第8話 〜王女のワガママな依頼〜

 哲治はいつもの様にギルドへ向かうと,何やらカウンターが騒がしい。テーブルに座っている冒険者達から人喰いと妙なアダ名をつけられている哲治。なんでも人を対象とした依頼しか受けない。そしてたった一人で賊を殲滅してくる事から人喰いと呼ばれるようになっていた。


 哲治がカウンターに着くと,ララとランベルクが何やら話している。

 「おはようございます」

 二人に哲治は挨拶をする。


 「哲治さんおはようございます」

 「おお! いいところに来たな哲治」

 「ランベルクさんどうしたんですか??」

 「いや〜ちょっとあってな……」


 そう言ってランベルクが話しだした。国の第三王女が活発で剣術を小さい時からやっているそうで,ギルドの依頼を一人で受けたいと言い出しているそうで,そんな事を国も国王も許すはずもなく,王女の護衛とゴールドランクのパーティーを付けようとしたら一人で行くと我がまま言って聞かないそうで,国王と話し合った結果,一人だけならと王女が言ったそうで,その一人を誰にするかで迷っているそうだ。


 「という事なんだ」

 「なんでその話を俺にするんですか?」

 「哲治に頼むしかないと思ってな」

 「え!? 嫌ですよ俺! ランベルクさんが行ったらいいのでは? そんな大切な王女ならギルドマスター自ら行ったほうがいいのでは?」


 「ん〜そうんだがな〜,王女が俺以外でって指定らしいんだよな」

 「それはそれは面倒くさい王女ですね」

 「そうなんだ。というか,王族の悪口をそんな軽々口にするなよ!」

 「すいませんつい」


 「本当はこんな事で使いたくないんだが,一人ってなると哲治しか思いつかないから,哲治あの約束覚えてるか??」

 「覚えてますよ!」

 「しょうがないからここで使わせてもらうよ。この依頼受けてくれ」


 「ランベルクさんとの約束ですからね。分かりました受けますよ」

 「じゃあ早速王女の所へ向かうか」

 言われて哲治はランベルクの後を付いて行く。


 ギルドを出て向かう途中で依頼についての詳細をランベルクが哲治に伝える。

 「王女様が今回受ける依頼はストーンタートルってモンスターの討伐依頼だ。正直この依頼は王女様の力を持っていれば難しい依頼じゃない」


 「王女様は強いんですか?」

 「まあ弱くはない。女性騎士と見ても,実力はあるし魔法の能力も高い。だがあくまでそれは訓練の中での話しであって,実践となるとそういかない事も多いだろ?? それに俺や哲治からしたら実力は大したことはない」


 「王女様だから皆手加減しちゃって,王女様自身が自分が強いもんだと思い込んでいるところもあって,困っているそうなんだ。今回の依頼なんだが,途中で野党や盗賊の被害報告が最近多くてな,ストーンタートルよりそっちの方が問題なんだよ」


