第12話 〜貴族と掌握術〜
今日は何故か屋敷が慌ただしくしている。
「ヨハン何かあったの?」
「ええ,まあ舞さん」
「ドリアンさんは今日は来られない感じかしら?」
「いえ,来るような事は聞いてますが,実際はわかりません」
「わかったわありがと」
舞は自分自身の準備をし,ドリアンが来るのを待った。
ドリアンが別邸に訪れた。舞は玄関に迎えに行く。
「ドリアンさんおかえりなさい」
「ああ……」
ドリアンの目の下にはクマが出来ていて,眼球は赤かった。
「どうされたんですか??」
「いや……まずは食事にしよう」
いつも通りに二人で食事を始めた。
普段だったら饒舌に会話をするドリアンだが,今日は静かだった。舞もそんなドリアンを察してか分からないが静かに食事をしていた。
半分程手をつけてドリアンは食事をやめた。
「食欲があまりないんですか?」
「今日は体調がちょっと優れないんだ。すまないが今日は早く休ませてもらうよ」
「わかりました。おやすみなさい」
舞はドリアンの背中を見送った。
夜中になりドリアンの寝室のドアがノックされた。
「誰だ?」
「舞です! 入ってもいいですか?」
「舞さんか,どうぞ」
すでに暗くなった部屋にかすかに蒼い光が入る。寝間着に着替えた舞の姿は妖艶で色気が凄かった。
「お隣いいですか?」
「ああ……」
舞はドリアンの隣に座り特に何か話したり,何かする訳でもなかった。
ただただ隣にいた。
「舞さんありがとうございます! 何も聞かないんですね」
「ええ。ドリアンさんが辛そうですから,何も話したくないなら話さなくてもいいんです。ただ側にいますから」
ドリアンは涙を流し,話し始めた。
昨日の夜何者かの襲われて,嫁と娘が殺害されたようだった。首や身体がバラバラにされて発見されたという話を聞いた。とにかく悲惨な現場だったようだった。
「確かに家族とは,嫁と娘とは仕事が忙しくて相手に出来ず,仲が良かったとは言えないかもしれない。だけど,こんな一瞬で別れるとは思わなかった……」
舞はドリアンのくたびれた身体を引き寄せ,母親かのように包み込んだ。
ドリアンは朝まで泣き続けた。
朝になってようやくドリアンは泣き止んだ。
朝食を食べて,ドリアンは仕事に向かうようだった。
「舞さん昨日はありがとうおかげで気が楽になりました」
「いえいえ。ドリアンさんが楽になったなら私も役に立てて嬉しいです」
舞がドリアンに近づき襟元を直す。耳元でドリアンに何かを話す。
「行ってらっしゃいませ!」
元気よくドリアンを送り出した。
後日ドリアンに呼び出され,馬車の中に舞は居た。
「ドリアンさん,今日はどこへ行くんでしょうか??」
「今日は少し私に付き合ってもらおうと思って」
少しすると,大きな建物が見えてくる。馬車から降りて中に入るときらびやかな世界が広がっていた。ドリアンの後に付いていき,大きな扉に前に到着すると,騎士が扉を開けてくれて広いホールと数々のテーブルが置いてあり,料理が並べられていた。
「ここはどこなんでしょうか?」
「王宮ですよ! 今日は貴族同士の交流なんです」
舞はドリアンの隣を歩き様々な貴族と挨拶を交わす。
沢山の女性が社交界に来ていたが,一番舞が目立っていた。
男性が次々にドリアンに話しかけてくる。
一緒に話に加わる。伯爵,辺境伯,男爵,子爵,沢山の貴族が次々に挨拶をしてきた。
ドリアンは世間話と仕事の話をしている。
舞は隣で笑顔を絶やすことなくドリアンに寄り添っている。
「舞さん,良かったらあちらの方でご婦人方と交流されてみてはいかがでしょうか?」
「私なんかでいいのでしょうか?」
「大丈夫ですよ!」
舞はご婦人方の集まっている方へと向かう。
始めは
テーブルに並べられた料理や飲み物を堪能することなく,一息することなくずっと舞とドリアンは話かけられ続けた。あっという間に社交界が終了した。
舞とドリアンは馬車に乗り帰路につく。
「舞さん今日はありがとうございました。舞さんのおかげで,今まで話した事もない方々と交流が持てて良い交流が出来ました」
「いえ! 私なんかが行って良かったのでしょうか?」
「ヨハンが言っていたのですが,街を歩くと舞さんは目立って一人で気軽に出かける事が出来ないと聞きました。変装をすれば問題はないと思いますが,それではいつまで経って知り合いや友達が出来ないと思ってまして,社交界の貴族の中でしたらまだ良き知り合いに巡り会えるかなと思いまして」
「私とは身分が違いますから」
「ですが,今日一番目立っていたのは舞さんでしたよ」
「そうでしたか?? 緊張してて何が何やらわかりませんでした」
「ハハハ! 今日は疲れたと思います」
馬車は屋敷に着いて,ドリアンと別れる。
「ドリアンさん今日はありがとうございました」
「いえ! こちらこそ。ではおやすみなさい」
「おやすみなさい」
舞は部屋に戻ると窓際に座り,ワインを飲み,窓から見える満月を見ながらニヤッと笑っていた。
