第二章1話 あれから二年 〜 名古屋駅ダンジョンにて

 俺と仁絵が高校を卒業し、孤児院から独立してから2年が経った。


 会社もある程度、軌道に乗り、社員もそれなりに増えつつある。

 代表権の無い会長に親父(義父)の神野源三、相談役にお袋(義母)の神野エミルについてもらい、時折、サポートについてもらっている。


 今、俺たちは探索訓練として、愛知県名古屋市にある名古屋駅ダンジョンに来ている。

ここはB級ダンジョンで、現在までに確認されている階層は53階層である。このまま未発見の階層が更に増えるとA級ダンジョンに指定されるかもしれない。

 メイチカ、ユニモール、エスカ、名古屋ゲートウェイの周辺の地下街がダンジョンに侵食され、1階層の広さでは日本最大と言われている。


現在のパーティーは7人体制で、シールダー(前衛・楯職)に小坂井宏樹(3級)、軽戦士(前衛・アタッカー)神野大和(2級)、モンク(前衛・格闘僧侶)神野源三(1級)、ローグ(中衛・斥候)九条知仁(2級)、プリーステス(中衛・聖職者)川谷瑞希(3級)、魔法師(後衛・魔導士)神野仁絵(2級)、魔法師(後衛・魔導士)神野凉香(2級)で訓練(レベリング)の真っ最中だ。


 これまでに10階層、20階層までは問題無くこなしてきたが、それ以後の階層で若干の狂いが生じてきていた。


 約束通りに、宏樹と瑞希が大学の飛び級制度を利用して、俺と仁絵が立ち上げた会社「株式会社日本シーカーズ・ギルド」に4月に入社した。


 二人は、大学在学中に極力ダンジョンアタックを控え、単位取得をどんどん進めて卒業を早めた。 しかし、日頃から探索と訓練に明け暮れた俺、仁絵、九条、凉香義姉さんとは、練度(シーカーランク)に開きが出てもしょうがない話だ。


 そこで、シーカーとしての感をいち早く取り戻してもらう為、社員研修と称して二人を強制的に名古屋駅ダンジョンに連れて来て、リハビリとパワーレベリング(PL)と言うわけだ。


「よし、全隊止まれ! ふぅ、疲れたな。歳には勝てんと言うことか。 ここで一時休憩するぞ。」

 親父が声を上げて、みんなに指示を出す。


「さぁ、ここに座って休憩だ。水分をちゃんと取れ、今の内に腹に少し入れておけよ!」

 親父が皆を促す。


 車座に座り、皆揃って息を吐く。


 現在階層は29階。下へ続く階段の手前だ。

次は30階層のボスフロアだからワンフロアーのタイプだろう。

 名古屋駅ダンジョンに入って、既に二日が経っている。パーティーメンバーの中で、特に宏樹と瑞希に疲れが出ているようだ。


「宏樹、瑞希、久しぶりの本格的なダンジョン・アタックだ。 どんな感じだ?」

 皆が水筒から水分を取る中、俺は宏樹に訊いてみる。 


「大和、かなり、しんどいね。 ブランクがあるせいで、《タウント(挑発)》や《受け流し》のタイミングがどうしてもズレる時があるよ。」


《タウント》は、楯職の必須スキルと言われている。主に敵に対して掛るスキルで、使用者に対してヘイトを上げ、攻撃を自分に集中させると言うものだ。複数の敵に対して、クラウドコントロールに使われる。


《受け流し》は、近接戦闘職の基本スキルで、楯や武器などで相手の攻撃を滑らすことにより、体制を崩させ隙を生み出す効果がある。


「瑞希は?」

「私は、位置取りと呪文の選択に迷いが出てしまったわね。先程は、私のミスで凉香さんを危ない目に遭わせてしまって、ご免なさい。」

 凉香義姉に頭を下げる。


「そうね、この2年の経験の差がでてるからね。まっ、大きなケガをしたわけじゃ無いから、大丈夫よ!」


「でも、中衛は守備範囲がどうしても広くなるからなぁ。俺みたいに後ろから矢を放ってばかりなのが申し訳無いぜ。」

 九条は、基本的に弓を射て、敵の撹乱と牽制を主としているから、気にし過ぎじゃ無いのか? それに後衛に敵が近づいたら、真っ先にフォローに入ってくれるわけだしな。


「九条くんは、それ以外でも頑張ってくれているんだから、そこまで卑下しなくても大丈夫じゃない?」

 仁絵が九条をフォローする。九条は、ローグとしての知識、経験、直感を活かし、俺たちパーティーの斥候をもやってくれている。


「お前たち、俺から一言言わせてもらって構わないか?」

「あぁ。親父、頼む。」


「まずは、ここまでお疲れさん。29階層までなんとか無事に来られたな。 重畳重畳。 だがな、小坂井、川谷、お前たちはこの二年のブランクが目立ち過ぎだ!


