第4話 午前中もダルかった。っていうか今までずっとダルかった
思えば、今日の咲水は午前中からいつも以上にダルかったな。
昼も機嫌悪かったし。
*****
「なぁ。なぁってば。俺が悪かったからさぁ。やから機嫌直せよー」
「ふんっ。うっさ。知らんわ」
チラッチラッ。
定期的にこっちをチラ見しながら俺の2メートルくらい前をスタスタ足早に歩くのは、
同じ大学のランニングサークルの1個上の先輩で彼女。
肩甲骨くらいまでの長さの髪を揺らしながら、8cmもあるピンヒールを履いてるとは思えんくらいの速度で歩く彼女。
たまに振り向いたときに見える顔がイイ。耳元の髪をかきあげたときの横顔がイイ。とにかく顔がイイ。顔
いや、愛嬌もいいか。
そんなもん今は誤差にしか思えんけどな。
今、そんな彼女と早足で追いかけっこしてるんは、別に遊んでるわけちゃう。
そんなん言わんくてもわかるか。
「おーい、待ってってば......」
特に理由わからんねんけど、デートしてたらさっき急に機嫌悪くなって、いきなり「もう帰る!」とか言いだした。
平常状態から怒りだす勢いがキラウエアの噴火レベル。そのあとのドロドロも溶岩的な感じ。そんなことはどうでもいいんやけど。
ともかく、そんで今、駅に早足で向かってる火山、じゃなくて
咲水はときどきこういう感じで急に機嫌悪くなる。正直、死ぬほどダルい。顔がよくなかったら、可愛くなかったら、好きじゃなかったら俺も即帰ってる。
まじで何がしたいかわからんけど、あぁやってチラ見してくるあたり、俺が追いかけるってのわかっててやってるんやとは思うけどな。
こんな感じになったとき、いつも俺がしばらく声かけて謝りながら追いかける形になって、5分か10分くらい追いかけてたら諦めたみたいに足を止める。
そんで「そんなに私に機嫌直してほしいん?」とか言い出す。
その問いに俺が「うん、ホンマにごめん。咲水のこと好きやからケンカするの嫌やねん。何でもするから許してくれへん?」みたいなおべんちゃらをしょんぼりしながら繰り返してたら機嫌良くなってく。
そこまでがワンセット。
いつも思う。まじでくっそだるい。
付き合いだして最初の頃はまだこういうめんどくさいやり取りも可愛く思えてたけど、最近はもうただただダルい。
デート中に機嫌悪くなられたらいろいろしんどいねん。1日楽しもうよ。
自分はデートに遅刻してくることも多いし、俺のこと雑に扱うこと多いしさ。
最近は咲水がいつ機嫌悪なるかわからんから、咲水が機嫌いい間も気負わなあかんし、あんまりデート楽しくない。
けどなぁ、夜になったら可愛いからなぁ。許してまうんよなぁ。
それにしても、さすがにもうちょいでいいから気ぃ遣ってほしいんやけど。
欲を言えば生卵くらい繊細に扱ってほしいんやけど。あ、欲言い過ぎたか。
惚れた弱みってこんなに強烈なんやっけ? 恋愛はガチで戦なん? 俺は負けたせいでこうなってんの? 我、落ち武者マン?
俺が惚れたがわで、向こうが年上やからって何しても許されるとか思ってんの?
いや、俺も完璧な彼氏できてるかって言われたら全然できてへんところはあるんやけどさぁ。
むしろあかんとこいっぱいあるのわかってるから、咲水が怒るのも自分のせいな部分結構あるやろ思て我慢してきたわけやけどさぁ。
はーぁ、だるぅ。けどなぁ。追いかけへんかったらもっとめんどいもんなぁ。
こうやっていらんこと思い出してる間にも咲水は先に進んでいく。
呼びかけても反応せんし、めんどくて、俺のスピードも落ちてる。
そうこうしてるうちに、彼女と俺の距離はもうすでに10メートルくらい空いてる。
改札も目の前やし、これは今日はまじで帰るやつかな。
チラッ。
あ、またこっち見た。あ、ちょっとスピード落した? いや、止まった? 結局帰る気とかないんかい。
そういうことするんやったら、最初からやめといてくれへんかなぁ......。
あかん、マジでウザなってきた......。
これはやばいし、精神安定させるためにも、咲水のいいところ唱えとこ。
可愛い、やらかい、いい匂い、気持ちいい......。うん、これやっても限界あるな。
まだ結構距離あいてるし、ちょっとくらい小声で文句言っても聞こえへんやろ。
「チッ。なんやねん、ダルいわ」
「は? あんた今なんてゆーた?」
......あ、聞こえてもうたらしい。
さっきまでチョイ切れぐらいの怒り具合の顔やったのに、今はバチ切れしてる。
こっちを振り向いたかと思ったら、鬼の形相で逆に距離を詰めてくる咲水。
あー、これはやってもた......。気ぃ狂うほどダルくなるやつや。
「なぁ、あんた今なんて言うたんやって聞いてん!」
「............なんも言うてへんから......」
まじでシクった。
今までの経験から言えば、こっから30分はキレられるパターンのやつ。
俺も大概やけど、こいつ頭おかしすぎるやろ。
ここ改札前やで。俺らの横めっちゃ人通ってるんやで。みんな俺らのことチラチラ見てるし。恥ずかしすぎるから。
けどなぁ、俺が折れへんかったら咲水が折れるとかあり得へんからなぁ。
はぁあ。ダルいけど平謝りしよ。
「......ごめんって」
「なにそれ、何に対して謝ってるん」
「いやぁ......それは......」
自分悪いと思ってへんから特に何に対して謝ってるとかないっていうな。
めんどいこと聞き返してこんといてや。
「............