朝になると,支度をし出かける準備をしていた。
ヨハンに馬車を用意してもらい,どこかへと向かう。
大きな門を潜って綺麗な庭園の中を馬車で通る。玄関のドアの前に一人の婦人が立っていた。
「お待ちしておりました舞さん。昨日は楽しかったですわね」
「こちらこそ楽しかったです伯爵夫人」
「昨日も言ったけど,ダリアでいいわ!」
ダリアに招かれ,広い綺麗な庭園の中でお茶会が始まった。
社交界のご婦人と会話していて,舞と一番話したのはダリアだった。
ダリアの方から家へと招いたのだった。
ダリアはお茶をしながら,夫の愚痴や貴族の妻になった
「何故だろう,舞さんにだと何でも話したくなっちゃいます。普段だったらこんなに色々な話をしないんですけどね。あなたと話していると話が弾むわ」
「ダリアが話し上手で私も話が楽しいです」
「そうかしら? そう言っていただけると嬉しいですわ」
「おや! これはこれは,舞さんではありませんか!」
「お邪魔しておりますミケランド伯爵」
話しかけたのはミケランド伯爵だった。
「あなた今日はお早いお帰りで!」
「ダリア。私は書斎に居るから。それでは舞さんゆっくりしていって下さい」
「ありがとうございます伯爵」
伯爵は屋敷へと向かっていった。
しばらくして,
「ダリアちょっとトイレをお借りしていいでしょうか?」
「ええどうぞ」
舞は屋敷の中へ入る。トイレに向かわず,一つの部屋の前に
ドアをノックした。
「伯爵よろしいでしょうか?」
「舞さんか。どうぞ中へ入ってください」
「舞さんどうしたんですか?? 私に何か用ですか?」
「伯爵私は貴族の世界について詳しい訳ではありませんし,国の政に参加する意志もございません。しかし,国の行く末が気になる一般市民です。国の手助けになる事なら私も何か手伝いたいと思っております」
「舞さんありがとうございます。しかしあなたのような淑女に何かしてもらうような事はありませんよ?」
「伯爵。伯爵は強い野心をお持ちだと思っております。その為に気に入らない貴族や人間,それに敵が多いと思います。その憂いを私が力になれば取り除くことが出来ますよ?」
「それはどういう意味でしょうか??」
「依頼とお金さえあれば,この国でいや! この世界で一番腕の立つ人物に伝えて実行してもらう事が私には出来るという事です」
「ハハハ! 舞さん急に冗談を!」
「いえ冗談ではございません。では試しに一つ頼んでみてはいかがですか?」
舞の表情や顔つき眼は今まで見たことも,見せたこともないような表情をしていた。
「ハハハ! じゃあでは試しに一人依頼してもいいですか?」
「何なりと」
舞は伯爵から依頼を受けた。とある貴族を殺して欲しいという依頼だった。
「ダリアごめんなさいね。遅くなりました」
「いいんですよ! それでね……」
ダリアは舞が戻ると,先程の話の続きをし始めた。
気付くと辺りは夕方になっていた。
「ダリア良い時間になりましたので,私は帰ろうかなと思います」
「あら! いつの間にかこんな時間になってしまいましたね」
舞はダリアと伯爵に見送られながら帰った。
「途中で寄ってもらいたい場所があるんだけど頼める?」
「わかりました」
馬車はとある店へと向かって行った。
着くとさっそく店へと入る。
「いらっしゃいませー!」
「レオナルドさんいらっしゃいます?」
「え? ああはいちょっとお待ち下さい」
奥からレオナルドが現れた。
「あれ? あなたはこの間の……何か御用ですか?」
「あやはいるかしら??」
「ええいますよ! あやー!」
店の二階からあやが降りてきた。
「レオナルドさんどうしたの??」
「あやどうも!」
「あれ? もしかして仕事??」
「ええそうよ!」
「じゃあこっちに来てくれる」
二階へ上がり部屋に通された。
「お母さん,その変装ってどうやってやってるの?」
「これ?? もらったこの魔法の装置を使うと簡単に変装出来るのよ!」
「へぇ〜。魔法って凄いんだね。それで? 仕事ってのは?」
「とある貴族を暗殺して欲しいの。詳しい事は――」
「……分かったわ。悠介に伝えてすぐに実行するわ!」
「お願いするわね。私はこれですぐに帰るけど,お店の方はどうなの? 順調?」
「そうね。かなり順調ね!」
「そう! なら良かったけども。じゃあお願いするわね」
舞は雑貨屋トマトを後にした。
屋敷に着くと執事のヨハンとメイドのアリエットに出迎えられ,お風呂に入り,寝間着に着替え,ベットに横になった。
次の日の朝,貴族街では事件が起こり騒々しい事になった。
中央広場の噴水がある場所に貴族の死体が吊るされていたからだった。
顔が切り刻まれ,誰が誰だか分からないような死体で,貴族の人達を震え上がらせた。
犯人はまだ捕まっていない。
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