その五三 ハコベには勝てないのだ

 前回のつづき。

 前回、

 「ハコベの陰に隠れて気がつかないだけで、アスパラガスの新芽はすでに、けっこう芽吹いているのかも知れない」

 と言うようなことを書いたがやはり、その通り。ここに来て、何本ものアスパラガスの新芽が、こんもり繁ったハコベの森を跳び越えて姿を表しはじめた。

 まだまだ隠れている新芽はあるようで今回、伸びてきたアスパラガスを切ったら、そのすぐそば――だろう、おそらく――にあった伸びはじめの新芽まで一緒に切ってしまった。しっかりした太さの新芽で、育てば食べ応えのあるアスパラガスに育っていたはずだけに残念である。

 不注意と言えばそれまでなのだが、つまりはそれだけハコベが繁っていると言うこと。

 こういうこともあるし、秋から春にかけては我が家のプランターはほとんどがハコベに占拠されるので、他の葉物野菜を育てられないというデメリットもある。

 それでも、ハコベの駆除はしていない。

 と言うか、そもそもハコベを駆除なんてできない。

 最初のうちはやろうとした。

 ハコベの新芽が出てくるつど、取りのぞいていた。しかし――。

 今日、一〇本の新芽をのぞいたら次の日には一〇〇本の新芽が芽吹いている……という状況がつづいてあきらめた。ハコベを駆除しようと思えば、除草剤を使うしかないだろうがそんなことをしたら肝心の野菜も作れなくなる。

 私は勝ち目のない戦いを延々とつづけるほどアホではない。

 ハコベに対して全面的に負けを認め、降伏した。

 以来、ハコベは放ったらかしである。勝者たるハコベは毎年、文字通りの『我が世の春』を謳歌している。

 そもそも、ハコベは駆除する必要などない。ちゃんと食べられる野草だし、栄養豊富でとくに内臓にいいという。なにもしなくても勝手に育つので手間も費用もかからない。おまけに、なぜか知らないが虫にも鳥にもやられない。アオムシもつかなければ、ハモグリバエの幼虫が葉を食いあらすこともない。鳥に食べられることもない。アブラムシさえほとんどつかない。

 アブラナ科の菜っ葉など、このすべてにさんざんにやられるのに……謎だ。

 そして、ハコベは調理法も多彩。

 少々、アクがあるので、生で食べるのはお勧めできないが、さっと炒めるか蒸すかしてメインの付け合わせにするもよし、味噌汁の具にするもよし。

 ハコベ入りのオムレツはすでに、我が家の春の定番。今年もすでに何回か作っている。卵の黄色とハコベの緑のコントラストが美しい逸品である。

 本当、農家の方々は本気でハコベを商品として栽培してはどうだろうか。

 こんなに手間いらずで便利な野菜は他にない。大体、この世には食べられる植物が無数にあると言うのに、店で見かける野菜はいつもいつも同じものばかり。ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ……うんざりしてるんだよ、ほんと。どうせなら、もっとかわったものも食わせてくれ!

 というわけで、『葉物野菜は虫や鳥に食われてばっかりで、ちっとも収穫できない!』と、お嘆きのそこのあなた。

 ぜひともハコベを育てましょう。

 なに、ハコベなんて、その辺にいくらでも生えているはずだから、ちょっと探せば見つかるでしょう。小さな種をいっぱいに付けるので、それを持ち帰ってプランターに蒔いておけばすぐにおいしいハコベが山ほど食べられるようになる……はず。多分。


 ところで、収穫したアスパラガスはその日さっそく、ジャガイモ、ウインナーと一緒にタジン鍋に放り込んで、レンジで蒸して、塩コショウを振りかけていただいた。

 うまかった。

 なにしろ、究極の産地直送。鮮度でこれに勝るものはない。柔らかく、しっかりと甘味が乗っていて、とにかくおいしい。

 さすがである(笑)。

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