1章
001話 2078年に覚醒
私は、夜の街に出た
高層ビルに囲まれた空間が広がっているのを目の当たりにした。
街はネオンに包まれ、煌びやかな光が闇をかき消していた。
巨大なホログラム広告が立ち並び、空中を飛ぶ車がビルとビルの間を行き交っていた。
人々の多くは自立型移動ツールに乗って移動している。
その風景に圧倒されながらも、地図に従って目的地である倉庫へと向かっていた。
地図には、セリュリアと記されていた。
倉庫に到着すると、そこにはぽつんと一台の機械が置かれていた。
小学校にあった灯油ストーブにも似ている2mくらいの白い機械だ。
私が、それに触れると、突然ひかりだした。
そして、スムースな機械音を立てながら、観音開きに前方が開いた。
中には人がいた。
銀色の髪に、キレイなトパーズ色の大きな瞳のそれは私を確実にみている。
ただこの状況だ。
情報を照会すべきだと私は冷静だった。
「セリュリアとはなんですか。」
「セリュリアとは私の名前です。あなたの名前は?」
自分の名前を答えようとしたが、どうしても思い出せなかった。
記憶喪失とは異なる不思議な感覚だ。
俺は思い出そうとしている名前を思い出そうとしていない。
自我と切り離された意識の中にそれは捨ててきた。
「名前は?思い出せない?そうしたらニューロンとリシンクロナイズし海馬を覗いては?」
なんだそれは
ここで怪しまれたくないし、躓きたくない。
腕に書かれている「J1-N」という記載を見て、かの名探偵がごとくとっさに思いついた。
「私はジンといいます。私はある人物に助けられ、首になにかを入れられ、ここに来るように指示された」
「首・・?そうか、あなたが・・・。その人物はユイのことですね。彼女はなぜいないのですか。」
「多分、もう・・・」
「わかりました。ありがとうございます。私にあなたを任せてください。」
「いやちょっとまってください。色々と聞きたいことがあります。まず、ここはどこですか?日本ですか?
私はなぜ変なところで寝ていて、そのユイっていう人に助けてもらっていまここにいるのですか
そしてあなたはなんですか?」
「一つずつ段階的に答えていきましょう。」
「ここは日本で間違いありません。そして東京です。」
「あなたが寝ていたとされているところは、ユイが襲撃したところとするとカルト宗教の分派である”幽境の詠図”の研究施設でしょう。」
「ユイがあなたを助けたのは、あなたは重要な人物であると判断したためです。」
「ここにいる理由は、あなたが安全な場所にいるべきだからです。」
「私はセリュリアです。高次元AIに位置付けられ、ユイの自己認識を投影できる唯一の存在でありながら、ユイとは別のアイデンティティをもちます。」
「ここにいれば安全なのか?」
「はい、確実に安全で、”幽境の詠図”の危機にさらされることはないです。」
「その”幽境の詠図”はなぜ私をとらえた?」
「その意図はわかりません。おそらく生まれたときから適応能力が高い個体として目をつけられてたのではないかと思われます。」
「どういうことだ?私は1997年11月17日栃木県で生まれた。そして営業の仕事をし、恋人もいた。
そうだ、陽菜はどこだ・・・!植木陽菜だ!」
「残念ですが、それはあなたの記憶であり、ジンさん、あなたではないと思われます。」
「現在は、2078年8月22日です。」
「そしてあなたはナチュアではありません。確実にテクナとして、それも高度な。」
「申し訳ございません。植木陽菜さんという方については認識しておりません。」
ようやく理解した。
あの日私は死んだ。
そして今なぜか別の体に意識をもって生きている。
いまこの現状を受け入れているのも、もう前の自分は死んでいることを理解できているからだ。
ただ、今が2078年だとしたら、陽菜は80歳くらいか、生きているかもしれない。
でもどうだ。今会っても、死んだ自分だとわからないか。
死ぬ前の自分の名前も思い出せないのに。
「セリュリア。もっとこの世界を知りたい。おそらく私は一回死んでいる。そのことも調べたい。
色々教えてくれ。この2078年に生きていくこと。変わり果てたこの世界のこと」
「承知しました。ジンさんのお力になれるよう私も尽力させてください。」
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