第19話 年配者の考え

「あ! ここ! Googleマップと同じ建物! 」

 姫は久しぶりに自分が笑ったと思った。知らない街を一人で歩く。親が会って話しを聞いてきてくれといった人と会うため。

「えーっとここの道を行ったら、あ! あった公園!! 」

住宅地の中の公園なので家はたくさんあるが、その中の一軒の家の前に六十年配の女性が一人立っていた。こちらに歩いて来て

「あなたがUさんの娘さんね」

「はい、両親も名前を省略して姫ってよびます」

「じゃあ姫ちゃんでいいかしら? 私娘がいないし、孫も男の子ばかりだから」

その言葉に二人は微笑み、夫人は「行きましょうか」と行った。

「え? どこにですか? 」

「彼女達が住んでいた家、今は空き家になっているけれど」

その言葉で姫の目つきが変わったことを、夫人は良い方に考えようと思った。

「わあ、昭和チックですね! 私も住んでみたい! 」うれしそうに言う高校生に、尚更夫人は微笑んだ。

「でもね、昔の家だからセキュリティーに問題ありでしょ? だから主人から念を押されたの」

「何て、ですか? 」

「彼女の事を絶対に話すなって、この家に一人でいるときに侵入されたらどうするんだって」

急に真剣顔に戻った姫に

「戻りましょうか、暖房をつけたまま、ケーキ出しっぱなしにしているから」

二人は冬の晴れた日を少しだけ歩いた。


「こんなにたくさん用意して下さったんですか? 」

うれしそうな姫の顔に夫人も喜んだ。ソファーテーブルには大皿があり、数種類のケーキが放射状に並んでいた。近所の色々なケーキ店で、評判の良いものばかりを集めてみた。

「好みがわからないから、買ってみたの、心配しないで、あまったら私が食べるから」

「ありがとうございます、これお母さんからです」

「まあ、ありがとう、このお菓子、一度食べてみたかったの、よろしくお伝えしてね」

「はい」

姫がなかなか手を伸ばそうとしないので、夫人は自分も食べるからどうぞと促した。すると丁寧にケーキをとり、小皿に移して食べ始めた。

「いいのよ、好きなだけ食べて、あとでもいいから」

「ありがとうございます」礼儀も正しかった。

「すごいのね、パルクールでも強豪選手で、美人だわ。映像より実物の方が何倍もいいわよ」

「ハハ、ありがとうございます・・・・・でも・・・・」

 彼女の目的はもちろんそうではない、帰りの飛行機の時間もあるだろうからと、夫人は早めに

「彼女の美しさは質が違っていてね、何て言うのかな、汚れがないっていうのか、本当に深窓の令嬢、お城の奥にでも閉じ込められていたんじゃないかって思うくらいの肌の白さだった」

姫はちょっとうつむき加減で答えた。

「私は、目と手しか見てないですが、確かに魅入られるほどでした」

「きれいな手だった? 」

「はい、傷一つ無い、母も言っていました」

「としたら、追い詰められた袋小路を、あなたのようにパルクールで逃げたわけじゃないでしょうね、経験もない可能性が高い」

「じゃあどうしたって言うんですか! 人が消えるんですか! 」

身を乗り出して、初対面の、ましてや年長者に取る態度では無いと姫はすぐに気が付き、ストンと元に戻った。

「突拍子も無いと思われるかもしれないけれど、人間でないなら可能だわ」

「人間じゃない? 」

「彼女が消えた後、水たまりがあったのよね、だったら・・・雪の精とか、そんな感じの生き物かなと思って」

「え? 」

バカにした様な顔が、逆にギャップがあって可愛いとまで夫人は思った。

そして悪いが、その顔が変わっていくことも予想していた。


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