第2話 きたない

 あぁ、なんかすごい勢いでいろいろ冷めてく。

 キモすぎるんやけど。


 やば、かつて無いほど冷静な俺がおる。賢者モードからこんな瞬間で立ち直ることある?


 今、頭の回転尋常じゃない速さやわ。普段の速さがメリーゴーランドやとしたら、今はジェットコースターって感じ。

 いや、こんなどうでもいいこと考えてる時点で頭回転してへんか。ははっ、ウケるな。いや笑われへんけど。


 え、俺、誰かもわからん男とキスした口とキスしてたん? やば、間接キスやん。

 ほんで、知らん男が突っ込んだ穴とヤっとったん?


 無理無理、俺まぁまぁ潔癖やのに。


 つーか、そうか。今日のデート中、なんかやけにいつもよりピリピリしてんなって思ったらそういうことかよ。

 しょーもな。自分がやましいことあるから俺に当たってきてたとか。


 つーかセリフが浮気女の典型やん。なんやねん、「好きなのは刃銀はがねだけ」って。

 現実で言うやつほんまにおるんや。ウケる。いやウケへんけど。


 メンヘラな気質あるとは思ってたけど、ここまでアレなやつやったとは。


 けどちょうどいいわ。コイツのわがままもかなりダルなってきてたとこやったし、ここで終わらせるのがベストってことか。


 いやぁ、ここがコイツの部屋で良かったわ。俺の部屋やったらひっくり返して洗わなあかんとこやったし、今から帰るとこもなくなるとこやった。



 何はともあれ。


「いや、無理やから。キショすぎ」


「えっ......」



 いやいやいやいや、なんでびっくりした顔してんの。

 どんな反応予想しとってん。


「な、なんで......。なんでそんなヒドいこと言うん?」


「え、ヒドいかな。普通にきしょいからしゃーないよな。っていうか大体、なんでそれを俺に言ってきたん。いや、言ってもらってよかったけどさ。それ言ってどうしたかったん」



 それだけが本気でわからん。

 何で浮気したことを俺に伝えてきた? 俺にどんな反応をしてほしかった? 何の目的があった?


「..................あー............えーっと............怒らん......?」


「いや、わからんけど、もう結構怒ってるし、一緒ちゃうかな」


「っ!?」



 意味わからんすぎるけど、もしかしたら嘘っていう可能性まであるからな。

 俺は人を不快にさせる類いのドッキリはそもそも嫌いやし、これがドッキリやとしても普通に無理やねんけどさ。


 つーか、今もうすでにキレて暴れたいレベルやのに、俺よく我慢して喋ってるなぁ。俺、偉いわ。


 そんで、なんでやっぱりびっくりした反応やねん。


 なんか何言うか迷ってる風の顔してるし、意味わからん。

 咲水が嘘つくときの顔やけど、この期に及んで何言おうとしてんの。


「えっと、最近、刃銀はがねが冷たいような気ぃしててさ! バイトばっかりやったやん? だから、私が他の人とえっちしたって知ったら嫉妬してもっと構ってくれるかなって思って!」



 聞きたくもない話やった。聞く価値のないゴミ以下の言い訳超理論やし。しかもそれが嘘って、どういう了見なん。

 せめて、『罪悪感に押しつぶされそうで』とかやったらまだわからんでもないけど、こいつの言ってることの意味は理解すらできん。


 嫉妬してほしくて他の男と寝るとか、それを報告してくるとかある?

 いや、もしかしたらそういうのを報告し合うのが性癖のカップルとかおるんかもしれんけど、常人には無理やろ。


 脳みそ腐ってんの?


「でも1回だけやで? 私は刃銀のこと愛してるから。だからほら、お布団戻って続きシよ?」



 謎の言語をしゃべりながら裸ですり寄ってくる咲水さみはキモチワルくて、もはや人外に見えた。


「きたなっ。触らんといてくれへん?」



 俺は手早くパンツとズボンを履いて、一刻も早くその薄汚い女の部屋を去るために歩きながらシャツと上着を着る。

 玄関に向かう俺の背中から咲水の汚い声が聞こえてくる。


「うぇっ!?!?!?!? 待って、刃銀! お願いやから待ってよ! なんでなん!? 私のこと好きやったんちゃうん!?」



 本気で理解できん。どんな反応やねん。俺の反応は誰でも予想できる型通りの反応やろ。


 浮気したやつが何言ってんねん。

 つーか、裸で足にしがみついてこんといてくれる? 汚いし。


「いや、浮気するようなやつ無理やから。汚いし、触らんといて? はよ帰って洗濯して風呂入らな」


「っ......」



 なんでショックそうな顔してんねん。


「............嘘つき......。私のワガママ聞いてくれるって言ってたのに......。私のこと、愛してるって言ってたのに......っ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る