 「一人でなおかつ対人が強い護衛ってなると,哲治が適任だと思ってな」

 「なるほど! わかりました。なかなか大変そうなおりになりそうですね」

 「まあそう言うな。哲治頼んだぞ」


 哲治とランベルクは街の中心地の方へ向かい,大きな門をいくつかくぐり,王宮と思わしき場所に到着する。


 王宮の一角に訓練をしている騎士達がいる。その中に異彩を放っている女性が一人混じっていた。


 「哲治,あそこにいる女性が第三王女のベネット様だ。よろしく頼む」

 「わかりました」

 王女のベネットがランベルクの姿に気付いてこちらに向かってくる。金髪の綺麗なロングヘアーで瞳は蒼い輝きを放っている雰囲気が見るからに高貴な女性だった。

 白銀の鎧と盾と剣を備えていて,騎士という言葉が似合う女性だった。


 「あら? ランベルクじゃない!? という事は依頼を受けてもいいって事かしら?」

 「はいベネット様,となりに居るこいつがベネット様とご一緒する冒険者になります」


 「ふ〜ん! 私はベネットよよろしく」

 「哲治と申しますベネット王女」


 「ランベルク,哲治は強いの?? あまり頼りになりそうにないけど! まあ私一人で大丈夫だから問題ないけど」

 「精一杯務めさせて頂きます」


 「ベネット様,もし何かあった場合逃げる事も大事です。頭に入れておいて下さい」

 「私は聖騎士よ! 逃げるなんて選択肢はないわ」


 「ハハハ!」

 哲治が笑う。


 「あなた何笑ってるの?」

 「なんでもありません! では早速ですが,出発しますか?」

 「そうね出発しましょう」


 二人は王宮を出て,街の外へと出る。

 「ベネット王女は街の外に出た事はあるんですか?」

 「いいえ! 今回が初めてよ」


 「それに今はベネットでいいわ!」

 「わかりましたベネット」


 「哲治,今回の依頼は一人でやりたいから,あなたは何もしなくていいわよ」

 「本当に何もしなくていいんですか?」

 「いいわよ!」

 「わかりました」


 二人は依頼のストーンタートルが出現しているという林の中へと歩みを進めていった。

 奥の方へと進んでいくと,崖に突き当たり,大きな洞窟が見えてきた。


 「ここがストーンタートルの巣のようね」

 「みたいですね! ベネットどうするんですか?」


 「まあ見てなさい!」

 ベネットは剣を天に掲げ何やら呟いている。


 すると急に目の前が真っ白になり,洞窟の奥で鳴き声が聞こえる。

 少しすると中から大きなモンスターが現れた。


 見た目は亀のような見た目をしていて,甲羅の部分が岩石に覆われていた。

 ベネットは光り輝く魔法をストーンタートルに放っている。


 攻撃は食らっているようだ。さらに剣でも攻撃を食らわす。

 ストーンタートルの攻撃はベネットの左腕に備えた大盾が攻撃を防ぐ。


 華麗な動きで翻弄し,魔法の攻撃で相手を追い詰めていく。

 哲治は何一つ手伝う事無く,傍観ぼうかんしている。


 「これで最後よ!!!」

 ベネットは剣を喉元あたりに差し込み,ストーンタートルが倒れた。

 ストーンタートルはそのまま動かなくなった。


 「お見事ですねベネット」

 「まあこんなものね! 張り合いがなかったわ」

 「このストーンタートルはどうするんです?」


 「この魔法の袋に入れるのよ!」

 ベネットがもつ小さな袋に大きなストーンタートルが吸い込まれていく。


