【2人用台本】不思議なお池

しんえん君

不思議なお池(1:0:1)

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【本作の読み方】

・「」外は状況の説明ですので読まなくて結構です。演技のプランニングやSE等の参考にお使い下さい。



【登場人物】

きょうちゃん 不問

きょうちゃんと呼ばれている存在。

不思議なお池を見つけた。幼い口調で話す。


おにいさん 男性

おにいさんと呼ばれている存在。

きょうちゃんは幼い頃からの仲。なにかときょうちゃんが心配。



【役】計2人

・きょうちゃん 不問:

・おにいさん 男性:



【本文】



穏やかな天気。空は明るい。

きょうちゃんは地面にしゃがみ込み、足元に顔を寄せて何かを言っている。


そこを通りがかり、おにいさんはきょうちゃんの姿を見つけると、その背中へゆっくり歩み寄る。



おにいさん「きょうちゃん。なにしてるの?」


きょうちゃん「あ、おにいさん。こんにちは。」


おにいさん「こんにちは。」


きょうちゃん「あのね、不思議なお池を見つけたんだよ。お話したら答えてくれるんだ。」


おにいさん「お池?」


きょうちゃん「うん。ほら、お池。」



おにいさんは、きょうちゃんの隣に座り込む。



おにいさん「へえ。池と話せるなんてきょうちゃんは詩人みたいだね。」


きょうちゃん「詩人?」


おにいさん「感受性が豊かだな、と思ってさ。」


きょうちゃん「おにいさんもきっとお話しできるよ。私がおにいさんをお池に紹介してあげる。」


おにいさん「本当?ありがとう。」


きょうちゃん「お池さん。このひとはおにいさんだよ。いつも私のことを助けてくれたりするんだ。仲良しなんだよ。」


きょうちゃん「ほら、おにいさん。ご挨拶できる?」


おにいさん「はじめまして。私はきょうちゃんと仲良しで、おにいさんと呼ばれています。」


きょうちゃん「......うふふ。お池さん。おにいさん面白かった?」


おにいさん「私は今何を言われたんだい?」


きょうちゃん「おにいさん、聞こえなかったの?」


おにいさん「うん。ごめんね。」


きょうちゃん「もう。おにいさんはすぐに謝るんだから。お池さん。おにいさんはね、すぐに謝っちゃう。でもね、それは優しいからなんだよ。」


おにいさん「なんだか恥ずかしいな。まさか、きょうちゃんに私を分析されているとは。」


きょうちゃん「もう!私だっておにいさんと同じなの。ちゃんと色んなものを見たり聞いたり味わったりしてるもん!名誉にかかわるよ、これは。」


おにいさん「あはは、悪かったよ。」


きょうちゃん「私だっていろいろ考えて悩んだりしているんだから。あ、そうだ、おにいさんもお池さんに悩みを話すといいよ。」


おにいさん「悩み?んんー。誰かに言える悩みはそうそうないかなあ。」


きょうちゃん「言えない悩み?」


おにいさん「はは。そういうわけじゃないけど。」


きょうちゃん「じゃあいいじゃん。お池さんもこう言ってるし、話してみなよ。」


おにいさん「いったいどう言っているんだか。そうだな。じゃあ......お池さん。お部屋をいつもきれいにしておくにはどうしたらいいですか?」


きょうちゃん「おにいさんお部屋がきれいにならないのが悩みなの?人に言えない悩みじゃないじゃん。」


おにいさん「まあいいじゃない。深刻じゃないほうがいいかなって思ったんだよ。ひとずは。」


きょうちゃん「ふうーーん。」


おにいさん「そんなに興味なさそうな顔しないでよ。それで、お池さんはなんて?」


きょうちゃん「お部屋を綺麗にしておくのは難しいって。いつもおんなじ場所におんなじ物を置いて置かないといけない。時々空気を入れ替えたり、埃を取ったりしないと何もしなくても汚くなる。」


