第1回『幼少にして大黒柱の男の子』

お題

「われわれの仕事を簡単に説明しますと……」


 天使の笑みを浮かべて上役はこう告げた。


「……貸したものは利子つけてちゃんと返してもらえ、に尽きます」


 それから目の奥に悪魔の炎をちらつかせて続けた。


「だから、返してもらうまではくれぐれも手ぶらで戻ってこないように」


 そう。貸したものを返してもらう。

 わたしの仕事を簡単に説明するならそういうことだ。


 実にシンプルな商売。

 素直に返してくれる相手ばかりなら、こんなに良い仕事はないくらいだ。


 だがもちろんそんな相手ばかりではない。

 それどころか海千山千の猛者……もとい、顧客がたくさんいるのだ。


(いつの間にか胃薬が手放せなくなったな……)

 ガリリと錠剤をかみ砕いて飲み込み、青空をにらみつける。


 今日の交渉先はなんと男の子。

 しかも幼い弟妹を抱え、親の面倒まで見ているしっかり者。

 確かにいい子なんだけど……それだけに厄介な相手なのだ。

 

 かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶのだった。




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