大切なキミのもとへ ~輪廻~
あこ
第1話 恋する気持ち
「ねぇ、告っちゃいなよぉ! 」
放課後。夕陽が差し込む校舎の廊下。
下校しようと下駄箱へ向かっていた私に、隣を歩く友人がニヤけながら囃し立てた。
「今がチャンスだよ! 私が誰も来ないように見ててあげるからさッ!」
ニヤけ顔の理由は、今、目の前で職員室に入って行ったクラスメイトで人気者の彼。
「もう、からかわないでよぉ。そんなんじゃないってばぁ⋯⋯」
「ナニ言っちゃってんのよ!あんたの恋心なんかバレバレだっつーの!」
そんな押し問答をしていると、程なくして彼が職員室から出てきてしまった。
彼の横顔を目にして、私は気持ちの高ぶりを感じた。心地よくて暖かい、そんな高揚感。
そう、どんなに隠してもにじみ出てしまうほど、私は彼に恋をしているのだ。
「言わない後悔より、言った後悔の方が、もしダメでも諦めがつくってもんだよ!」
友人の言葉が私を後押しする。
でも⋯⋯だけど⋯⋯。
──────────
私は、
進学校に通ってはいるものの、勉強は得意じゃない私。でも! 人一倍の明るさを武器に、仲の良い女友達と楽しい高校生活を送っている。
ある日の教室で。
「なぁ、お前の目んとこのほくろ、エロボクロって言うらしいぜぇ~」
クラスのモブ男達が私の泣きぼくろをそう言ってからかってきた。
私は小さい頃からこのほくろが嫌いだ。この泣きぼくろのせいで、昔から男子に何かといじられてきたからだ。
「お前、エロいんか?」
なぜ思春期男子はこんなにもエロに執着するんだろう。この手のいじりを平気でしてくるから男子は苦手だ。
明らかに嫌悪感を醸し出しつつも、モブ男達に何も言い返せないでいる私を見かねて、人気者の彼が助け船を出した。
「俺は澪のほくろ好きだよ。かわいいじゃん!」
クラスの人気者⋯⋯彼の名前は
まさに高嶺の花! なんだけど、私が困っているとなぜかすぐに助けてくれたり、苦手な勉強のアドバイスもしてくれていた。
そして偶然にも、好きなアーティストが一緒ということもあって、その話でも盛り上がっていた。
女友達とは普通に接することが出来るのに、異性とはあまりフランクに接することが出来ない私にとって、白川くんは唯一、異性で心を許せる友達⋯⋯だと、思っていた。
そう、あの日までは。
それは突然の出来事だった。
白川くんが部活中に怪我をして、救急車で運ばれるという事故が起きてしまったのだ。
幸い、怪我は軽い骨折で済んだものの、サッカー部エースの事故という出来事は瞬く間に学校中に知れ渡り、誰もが驚いた。
もちろん、この私も。
その夜。
事故があったということしか耳にしていなかった私は、白川くんのことが心配で眠れなかった。
何をしても落ち着かない。
全てが白川くんに繋がってしまって、頭から白川くんのことが離れなくなっていた。
これほどまでに胸を締め付けられる感じは一体⋯⋯。
(ただの友達のはずじゃ⋯⋯)
そう、その事故をきっかけに私は、白川くんが自分にとってただの友達ではなく、想い人という、かけがえのない大切な存在になっていたことを認識してしまったんだ。
それからというもの、白川くんから話しかけてられても、私は素っ気ない態度しか取れなくなっていた。
「澪。お前、最近俺のこと避けてないか? 俺、澪の気に触るようなことなんかしたか?」
不意に白川くんが話しかけてきた。
「えッ? なんのこと? 何も⋯⋯、何もしてないよ。 してないけど⋯⋯、あ⋯⋯、ごめん」
私はそう言って、逃げるようにその場を去ってしまった。
そんな私の素っ気ない態度に何かを感じたのか、次第に白川くんからも距離を置かれるようになってしまっていた。
(本当は今までみたいに楽しく話したいんだよ)
私の性格なのだろう。好きという気持ちを自分が認識してしまったがために、恥ずかしさが先に立って、話しかけようにも言葉が口から出てこない。
頭の中ではちゃんと考えられるのに、いざ話そうとすると頭が真っ白になって言葉がうまく出てこないんだ。
白川くんを前にドギマギしてしまう自分。そしてそれを見せたくないという想いから、変に白川くんを遠ざけた形になってしまった。
そんな情けない自分を呪う日々が続いた。
ある日。
私は友達との約束のために駅に向かって歩いていた。
「うちの仔が⋯⋯!」
