その三五 な~すときゅ~うりがで~あった

 な~すときゅ~うりがで~あった。

 と言うわけでようやく、ナスとキュウリが実りはじめた。

 本当に『ようやく』である。種から育てている分、どうしても収穫までは遅くなる。苗を買ってきて育てるのに比べて優に一ヶ月以上、遅い。

 が、まあ良い。もとより、趣味のベランダ菜園に『効率』なぞ求めていない。成長する姿が見られて、それなりに収穫出来て、楽しむことが出来ればそれでいい。いや、もちろん、早く、多く、実がついてくれるならそれにこしたことはないわけだけどね。

 ところで、ナスの苗は結局、買うことはなかった。育ちの遅れていた株も気温があがると同時にどんどん育って、いまでは一番、成長の早かった株とかわらないぐらい大きくなっている。

 と言うか、実をつけたのは育ちの遅れていた株の方。花を咲かせるのは成長の早かった株の方が先だった。ところが、この花、雌しべが雄しべより短かった。ナスは多くの肥料を必要とすることで有名な野菜であり、雌しべが雄しべより短いのは肥料が足りていないサイン。こういう花は実をつけないか、つけてもおいしくない……とのこと。

 話の通り、この花は実をつけることなく落ちてしまった。すぐに肥料をたしたおかげか次に咲いた花はちゃんと、雌しべの方が長かった。

 しかし、これも実をつけることはなかった。

 正確に言うと小さな実がついていることはついていたのだが育たなかった。あわてて肥料をやったぐらいでは株全体にきちんと栄養が行き渡らず、実を育てる力がなかったのだろう。

 残念だが、まあ良い。

 ナスの収穫期は結構長く、秋まで収穫出来る。しかも、秋ナスはおいしいことで有名。『秋ナスは嫁には食わすな』という有名な言葉もあるぐらい。ただし、この言葉、『ナスは体を冷やすので子どもを生む嫁には食べさせない方がいい』という解釈もあるそうだが。

 それはともかく、我が家のナス。とにかく元気に育っているからこれから先、どんどん実をつけてくれるだろう。楽しみである。

 ナスとは対照的に短期勝負なのがキュウリ。なにしろ、キュウリの場合、九月に入るとウリハムシがやってくる。葉っぱを食い荒らすだけならまあいいが、実までかじる。おかげで、こいつらが出てくるともう食べるところがなくなる。

 九月になるまでに何本とれるか。

 まさに、短期決戦である。

 それにしても本当、どこからやってくるんだ、こいつら。

 どうやって、キュウリがあることを知る?

 そもそも、キュウリ――と言うかウリ科の植物――を食べて生きているのなら、キュウリのない夏場以外はなにを食って生きているんだ?

 どこからともなくやってくるテントウムシといい、以前は見かけなかったのにイチジクの木を植えた途端、姿を見せるようになったカミキリムシといい、昆虫というのは不思議である。

 その他、オクラもつぼみをつけはじめた。

 知っての通り、オクラはネバネバ食感。ネバネバ食材は夏場のスタミナ源として有効と言うからこれからの時期には欠かせない。新鮮なオクラを生でかじるとポリポリとした食感で心地良いし、どんどん育ってもらいたい。

 ところでこのオクラ、原産地である東北アフリカでも『オクラ』と言うらしい。

 えっ?

 『原産地の名前をそのまま取り入れたんじゃないのか?』って?

 多分、ちがうだろう。少なくとも、私の読んだ野菜の本にはそんな風には書いていなかった。

 さて、ナス、キュウリ、オクラとくれば残るは夏野菜四天王最強(?)トマトである。

 実はこのトマト、少し後悔している。真夏の暑さで花粉が死んでしまい、花は付けても実を付けない。その傾向があるから今年は秋になってから花を咲かせるよう、春先に種を蒔くのはやめたのだが……。

 トマトの種は春先に蒔くと発芽するまで優に一月はかかる。本当に、それぐらいかかるのだ。忘れた頃に『ぴょこ!』という感じで芽を出している。だから、暑くなってから蒔いても同じぐらいかかるだろうと思って六月中に蒔いたのだが……ほんの数日で芽が出てしまった。

 やはり、気温が高いと発芽までの時間も短くなるらしい。おかげでもうそこそこ育ってしまった。この調子で育っていくと八月中に花をつけてしまいそうだ。八月の暑さを避けるために遅蒔きにしたのに……大丈夫か? ちゃんと実はつけるか?

 なんて、心配しても仕方がない。

 しょせん、自然相手の作業。運を天に任せるしかない。

 さあ、この夏、夏野菜四天王そろい踏みは見られるか⁉

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