第9話 二人目の来訪者
「突然すいません、Y興産のYと申しますが。奥様覚えていらっしゃいますか? 大阪にいた頃にお会いして」
「え、ええ! もちろん覚えていますよ!! ああ、やっぱりその会社の社長さん・・・になられたんですね。大阪を離れて、随分たってから気が付いたんですよ」
結婚したての若い頃、夫がしばらく勤めていた会社で、「彼は切れ者」と言う元同僚だった。大阪に住んでいた頃は、家に一緒に恋人と遊びに来たりしていたほど、会社でもプライベートでも仲良くしていた。Y氏の名字はとても珍しいので、妻は覚えていたのだ。そしてインターネットが普及して試しに昔の会社を検索してみたところ、関連会社でY興産という会社があることに気が付いた。
「そういえばYさん、何か育ちも良さげだったなあ」
「武者修行に出されていたのかしら。私達は大阪出身じゃ無いからわからなかったけれど、他の人は知っていたかもね」
夫人の頭の中では、その記憶がパッと浮かんだ。
「お二人ともお元気にされていましたか? 」
「はい、ありがとうございます」
「実は、本当に人と人との繋がりって面白いもので、ある人からご主人の事を聞きましてね。今度そちらに行く用事があるので、久しぶりにお会いしたいなと思いまして」
「そうですか、主人も喜びます」
夫人は忙しいであろう先方に日取りを合わせ、帰ってきた夫にも話しをした。すると
「また? 」と夫が言うので、どこか新婚時代にタイムスリップしたような気分だった夫人は、一気に現実に引き戻された。
「何か関連があるって事? あの彼女に? 」
「まあ、わからんが」
立て続けの遠方からの来客とは、確かに珍しい事であった。
そしてその日も、天候までまるで同じ、昼過ぎには大雨になるとの予報だった。梅雨の時期ではあるから不思議では無いのだが、妻の方は同じように彼の家に郵便を取りに行った帰り道、シューズでは無い、堅い感じの靴音に振り返った。
「Yさん、どうしてこの道から・・・・」
しかしながら女性の特質とでも言うのか、
「Yさんでいらっしゃいますか? 」明るく声をかけ
「ああ! お久しぶりです」
全く同じように家に案内した。
決まった挨拶を手短に済ませ、Y氏は再会の理由を詳しく説明してくれた。
「自分も祭り好きで、地元では子供の頃からずっと出ているんです。で、打ち上げの時に誰かが「これが自分の地元の祭りの動画です」と見せてくれた中に、中心になって映っていらっしゃったから
「この人! この人知っているんだ! 」って言ったら調べてくれたんですよ。ぜひお会いしたい一人でしたから」
短期間であれ、若い頃一緒に仕事をした仲間だったので、話は尽きなかった。そして同じように天候が悪くなり、それと同時に、彼はまるで、外で雨に打たれているように沈黙した。
「実は・・・・・ちょっと面倒なことがありましてね、聞いていただけますか? 」
夫婦は予想と覚悟をした。
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