その六二 パセリが一年草になる日

 昨秋、種を蒔いたイタリアンパセリがすべて、薹立ちした。

 なぜ?

 パセリは二年草ではなかったか?

 秋に蒔いたパセリは翌年、一年間、花を咲かせることなく葉を繁らせ、二年目の春に薹立ちして枯れるものだろう?

 いや、もちろん、一年目の春に薹立ちする場合もあることは知っている。

 しかし、すべてだぞ、す・べ・て。

 本来、二年草である植物がそろいもそろって一年目の春に花を咲かせて枯れるなんて、そんなことあり得るか?

 それとも、イタリアンパセリは一年草なのか?

 そんなことはないはずだが。

 そもそも、イタリアンパセリは毎年のように作っているが、いままで『そろって』一年目の春に薹立ちしたことなんてなかったはずだぞ。今回、買った種がたまたま一年目に花を咲かせる遺伝子をもっていたのか?

 それとも。

 それとも――。

 温暖化による気温上昇で、パセリの生理が狂ったのか?

 いまどきはもう本当に、春なんてすっ飛ばして夏だからなあ。そりゃ、植物もおかくしなるだろ。うちのベランダ菜園ではトマトが事実上、栽培不可になっているし、プロ農家でさえ温暖化のせいでうまく育てられないと聞いているし。

 いや、野菜類はまだいいのだ。葉っぱさえ伸びれば食用になる。深刻なのは果樹類だ。温帯果樹は冬の間、寒さにあたり、一定期間以上、休眠しないと翌年に花を咲かせない。つまり、実をつけなくなる。このまま気温があがりつづけ、冬と呼べる冬がなくなったなら、そのときは……。

 リンゴも、ナシも、カキも、馴染みの果物がなにひとつ存在しない世界になる。

 そして、米や小麦だって、あまりに暑ければ実をつけなくなる……。

 大規模な気候変動によって従来の栽培技術が一切、通用しなくなり、農業が壊滅する日は近い……かも知れない。

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