 一つ、体力が他の奴より低い。

 二つ、お互いだけで心配し過ぎてる。

 三つ、戦闘の感覚が鈍っている。」


「「えぇ、そんなにですか!?」」

「まだあるぞ? 言うか??」


「おとうさん、沢山詰め込み過ぎてはダメですよ。かえって悪化します。」

「そうね、義父さん、まずは少しずつ伝えた方が良いわよ。」


「そ、そうか。 まず、三つ目は、この二日の間で流石に少しは戻って来ているとは思うがな、一つ目の体力不足が顕著だ。 お前たち二人、明朝5時半前に道場に

出頭。 しばらく基礎体力と格闘スキルを磨け。異論は認めん!」

「「はい。」」


「二つ目のは、お前たちは戦闘中に自分たちだけに意識を向け過ぎている。

死ぬぞ!? 特に癒し手でもある瑞希だな。 もっと、全体を観ろ! 」

「「死っ、死ぬ?!」」

「あぁ、お前ら一人なのか、二人なのか、パーティーの誰かなのか、全滅か、、、

だな。」


 ・・・・・・・。


 みんな黙り込んでしまった。


「俺はな、そんな連中を幾らでも知っている。 志半ばで命を落としていった奴が沢山いた。 そんな中には、俺やエミルの大切な子供たちも居た。 俺は、若い世代に先に逝って欲しくないんだ。」

「「「「「「はい。」」」」」」


「こいつも言っておくか。 これも何かの機会だろう。

 大和、お前は会社の社長だ。 そして、パーティーのリーダーだ。 最後には、

全てお前の責任になる。 お前への評価となる。 社長やリーダーと言うのは

そう言うモノだ。 冷酷になれとは言わん。 どんな状況にあっても冷静になれ。 それが皆を生かすことに繋がる。 判るな?」

「あぁ、親父!」


「仁絵、お前はそんな大和を支えてやれ。 大和に冷静な判断ができない時は、お前が代わってやれ。 お前は頭が良いからな。 時には、甘く。時には厳しくな。

愛情は薬と一緒だ。 やり過ぎは毒になる。 気を付けろよ。」

「はい、父さん。」


「凉香、お前は器用な娘だ。 姉として大和と仁絵を見守ってやってくれ。 努力が実って土魔法と風魔法を習得したのは流石だ。 誇りに思うぞ。」

「分かったわ、義父さん!」

「お前の恋の成就を願ってるぞ。」


「知仁、この二年間、誰よりも努力してきたことを俺はいつも見てきた。 誇りに

思うぞ。 みんなを安全に導いてやって欲しい。 おそらくだが、そろそろ

クラスチェンジしているかもしれん。 一度、チェックしておけ?」

「おうっ、オヤっさん! おぉーっ!! 俺、忍者になってる!」

「ほらな!? 努力は、必ず、報われるんだ。それを貫け。それがお前の魅力だ、

自信を持て!」


「で、でも、オヤっさん、俺、今だに彼女ができなくって…。」

「そんなお前の魅力に気づかないのは、バカだ。 大丈夫、心配するな。 お前の優しさ、素晴らしさを分かってくれる女は必ず現れる。 俺を信じろ!」

「ういっす! 嬉しいっす!! ぐすっ…。」

「泣くな、馬鹿者が。」


 鬼の目にも涙とは、このことだろうか? その時、親父の目に光るものが見えた。


「さて、湿っぽくなってしまったな、すまん。 俺からのアドバイスは、以上だ。 では、そろそろ行こうか!」

「「「「「「おうっ!!」」」」」」


***********


お楽しみ頂き、感謝申し上げます。

少し、設定を変更しました。

第二章が始まった時点で、源三さん(親父)は孤児院を閉めて、現在は道場で一人住まいしてます。

理由は、第二章4話で判ります。

宜しくお願いします。

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