だとしてものか??」


 哲治がその言葉に反応した。それを見たランベルクがニヤッと笑った。

 「それはどういう??」


 「人喰いと呼ばれてる哲治,お前って人間殺すの好きなんだろ? 別に俺にとってもギルドにとっても問題じゃねぇ。依頼はちゃんと達成してくれるし,一般市民に手を出してる訳でも犯罪をしてる訳でもないからな!」


 「そんなお前にとって,魔人って魅力的じゃないか?? 今まで感じた事のない戦闘と経験になると俺は思うんだがな」

 「またまたランベルクさん! ランベルクさんが自分自ら行ったら良いじゃないですか?」


 「そうしたいんだがな,この魔人の特殊能力なのか分からないが,魔力を持ったやつが近づくと急に動けなくなるらしんだ。さらに魔力を吸われちまうんだとよ! 人間より動きも力も強い。魔法も使わしてくれない魔人らしいんだ。魔法が使えない。かつ純粋な戦闘能力だけで渡り合わないといけない相手なんだ。思いつくとしたらお前位しかいないと思ってな!」


 「またまた冗談を! 俺よりランク上の人なら渡り合えるでしょ!?」


 「ランクが上の奴らは前衛でも魔法が使える奴がほとんどだ。俺みたいにな! 俺ほど使えるやつはいないが,身体強化などを基本的にしてるんだよ。哲治みたいに純粋な身体能力だけで戦えるやつはいないんだ。今回の魔人の能力と相性が悪すぎるんだ。だから哲治お前に頼めないかと思ってな」


 「どうだ? 魔人と戦ってみたくないか?」

 哲治の中では決まっていた。しかし悩んでいる素振りを見せる。

 「…………」


 「わかった。今回の依頼達成しても未達成でも哲治お前をプラチナランクに上げるってのはどうだ? 次から受けられる依頼が増えるぞ!?」

 「わかりました……そこまで言われたら断れませんから! その依頼受けましょう」

 「そうか。良かった」


 ランベルクが詳しい詳細を話してくれた。


 最近突如として魔人がこの街の近くに現れたらしい。街から少し離れた洞窟を住処にしているらしく,依頼をしている最中の冒険者が発見したそうだ。


 いくつかのパーティー向かわせたが,全員失敗して戻ってきたそうだ。そのおかげで相手の能力もいくつか分かったという。


 魔人は魔法も身体能力も高く,一人で街を破壊出来るほどの能力を持っているという。なんで急に現れたのか目的も何も分かっていない。

 今の所は特にどこかに被害が出ているという報告はなかった。


 しかし,街の近くに魔人をほったらかしにする事が出来ないという事だった。

 ランベルクさんが頭を下げて哲治にお願いをしていた。


 「よろしく頼む」

 「頭を上げて下さいランベルクさん! じゃあ行ってきますよ」


 哲治は見送られながらギルドを後にした。

 外に出ると哲治はニヤニヤした顔を抑えているようで,気持ち悪い顔をしていた。


 どんな血が出るんだろう? どんな声を出すのだろうか? 刺した感触は? 殺した感触は? どんな快感がそこに待っているのだろうか? そう考えると顔が緩んで緩んで仕方なかった。


 早速魔人が住むという洞窟へと向かって行った。

 道を進み林を抜け目的の洞窟が見えてきた。


 哲治は茂みに隠れ,様子を伺った。少しすると中から魔人が外に出てきた。

 肌は紫色をしている。角が生え,牙や鋭い爪,羽も生えていた。


 後を付いていくと,水源で水分を補給しているようだった。

 哲治は一日魔人を観察した。理由は様々ある。人間についての身体の構造急所などは熟知している。だが相手は未知の魔人。何も知らない相手に何も考えずに突っ込むほど哲治は馬鹿じゃなかった。


 しかし,一日観察しても,特殊な何かを感じる事はなかった。人間と構造の作りは一緒ではないか? と哲治は感じていた。


 夜になり,ようやく哲治が動き出す。洞窟の中へと堂々と正面から入っていった。

 中に入ると空洞で出来た部屋があった。石で出来た椅子に腰をかけた魔人がそこにいた。

 洞窟の中なら空に飛ぶこともない。魔法を使うにも大きな魔法は使えないだろう踏んで哲治はあえて洞窟の中での戦闘を選択した。


 「貴様か?? 今日一日吾輩の事を観察していたのは!」

 哲治は驚いた。今まで尾行をしてバレた事がなかったからだ。


 「貴様,魔力を持っていないな。それで吾輩と戦うと??」

 哲治は戦闘中喋らない。それは幼い時からの癖だった。


 「まあいい。どっからでもかかってくるが良い」


 哲治は遊ばない。戦いを楽しむなんてしない。殺す事が目的なら,その事を第一優先として考えているからだ。その為に自分の持つ全ての技量を使う。


 哲治は踊り始めた。急に踊り始めた哲治を見て魔人は眉を潜めている。

 踊っていると思ったら急に姿を消す。


 魔人の身体に傷がつく。哲治は腕を斬り飛ばす勢いで斬りかかったのに少しの傷が付いただけだった。

 哲治は踊りだす。踊りが先程と変わった。


 姿が消えると,魔人のあちこちに傷が増えていく。しかし確実にそして全く同じ場所を哲治は斬りつける。


 「クソ!! お前本当に人間か??」

 とうとう魔人のいくつかの腱を切った。


 魔人が膝をついた。

 「なんだこれは。なんで動けない立てない!! 貴様俺に何をした!?」


 哲治の踊りは妖艶な踊りに変わる。

 「クソーーーーーー!!」


 ひざまずいた魔人の首を哲治は全力全開で刈り取った。

 魔人の首から紫色の血が飛び散った。


 「ああ〜気持ちいい〜〜」

 哲治は自分自身が絶対的に上位捕食者だと思っているやつが死ぬ瞬間の顔と表情がたまらなく好きだった。


 「人間もいいが,魔人もいいなぁ〜〜」

 紫色の血で染まった哲治の笑顔は誰が見ても気持ち悪かった。


 洞窟を出て哲治が空を見上げると今宵は赤い月だった。

 ニヤッと笑う!


 「血のようで綺麗だなぁ〜〜」

 右手には魔人の首を抱えて哲治は街へと戻る。


 ギルドに戻ると,ランベルクとララが出迎えてくれた。

 「哲治さん,おかえりなさい」

 「哲治お前……」


 哲治は魔人を首をランベルクに投げつける。

 「無事に倒しましたよランベルクさん」

 「!?!?!?!?」


 「哲治お前平気なのか!?」

 「何がです!? 俺は平気ですよ!!」

 そう答える哲治の顔はユルユルになっていた。


 「そうそう! ランベルクさん今後,いい魔人の討伐依頼があった時は俺に一言声をかけて下さい。出来るなら俺が討伐したいです」

 「ああ……わかった」


 「じゃあ俺は今日はこれで」

 「……おつかれさん」


 哲治はギルドへ出て,宿屋ガイヤへ向かう。

 いつものようにリリーが迎えてくれた。


 「哲治さんおかえりな……さい」

 「やあリリーただいま! ちょっと裏の井戸を借りるね!」

 「え!? あ……はい」


 哲治は興奮していた。初めて味わった経験。人間とは違った肉体を切り刻み,殺した快感。子供が初めて何か達成した時の喜びのような感覚を感じていた。

 食事を食べずに部屋へと向かう。哲治は興奮で眠れない夜を過ごした。

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