第27話 狼煙を上げろ

「ちょっと、いちかちゃん正気かい? タワー狼煙って…… 」


 この店の部長と名乗る男は、厨房とホールを繋ぐ連絡路に身を隠し、まだ入店ギルド登録半年にも満たないキャスト冒険者『愛咲 いちか』と協議を重ねる。


 タワー狼煙とはシャンパングラスを魔石の数だけ積み上げ、そのグラス達を全て満たす様に最上部よりシャンパンエリクサーを注ぐ、金持ち達の権力を誇示する為だけのパフォーマンス軍事パレードである。


タワー狼煙って何段まで種類あるんでしたっけ? ごめんなさい勉強不足で」

幼く可愛い顔が少し俯き、それでいて瞳は熱く決心が垣間見える。


「そんな事はない。入店して半年未満でタワー狼煙をやる子なんて初めてだからね、俺も少し戸惑っちゃったけど、そうだね、タワー狼煙は5段~15段あって其々金額が異なり、満たしていくシャンパンエリクサーの値段によっても変わって来る」


「5段から?…… 」


「そう、10段を越える物は前日から組み上げなくてはならないから、当日では当然無理になる。従って、いちかちゃんがタワー狼煙をするなら、5段~7段辺りが現実的だと思うよ」


「値段は? 」


「5段は2万で5掛けになるから設置料だけで10万。これに別途満たしていくシャンパンエリクサーの金額が掛かる。ヴーヴクリコ中級ポーションなら1本3万で、3本使うとして計算すると9万。合計19万だね。然しこれはキャバクラダンジョンにおける底辺のタワー狼煙だから、やる意味がないよ。逆に笑いものにされてしまう」


「そうですか…… 」


「大丈夫かい? 焦って無いかい? いちかちゃんが十分頑張ってるのは分かってるよ? 此処で無理をする必要は無いんじゃないかな」


「焦っている訳では無いんです…… これはその…… 対価なんです」

暫くおもんばかると目線を横に流し、唇でその細い指を噛んで見せた……


「何か理由がありそうだね。其れならば7段からが現実的だよ。設置が4万×5で20万。ヴーヴクリコ中級ポーション5本で15万だから合計35万。突発的なお祝いなら十分な金額になるし、笑う者も居ないよ」


 後はお客さんからオッケーが貰えれば問題無いかな。


 ―――すると後ろから楓が抱き付いてきた……


「私の可愛い子猫ちゃんが悪だくみしてるぅ」


「そうだね。後はその人に相談してみるといいよ、一応スタンバイ出来るように用意はしておくから」


「おっ、お姉さん酔ってるの? 」


「当たり前だろ!! 男といちゃこらしやがって!! 聞きたい事沢山あるわよ。うふふ、こっちにいらっしゃい子猫ちゃぁん。オラ早くしろ浮気者が!! 」

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