その四八 トマト初収穫! ……って、もう一二月だぞ、おい

 トマトが採れた。

 今季初の収穫である。

 まあ、ほんの数個ではあるが。

 それでもちゃんと赤く熟したトマトが採れた。しかし――。

 もう一二月なんである。

 一二月と言えば冬なんである。

 一二月と言えばクリスマスなんである。

 クリスマスの『赤』と言えばイチゴなんである。それなのに――。

 トマトが採れた。

 それも、ようやくの初収穫。

 なにが悲しくて夏野菜であるトマトを一二月に、この冬まっただ中のシーズンに、クリスマス間近とあってイチゴたちがデカい面をしているときに収穫せにゃならんのか。

 しかも、最近、急に冬らしくなってきたからさすがにこれ以上は耐えられまい。もうじき、寒さに負けて枯れるだろう。そうなれば当然、それ以上は採れなくなるし、いまついている緑の実も赤く熟することのないまま枯れてしまう。

 本来なら初夏から秋まで長く採れるというのに、これでは収穫出来るのは一二月の一ヶ月だけ、いや、へたしたら半月程度で終わってしまうではないか。

 なんで、こうなる?

 夏野菜のトマトを秋冬採りを狙って夏蒔きしたのが悪いのか?

 しかし、夏の盛りには、花は咲いても実はつかないのは証明済みだしなあ。現に今年だって、八月中に咲いた花はひとつも実をつけなかった。すべて、そのまま落ちてしまった。いまついている実はすべて、夏が終わってからようやく実りはじめたもの。春蒔きしてたら夏場の花の盛りの時期には絶対、実は採れないし……。

 それでも、初夏と秋になってからの二シーズン収穫できる分、秋冬採りよりはやはりマシなのか。いまの調子では一ヶ月と採れそうにないしなあ。

 しかし、それだと、実りもしないのに夏の間ずっと、プランターを占拠することになってしまう。『採れない』とわかっているのに他の多くの夏野菜が育つ時期を花がポロポロ落ちると承知の上で生やしておくのもなあ。

 スペースに余裕のある本格的な家庭菜園ででもあればまだしも、ごくごく限られたスペースしかないベランダ菜園でそれは致命的。はあ……。

 そもそも、うちだけではなくプロ農家でさえ夏場にトマトを作るには苦労しているし、この分だと温室ならぬ冷室を作ってクーラーでガンガン冷やしてやらないと夏場にトマトは採れなくなるのかもしれない。

 どういう時代だ、いったい。

 ただ、この冬トマト。うまいことはうまいんである。じっくり時間をかけて熟すせいか味にコクがある。さらに、『シャーベットトマト』という珍味もある。

 冷え込んだ冬の朝にはトマトのなかのゼリー状の部分が適度に凍る。これを食べるとシャリシャリした食感で実にオツ。もちろん、日が昇ればすぐに溶けてしまうので買って味わうことなど出来ない(冷凍庫に入れておけばいい? 自然に出来た天然ものを食するのがオツなのだ)。まさに自分で育てている人間、それも真冬にトマトを育てようという変わり者だけが味わうことの出来る幻の味である。

 そのようなかわった経験が出来ると言う点では冬トマトも悪くはない。しかし――。

 トマトはやっぱり、夏に採りたい。

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