不意に聞こえたその声に辺りを見回すと、初老の女性が見上げた先に、マンションの踊り場からリード1本でぶら下がっている仔犬の姿があった。
「うちの仔が急に走り出してしまって⋯⋯」
仔犬は、女性の手からリードが離れた一瞬の隙に、我が家のあるマンションに走り出し、勢い余って踊り場から滑り落ちてしまったようだ。
女性は気が動転してしまったのか、その場から動けずにいる。
「大変! 助けなきゃ!」
考えるよりも先に身体が動いていた。 私は仔犬がぶら下がっている踊り場へと走り出す。
(どうか間に合って⋯⋯)
宙ぶらりんの仔犬が落ちてしまわないようにと祈りながら、仔犬がいる4階まで一気に駆け上がった。
私は息を切らせつつも、仔犬を驚かせないよう静かにそっと近付いた。
「間に、合った⋯⋯?」
踊り場から柵の外を覗くと仔犬は引っかかったリードに繋がれたまま、まだ宙ぶらりんの状態でもがいていた。
私は、仔犬が揺れ落ちてしまわないよう慎重にリードを掴み、少しづつリードを手繰り寄せた。
途中、ヒヤッとする瞬間もあったが、なんとか踊り場へと仔犬を引き上げ、そして、助けた仔犬をしっかり胸に抱きしめた。
(良かった⋯⋯。助けられた)
額の模様がハートに見えるとても可愛らしい仔犬。
その仔は抱えられたことで安心したのか、私の腕の中でしがみつくように大人しくしている。
眼下では、仔犬を助けた私の姿を見て、飼い主の女性も安堵の表情を浮かべていた。
私は女性に軽く手を振り、早く仔犬を届けようと階段を降り始めた。
その時。
私の腕の中で大人しくしていた仔犬が落ち着きを取り戻したのか急にじゃれて来た。
やんちゃな仔犬は私の腕からスルリと飛び抜けた。
(あぁ! 落ちちゃう!)
階下へ、まるで仔犬が宙に浮かんでいるような錯覚を覚えつつ、私は仔犬を捕まえようと必死に手を伸ばす。
(あと、もう、少し⋯⋯)
何とか私の手が仔犬に届く。そして仔犬を抱き込もうと、最後のひと踏ん張り、これ以上ないというくらい懸命に腕を伸ばした。
その瞬間。
私の足は宙に浮いた。
「あッ!! 危ないッ!!!」
4階まで一気に駆け上がった疲労もあってか、私は体勢を立て直すことが出来ず、仔犬を抱えこむだけで精一杯だった。
そして胸に抱いた仔犬をかばうように、背中から階下へと勢いよく落ちてしまった。
(うッッッ!)
激痛が襲う。今まで感じたことのない、何かが身体中を駆け巡り、全身が硬直するような強烈な激痛。
(く、くる⋯⋯しい⋯⋯)
私は息をすることも出来なかった。
(私⋯⋯死ぬ⋯⋯?)
瞬間、白川くんの姿が脳裏に浮かんだ。
(嫌だ!ここでこのまま死ぬなんて!せめて、せめて最期に、白川くんと話したい⋯⋯)
遠のく意識の中、私の頭の中は白川くんとの楽しい思い出だけが巡っていた。
「白川くんに⋯⋯逢い⋯⋯たい⋯⋯」
──────────
「もしもぉ~し! もしもぉ~し! あれ? 聞こえないなぁ」
聞き覚えのある声に私はハッとした。
『白川⋯⋯くん⋯⋯?』
見ると白川くんが私を見つめていた。
(あぁ、白川くんだ! 良かった! 私、生きてる! 白川くん、白川くん!)
私は何度も彼の名前を呼んだ。
しかし⋯⋯。
彼はなんの反応も示さない。
(白川くん! ねぇ、白川くんってば!)
何度呼んでも反応はない。私の声は白川くんには届いていないようだった。
瞬間、私は柔らかい感触の場所に投げ落とされた。
目の前には見たことのない部屋の天井。そして起き上がろうにも身体が動かない。
というか、手足の感覚が全くない。
(どういうこと?)
その時、私は自分が小刻みに震えていることに気付く。
震えを止めようとするけど、どうすることもできない。
すると、何度呼びかけても反応がなかった白川くんの顔が近づいてきた。
(白川君の顔が近づいてくる! えっ、何? もしかして⋯⋯キス⋯⋯?)
恥ずかしさで我を忘れている私は、気付くと白川くんの耳元にあてられていた。
「もしもし。あぁ、お前か。どうした?」
(ん?)
すると知らない人の声⋯⋯。
『お前、今日、部活来るのか?』
私じゃない声!!
しかも私のお腹から!!??
手足がない⋯⋯
小刻みな震え⋯⋯
耳元にあてられる⋯⋯
お腹から声⋯⋯
あげく、もしもしって⋯⋯。
もしや? もしかして⋯⋯?
私、白川くんのスマホになっちゃったのぉ~!?
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