『盆土産』三浦哲郎著 を読んで  笹葉更紗


〝明太子ロッシェ〟とLINEで返信した。


夏休みのお盆の時期を利用して、友人の宗像瀬奈は父の故郷である福岡県に帰省していた。

『お土産は何がいい?』


瀬奈からのLINEに迷うことなく返信したのが明太子ロッシェだ。明太子で有名な『ふくや』と、地元有名店のパティスリー『チョコレートショップ』のコラボ商品。フレーク生地を包み込むのは甘くてミルキーなホワイトチョコにスパイシーな博多明太子をたっぷりと練り込んでコーティングされた本商品は一度食べると病みつきになる、唯一無二の商品だ。


初めて食べたのは中学二年生の時。ちょうど学校の国語の授業で『盆土産』をやっていたころだ。


北陸の田舎で過ごす兄妹の元に単身赴任している父が盆に一日だけ帰省して、エビフライを持って帰り、そしてまた東京へと旅立つ父に、正月にもエビフライを土産に欲しいとせがむ話だ。


シンプルな文体でありながら、家族の状況を直接的にではなく、間接的に説明していく文章力は圧巻の作品と言える。

当時引っ込み思案で授業の朗読の時、大きい声が出せずにクラスメイトの男子からからかわれていた時、クラスメイトだった瀬奈はウチのことをかばってくれた。


正確に言うならば、からかった男子生徒を授業中にドロップキックで成敗したのだ。クラスでも人気だった瀬奈はその日以来ウチととても仲良くしてくれるようになった。


多分そうすることで、瀬奈はウチのことをかばい続けてくれたんだと思う。校内のカーストの頂点にいる瀬奈がウチと仲良くすることで、誰もウチのことを悪く言うことができない。そうやって守り続けてくれたのだ。


瀬奈は毎年お盆に時期になると数日福岡の祖父の家に行き、お土産に明太子ロッシェを買ってきてくれた。


ウチにとっての宗像瀬奈の印象は、見事に明太子ロッシェとシンクロする。


 見た目はピンクのかわいらしいフォルム。

 でも、その味わいは甘くて、そのうえスパイシーで、

 深い味わいはどこまでも神秘的で、

一度とりこになってしまうともう、絶対に手放せないと思える。


 にもかかわらず、夏休みの後半はちょっとごたごたがあったせいで、ウチは瀬奈から盆土産の明太子ロッシェを受け取るタイミングを逃してしまっていた。


 九月になって学校が始まり、放課後に二人で明太子ロッシェを食べた。


 中学生時代の、ほのかな思い出がよみがえってくる。

 盆土産の明太子ロッシェには郷愁の趣があるのだ。


「ちょっと大げさに言いすぎよ」


 瀬奈はそんなことを言いながら、髪を梳いて編み込みを作ってくれる。中学生のころに瀬奈に教えてもらって、今では自分でもできるようになったけれど、やっぱり瀬奈にやってもらったほうがきれいに出来上がる。 


 だけど瀬奈は、自分自身に編み込みをしたりはしない。単に朝起きるのが苦手でする暇がないという話だ。


「あ、そう言えばサラサはお盆、田舎に帰ったの?」


「ええ、まあ、近くだしね。今は誰も住んでいないからお墓参りに寄っただけだけど……ごめんね。別に近く過ぎてお土産とか、そういうのもないんだけど」


「いーのいーの。そういうのは気にしなくても。あ、でもさ、確か美星町だったっけ? サラサのおじいちゃんの実家」


「ええ、本当に何もないところよ。きれいな星と、天文台はあるけれど」


「それだけあるならもう最高じゃない?」


「なにが?」


「だってさ、その実家には、今、誰も住んでいないんでしょ?」


「ええ、処分するにもお金がかかるからって、そのままにしているわ。時々、掃除はしに行っているけれど」


「じゃあさ、今度そこでキャンプとかしようよ」


「キャンプ?」


「そう、みんなでその家に泊って、星を見るの! 素敵だと思わない?」


「そう、ね。悪くはないかも」


「うんうん、田舎ってやっぱりいものよね。約束だからねっ」

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