「え? あぁ......うん、思ってる。ごめんな、ほんま。俺が悪かった」
「思ってへんやろ」
「思ってるって。ホンマに」
「じゃあ私が何で怒ってるか言うてみぃよ」
わからんから。
さっきいきなりキレだして、なんやねん。
やばい、イラつきが限界超えそう。あかんで俺、自分にもあかんとこあったかもしれんやろ。
............ふぅ、ちょい落ち着いた。
何で怒ってるか、か。
んー、咲水がキレだすときはだいたい、生理でイラついてるか、俺の行動で他の人に嫉妬したときっぽいからなー。
けどなぁ。いつも結構理不尽やねんなぁ。
とりあえず適当に前怒ってたときの理由挙げとくか。
「えーっと、咲水がしんどいのに俺がさっさと歩いてたから?」
チッ。
え、いま咲水舌打ちした?
態度悪いにもほどがあるやろ!
「やっぱわかってへんやんか。そんなんちゃうから!!!!!」
じゃあなんやねん。わからんわ。勘悪くてごめんな。
嫌われてもいいから勘のいいガキになりたいわ。
ってか駅でそんなでっかい声だすとか無いって。
「
うわー、咲水泣き出してもうた......。
っていうか、怒ってた理由それ? 俺が他の女の子の胸見とったって?
いや、見た記憶はないけどなぁ。もしかしたら無意識に目線いってたかもなぁ。
わからんけど、もしそうやったとしたらごめんやけども......。
けどさぁ、そうゆうの生理現象じゃない?
男やったら多少しゃーないと思うんよ。やから適当に見逃してほしいんやけどなぁ。
まぁけどそれは俺が悪いかもな。
面倒なやつやって思ってるのは............まぁ当たってるな。
けどまぁ、もしホンマに見とったんやったら、俺も悪いし、泣かせてもうてるし、これはもう平謝りするしかないか。
駅前で楊のまじで恥ずいけど、背に腹は替えれん。
「ごめんな、咲水。俺は咲水以外の人なんか見たつもりないけど、咲水がそう感じたんやったらごめん。傷つけてごめんな」
「ふーん、まぁそこまで言うんやったら、許したろうかな」
背中向けたままチラチラ後ろ見ながら言ってくる。
付き合い初めの頃は、こういう癇癪起こされたときは、咲水のこの態度も『ご機嫌斜めになっちゃったんかな。けど拗ねきれへんところも可愛いやん』とかアホなこと思ってたけど、今となっては俺の感想は『お、やっと終わりか。ダルかった〜』だけ。
けどまぁこれでやっと恥ずかしい追いかけっこも終わり。
いつも通り、ケンカの後のデートの続きして、夜はいつも以上に甘えてくるのをヨシヨシして一件落着。
テンプレ化してても鬱陶しいもんは鬱陶しいからなぁ。
とか思ってたら、まだめんどいのは続くらしい。
「けど、その代わり、ここで私のことぎゅってしながら大好きって叫んで!」
いやいや、ここ駅やで!? 改札前やで!? 人いっぱいおんで!? そんな辱めある!?
まぁいいや、ここまで来てちょっとやそっとの恥晒すくらい、大して変わらん! とにかくさっさと終わらしてこっから去る!
「咲水!!!! 愛してる!!!!」
*****
なんてことがあったわけ。
いつも以上の羞恥プレイ。それだけでもいい加減限界が来てたし、むしろ別れれたんは僥倖やったんかもな。
結局はいままでのダルい態度も行動もどれもこれも、俺の咲水への愛的な何かを試そうとしてたって話か。しょーもな。
頭おかしいやつと縁切れて逆によかったよかった。
あーあ、ガチで泣けてくる。しょっぱ。
こうなったら大学の友達呼んでヤケ酒しょー。
にしても、咲水はまじで、何がしたかったんやろうなぁ。
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