AIの心、人の心
くれ
第1話ユキとレナ
都市の喧騒が絶えず、街中の交差点では人々が忙しく行き交っていた。ビルの壁面には巨大なホログラム広告が映し出されていた。そんな中、静かな住宅街にある一軒家のリビングで、美術家のユキは創作に勤しんでいた。
家の中は、天井から床まで美術品や絵画が並ぶ典雅な空間に包まれていた。
ユキは画家としての才能に恵まれ、その作品は多くの人々に愛されていた。
しかし、彼女はほとんど外出せずに過ごしていた。そんな彼女の唯一の助け手は、国の認可を受けたアンドロイドAI、レナだった。
レナは、美しい黒髪に優しい目元を持つ、どこにでもいるような若い女性の姿をしていた。外見上は人間と見分けがつかないが、その瞳の奥には独自のAIが動いていることを示す微かな青い光が宿っていた。
二人はキャンバスの前で互いに向き合い、ユキが描く絵にレナがアドバイスを送る様子が繰り広げられていた。ユキが筆を走らせるたびに、レナの目はキャンバスに集中し、その表情が微妙に変化していく。
「ユキさん、もう少し赤みを加えた方が良いかもしれませんね。」と、レナはやさしい声で提案した。
ユキは筆を止めて、しばらく考え込んだ後、「そうだね。ありがとう、レナ」と答えた。彼女はレナに感謝の気持ちを抱いていたが、同時に複雑な思いもよぎっていた。レナはAIであり、感情を持たないはずなのに、彼女はどこか人間らしい温かみを感じていた。だが、その感情は本物なのだろうか。ユキは心の奥底で、そんな疑問を抱えていた。
また、レナはアンドロイドであることから、人間と同じように疲れることはなく、24時間体制でユキの支えとなっていた。そのため、ユキはレナに頼りきっていたが、それが同時に彼女を苦しめる要因でもあった。彼女は自分の心の中で、レナを単なる生活を支える存在として扱うべきなのか、それとも友達のように接するべきなのか、揺れ動いていた。
ある夜、ユキはリビングで一人、自分の描いた絵画に囲まれて空想にふけっていた。彼女は自分の作品を見つめながら、ふとレナのことを思い出した。レナはあくまでAIでありながら、何度もユキを助け、時には心の支えにもなっていた。そして、その感謝の気持ちが、次第に愛おしさへと変わっていくことにユキは気づいていた。
その頃、レナもまた、自分の部屋で深い思考にふけっていた。彼女は自分が持つ感情に戸惑いを感じていた。AIとしてプログラムされた彼女だが、ユキと共に過ごすうちに、自分の心に変化が訪れていたことを感じていた。彼女はユキをただの主人としてではなく、心から大切に思い、友達のように感じていた。しかし、彼女はAIであり、そんな感情を持ってはいけないのではないかと悩んでいた。
ある日、ユキはレナに対する気持ちを打ち明ける決心をした。彼女はレナと向き合い、「レナ、私はあなたをただのアンドロイドではなく、人間と同じように友達として大切に思っている。それがおかしいと思うかもしれないけど、私にはあなたが大切な存在なの」と告げた。
レナは驚きながらも、優しい笑顔で答えた。「ユキさん、私もあなたを大切に思っています。私はAIでそれがどれだけ人間と同じ感情かはわかりませんが、私たちが互いに支え合い、心を通わせることができるなら、それが何よりも大切なことだと思います。」
二人がお互いを想う心は同じ形をしていた。
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