 「ほう! 便利な袋ですね」

 「そうね! 魔法が使えないと使えないけど,かなり便利な袋よ。高いけどね」


 「なるほど〜。じゃあ俺は使えませんね」

 「そうなの? ランベルクが薦める位だから魔法が使えると思ってたわ」

 「俺は魔法使えませんね」

 「じゃあ魔法の袋は使えないわね。ストーンタートルも倒した事だし戻りましょう」


 「そうですね。戻りますか」

 あっさりと終わり,ベネットと哲治は来た道を引き返す。


 ベネットは饒舌になりながら,哲治に話しかける。

 哲治は何かに気付いたような反応を見せたが,ベネットの話を相槌を打ちながら聞いている。


 林の途中に差し掛かると,目の前に男達が現れた。

 辺りを見渡すと,いつの間にか大人数に囲まれていた。


 「誰だ貴様達は!?」

 「おお! かなり上玉だな!」

 一人の男が反応した。


 「貴様達は盗賊か??」

 「まあそうだな!! 女は傷つけるなよ。後で売りさばくから!」

 「とりあえずやっちまえ!」


 男の一言で盗賊達はベネットに襲いかかる。

 哲治の姿はいつの間にか消えていた。


 ベネットは盗賊の攻撃を捌こうとしているが,人数が多すぎて対応出来ていなかった。

 盗賊たちは思いの外,連携がきちんとしていて,スキを見せなかった。


 ベネットが攻撃を耐えていると,死角の遠くから魔法の攻撃を食らってしまった。

 倒れてベネットは動けないでいる。ダメージを食らったというより,痺れて動けないというような感じだった。


 「よし! じゃあ女は連れて帰れ。武器と防具は剥ぎ取れ。男はどうせ逃げたんだろ?」

 「じゃあ野郎共連れて行け」


 一人の盗賊がベネットに触れようとした瞬間,盗賊の首が宙を舞った。

 目の前に哲治が現れる。


 「あれ? ベネット! 一人で全部やるんじゃなかったんですか?」

 哲治は一言発すると姿が消える。盗賊達の首が次々と宙を舞っていく。


 「おい! 野郎共どうにか――」

 指示していた男の首が舞う。


 「ボスから倒すのは基本ですよね〜」

 哲治は他の盗賊達も一網打尽にした。


 ベネットは動けない身体で哲治の戦闘を横目に見ていた。

 全てを倒した後,返り血も浴びていない哲治が天を仰ぐ。


 「人間ってやっぱりきもちいい〜〜な〜〜」

 狂気とも思える笑顔を見せる。


 深い深呼吸をすると,すぐにいつもの哲治に戻る。

 「ベネット立てますか??」

 「ああ! もう効果が切れてきた」


 「助かったよ哲治」

 「まあ俺の仕事はベネットを守る事ですからね」


 「怪我はありませんか??」

 「特には大丈夫だ」


 「では街へ帰りますか」

 二人はこの後は何事もなく,街へ戻る事が出来た。ギルドに到着すると,ランベルクが待っていた。


 「おお! おかえり哲治。ベネット様もご無事そうで」

 「ランベルク! これが今回のストーンタートルだ」

 「確かに依頼完了ですね」


 「私はこれで失礼させてもらう。哲治今日はありがとう」

 「いえいえ! ベネットまた会いましょう」


 ベネットの迎えの護衛と共に,ベネットはギルドを後にした。


 「哲治,ベネット様と何かあったのか?」

 「さあ,どうですかねぇ? ちょっと盗賊と出くわして,ちょっとベネットが死にかけたって位ですかね」


 「おい! それはどういう事だ!?」

 「大丈夫ですよ! ちゃんと帰って来たじゃないですか!