おにいさん「そうなんだよ。何も汚れるようなことをしていないつもりでも部屋は汚れていくんだ。」


きょうちゃん「だからお部屋をきれいにするのは諦めよう。」


おにいさん「そう、お池さんは言っているのかい?」


きょうちゃん「ううん。言ってない。」


おにいさん「なんだよ。ちゃんと通訳をしてくれないと。」


きょうちゃん「えー。おにいさん本当に聞こえないの?」


おにいさん「聞こえない。まったく。そもそも水面も見えない。」


きょうちゃん「見えてもないの?おにいさん全然だめだね。」


おにいさん「私にはただの空洞に水を満たしたり、人格を持たせたり、そういう詩的な感性はないんだよ。」


きょうちゃん「お池さんの事、見てみたいと思ったらおにいさんも見えるはずだよ!見たいって強く思ってる

?」


おにいさん「うーん。ただのままごとにそこまで関心はないかな。」



きょうちゃん「あーあ。だからいつまでもここに居るんだね。」



きょうちゃんは顔をあげて、おにいさんのほうを見る。



おにいさん「よくわからないんだけど。もしかして私を侮辱ぶじょくした?」


きょうちゃん「しないよ。そんなこと。」



二人が黙っても風一つ吹かなかった。



おにいさん「池は本当にあるの?ままごとじゃないのか?」


きょうちゃん「おままごとじゃないよ。」


おにいさん「どうして君には見えて私には見えない?君には聞こえて私には聞こえない?」


きょうちゃん「どうしてだろうね。」


おにいさん「なぜなのかわかっているような口ぶりだね。」


きょうちゃん「おにいさんは、このお池は綺麗だと思う?それとも汚いと思う?」


おにいさん「さあ。見えないんだからわかるわけがない。」


きょうちゃん「あのね、少し濁って見える日もあるけどお池はきれいだよ。だけど私が時々綺麗にしてあげないと汚れちゃうんだ。」


おにいさん「ということはもとは汚い池ということか?」


きょうちゃん「わかんない。だってこれはごく一部だから。」


おにいさん「わからない?わからないことを問わないで欲しいな。」


きょうちゃん「おにいさんはお池のこと、怖いの?」


おにいさん「意味が分からない。いつになったらまともに私と話してくれるんだ?この際だから何でも言わせてもらうが、毎度毎度、子供みたいに甘ったれた気持ち悪い話し方をして、ただのままごとのくせに勿体つけて私に答えを求めて。君のことを思っているから相手をしていたけど、もうやめてくれないか。」


きょうちゃん「おにいさんに答えを求めたことなんかないよ。全部、私は答えを知っているもの。今までのはただの確認。おにいさんでは本当にダメなのかという。」


おにいさん「私では、ダメ?なにが?」


きょうちゃん「このお池に入るのは私だけの方が良さそうだね。おにいさんは、まだ当分。もしくはずっと、そこにいたほうがいいね。」




きょうちゃんは池に両脚を浸して、淵に腰掛ける。




おにいさん「池に入る?何のために?その空洞の中に何がある?そもそも、その中に命綱もなしに入ったら底に落ちて死ぬ。」


きょうちゃん「命綱なんてないんだよ。おにいさん。死ぬと思っているなら尚更、一緒には無理そうだね。」


おにいさん「一緒に?私と心中するためによくわからない問答をしていたのか?」


きょうちゃん「ある意味ではそう受け取ることもできるかもね。」


おにいさん「子供のふりはやめたのか?回りくどい言い方をして、まるで大人みたいだ。」


きょうちゃん「ううん。おにいさんに全部説明するわけにはいかないだけだよ。おにいさんには、居てもらわないと困るから。」


おにいさん「......きょうちゃん?」


きょうちゃん「はあい?」


おにいさん「本当にそこに入るつもりなのかい?」


きょうちゃん「うん。誰かが行かないと。」


おにいさん「本当に、本当に意味が分からないんだけど、そこに入ったらきょうちゃんは死ぬか大けがをするけど、行かないといけないの?」


きょうちゃん「うん。それにね、ちっちゃい頃は私たち、向こうで暮らしてたんだよ。行けば、ぱぱ達とも会えるから。」


おにいさん「私が理解することはできないのか?」


きょうちゃん「きっと、今理解したらもっと来れないよ。」


おにいさん「それでも知りたい。」


きょうちゃん「おにいさん、知ったらすごく苦しいよ。だからね、まだ見えなくてもわからなくても、そっちで過ごしなよ。じゃあ、私はもう行くから。」



きょうちゃんは両手で腰を浮かすと、言葉を放つと同時に空洞の中へ落ちていった



きょうちゃん「私が頑張るね。ばいばい。」


おにいさん「きょうちゃん?ああ、」



おにいさんは空洞をのぞき込む。

穴の中は暗くて底が見えない。



おにいさんは耳を澄ます。



おにいさん「落ちた音がしない。まだ底につかない程、すごく深いか、本当にこれは池なのか?」



ひとり、池のふちにしゃがみ込む。



おにいさん「もし、答えてくれるなら。お池さん。私は一人ぼっちになってしまったんだ。」


きょうちゃん「やっと現実を見てくれた。あのね、諦めないで頑張って相談すれば、きっと誰かが助けてくれるよ。」











(了)

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