第10話

 次の日の朝。大輔は部活が終わって着替えると、直ぐに二年B組へと向かった。教室に着くと直ぐに中を覗き込み、絵美の方へと視線を向けている様だった。


 絵美の周りには男子生徒や女子生徒が、テンション高めに会話をしながら集まっていた。その中に雄介もいて、大輔は安堵したようで微笑んでいた。


「ねぇ、大輔」と香織が大輔の後ろから話しかけると、大輔はビックリしたようで体をビクッとさせながら、後ろを振り向く。


「なんだよ、香織さん。急に話しかけるからビックリしたじゃないか」

「何を見てたの?」

「なにをって……」


 大輔が言葉を詰まらせていると、香織はB組の教室を覗き込む。大輔の視線の先に誰が居たのか分かった様で、ムッとした表情を浮かべた。


「ふーん……まぁいいわ。ねぇ、大輔。今日の放課後、一緒にカラオケ行こうよ」

「悪い。部活があるから行けないよ」

「──女の子と二人っきりになれるんだから、部活なんて休んじゃいなよ」


「二人っきりって……付き合ってもいないのに、それは──」と、大輔が言い掛けると、香織は大輔の言葉を遮るように「まずいだろ? なんて言わないよね? 昨日、あの子と二人っきりでデートしてたんだから」


 大輔はそれを聞いて、目を見開いて驚く。


「──何でそれを? 誰かに聞いたのか?」

「うぅん。私、昨日おなじショッピングモールに行ってたの」

「マジかよ……凄い偶然だな」

「それで……どうする? ──それでも私とじゃ行きたくない?」

 

 さっきまで強気な態度を見せていた香織が、急に弱気な態度を見せたので、大輔は可哀想と思ったのか「分かったよ。付き合うよ」と、すんなり返事をする。それを聞いた香織は安心したようで笑顔を見せた。


「やったぁ。じゃあ放課後、校門前で待ってるね。楽しみにしてるから出来るだけ早く来てね」

「うん、分かった」


 ※※※

 

 放課後になり、二人は約束通り駅の近くにあるカラオケ店に向かった。その間、特に目立った会話はなく、世間話をする程度だった。


 ──受付を済ませると、二人は101とプレートに書かれた部屋に入る。大輔が部屋の奥に進むと、香織は真っ先に明るい部屋を薄暗くした。


「この方が、文字が見やすいでしょ?」

「あぁ……そうだね」


 大輔は返事をしながら、L字になった黒いソファーに鞄を置くと、モニターの横に座った。香織はまだ立っていて、インターホンの前に立つ。


「何か飲むでしょ? 大輔君は何が良い?」

「ありがとう。コーラが良い」


「分かった」と香織は返事をして、受話器を手に取ると「──あ、すみません。コーラを2つお願いします」と注文した。


「歌い出したら暑くなるだろうし、ちょっと温度下げて良い?」

「うん」


 香織は大輔に確認を取ると、近くにあったエアコンの温度を下げた──そして大輔の向かい側に座らず、モニターの正面に座る。


「私が先に選んでいい?」

「どうぞ」


 大輔は近くにあったタッチパネルを手に取ると、香織に渡す。


「ありがとう。さぁ……て、何を歌おうかな」と香織は呟きながら、タッチペンを手に取り、曲を選び始める──少しすると「ねぇ、大輔」


「ん?」

「あの子とは、どこまで進んでるの?」


 香織は大輔の顔を見ながら会話をする事が出来なかったのか、タッチパネルを見たまま、そう質問をしていた。


「あの子って、一緒に買い物を行った女子の事だよね?」

「そう」


「絵美さんとは──」と、大輔が言い掛けると、部屋の外からノックが聞こえてくる。大輔が「はい」と、返事をするとジュースを持った店員が部屋に入ってきた。


 店員は「お待たせしました。コーラになります」と、コーラが入ったコップ2つをテーブルに置き、「──ごゆっくりどうぞ」と会釈をすると部屋から出て行った。


 大輔は話を続けるタイミングを窺っているのか、黙ってコーラを見つめる。香織は話を聞く前に落ち着きたいのか、前のめりになってコップを手に取ると、「まずは飲んでから話そうか?」


「うん、そうだね」


 大輔はコップを手に取り、コーラをゴクッと一口飲む。香織はゴクッ……ゴクッ……と飲んでから、コップから口を離した。


「──それで、絵美さんとはどんな関係なの?」と先に絵美が口を開くと、大輔は「ただの知り合いだよ。最近、知り合ったばかりなんだ」


「──え? それでデートまでしたの?」

「デートっていうか、気になる人のためイメチェンしたいんだけど、どうしたら良いか分からないから、相談に乗って欲しいと言われて、付き合っただけだよ」


 香織はそれを聞いて、苦笑いを浮かべながら「そ、そうだったんだ。なんか勝手に勘違いして、色々言っちゃった。ごめん」


「別に良いよ」

「えへへ……」


 香織は恥ずかしそうにタッチパネルを手に取ると、直ぐに曲を入れ「最初はこれでいいや」と、マイクを手に取る。


 そのまま何事も無かったかのよう歌い始めた──。


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