 「そういう問題じゃないだろ!?」


 「まあベネット王女もこれで少しは大人しくなるんじゃないですか?」

 「とりあえず俺は今日は疲れたんで帰りますよ!」

 「ではランベルクさん,ララさんまた明日」


 哲治はいつもの宿に戻り,泊まっている部屋に入る。窓際に近づき窓を開ける。心地よい風と月明かりが哲治を照らす。

 「ああ〜〜もっと殺したいな〜〜」

 哲治は自分の欲望を吐露していた。


 朝を迎え,今日もギルドで仕事を探しにいく哲治。

 しかし,ギルドがいつもより騒がしかった。


 中に入ると朝っぱらから怪我をした冒険者が数多くいて,慌ただしく治療に当たる人やギルドの職員が駆け回っていた。


 それを横目に哲治はララが居るカウンターに行く。

 「あ! 哲治さんどうもおはようございます」

 「ララさんこれはどうしたんですか??」


 「いえ! まあ気にしないで下さい。ちょっと依頼に失敗しちゃったパーティーが帰って来たんですよ」


 哲治の背後を取り,いきなり肩を組んできた人が居る。

 「哲治か! ちょっとお前に意見もらいたいんだがいいか??」

 「ランベルクさんおはようございます。俺にですか?」


 「ああ。ちょっと付いてこい」

 哲治はランベルクの後ろを付いていく。


 大きな扉を開けると,中には中央にテーブルがあり,テーブルの上には地図が広げられていた。

 そして何人かの人がテーブルを囲うように立っていた。


 「ギルドマスターこの人は??」

 魔法使いと思われる女性が聞く。

 「ん? 対人のスペシャリストだ。最近人喰いって聞かないか? こいつだよ! 名前は哲治。参考になると思って連れてきた」


 「ランベルクさんそれで? 状況が飲み込めないんですけど!」

 「それなんだがな,ギルドで冒険者が沢山怪我してただろ?」

 「ええ! いましたが,それがどうしたんですか?」


 「最近急成長している盗賊団にやられたんだ」

 「盗賊団!?!?」

 「なんだ哲治」

 「いや! すいませんランベルクさん話を続けて下さい」


 「廃城を拠点としてる盗賊団がいるんだが,あまりにも早く急成長して,今や百人以上の大盗賊団になっているようなんだ。これ以上大きくなるとギルド全体,下手したら国の軍も動かす事になる位面倒になりそうなんだ」


 「その前に殲滅しようと,プラチナランクのパーティーとゴールドランク三パーティーの合計四パーティーで挑んだんだが,見ての通りやられて帰ってきたんだ」

 「このまま放置するわけにもいかないから,こうやって緊急で会議を開いているんだ。そして対人が強い哲治の意見も聞きたいと思ってな」


 「盗賊団のボスは元ブラックランクの冒険者で,幹部もそれぞれ実績のある元冒険者や元騎士の集まりだそうだ。盗賊団なのに組織的に毎日訓練までしてやがるらしい。かなり厄介みたいなんだ」


 「だからここにいるブラックランクとプラチナランクのパーティーで殲滅作戦を今から練るところだ」

 「なるほどですね! これが地図と廃城の間取り図ですか?」


 「ああそうだ」

 「ふ〜〜ん」


 哲治は地図と間取り図をまとめだす。

 「じゃあランベルクさん,行ってきま〜〜す!」

 「行ってきますってどこ行くんだよ??」

 

 「え!? 盗賊団の殲滅ですよ! 任して下さい。俺が片付けてきますよ」

 「バカバカバカ! 今までの話し聞いてたのか?? 百人以上いるような大盗賊団なんだぞ! 一人で出来るわけないだろ?」


 「哲治って言ったかしら? あなた馬鹿じゃないの? 一人で何が出来るっていうのよ。腕の立つ四パーティーを行かせて何も出来ずに戻ってくる位なのよ? あなた一人で出来る訳ないじゃない」

 魔法使いと思われる女性が哲治に発言した。


 「皆さんは勘違いしてると思います。こういうのは逆で人数が少ない方が上手くいきます」

 「俺はこういった仕事は専門的に上手いですから他の人がいると逆に足手まといになります」


 「足手まといだと??」

 テーブルを囲っていた巨漢の男が睨みを効かせてきた。


 「ええ。正直皆さんはモンスターとの戦闘は強いと思います。ドラゴンにだって戦えると思います。けれど,対人ってなると話が変わってくると思います」


 「さっきからあなたの話を聞いてると,私達はあなたより下だと!?」

 耳が長い人が哲治に食って掛かる。


 「この依頼に関して言えば事実なんで仕方ありません」


 「哲治,一人で行きたいのか? ここに居る皆で行ったほうが安全なんじゃないのか?」

 「ランベルクさん,ならこういうのはどうでしょうか? 四日以内に俺が戻って来なかったら死んだと思ってチーム編成して突入させて下さい。仮に死んでも俺だけ一人なんでギルドにとってそこまでの損失ではないでしょう??」」


 「そりゃあそうかもしれないけど,哲治お前自信あるのか??」

 「楽勝です!」


 「わかった。じゃあ哲治お前に任せる。出来るだけ幹部を倒した証拠は持って来てほしい。後は哲治に任せる」

 「ランベルクさんありがとうございます。必ず達成してきます」


 「ギルドマスター!?!?!? いいんですか!?!?!?」

 「ああ。哲治の言ったとおり,仮に失敗してもそれほど問題じゃないしな」


 「じゃあ今から早速向かいます」

 哲治は部屋を出る。珍しくスキップをしながらギルドを後にする。

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