第38話 詐欺だったかもしれない

-side オーウェン-




「ふぁーーあ!」

『話がある』『キャンキャン!』

「ほえっ……!?おはよ、シルフ。フェル」

『おはよう』

「それで、話って?」

『大事な話だから、朝飯を食べてからでも良いよね』

「まあ、良いけど……」



 神殿の窓から差し込む柔らかい光で朝目覚める。目を開けると、シルフが真剣な表情でこちらを見て、話しかけてきた。

 切実そうだけど、ご飯を食べてからでもいいって事は、すぐにどうこうなるという事はないみたいで、ひとまず安心だ。

 神殿の食堂に行くと、精霊達が沢山いた。

 相変わらず、すごい光景だ。

 その中に混じっている、ロン、エリーゼさんと長老がいたので、隣に座る。



 野菜やきのこを使ったスープや煮物。

 湖の魚を使った焼き物や炒め物。

 五穀米や雑穀米っぽいご飯。

 果物や野菜をジュースにしたドリンク。



 朝から、体に優しそうな朝ごはんが出てきて、ほっこりする。



「優しい味がする」

「そうですねえ」

「そうさねえ」

「美味しいのじゃ」



 みんな、朝だからかぼけーっとしている。

 平和だ。

 相変わらず、シルフと部下達はソワソワしているから、気になりはする。

 そろそろ、話しかけるか。



「シルフ。そろそろ何があったか、聞いてもいいか?」

『あっ……、うん。気を遣わせってごめん。あのさ、主人。突然だけど、主人。精霊達が保有するお宝に興味はないかい?』



 シルフは胡散臭い笑顔を貼り付け、ニコニコしながら、俺に問いかける。

 従魔でなければ絶対断っているが、従魔だからな……、俺を裏切る事は無いって分かるから、一応聞いておくか。



「あるけど……」

『良かった!そんなあなたにピッタリのお宝があるんですよ!』

「あ?」



 やっぱり、これ詐欺かな。

 苦労しないと手に入らないからお宝というのではって、お宝にピッタリも何もあるかよ。絶対、碌でも無い事だって。

 そう思ったけれど、従魔は俺を裏切れない事は事実なので、先を聞く。



『そそそ……、そんな睨まなくても良いんじゃ無いかな?確かに訳ありなんだけど』

「俺は普通にしてるだけだぞ。お前が、勝手に自爆しているだけで」

『うっ……!』

『キャンキャン!』

「ん?ああ……、ごめんごめん。少しやり過ぎたか」



 フェルが、シルフをいじめないでと言っている。先に仕掛けてきたのは向こうだが、確かに大人気なかったか。



『うーー。僕にはやっぱり、人を騙すような真似は無理だよおぉぉ……』

『シルフ様は優しいもんな!おい、オーウェン!俺からも頼む!そもそもこの提案をしたのは俺なんだ!』

『そうですわ〜!これは、精霊界にとってものすごく重要な案件何ですの!』

「そんなにか?そこまでの出来事なんだったら、変な真似はせずに、最初から素直に話して欲しい。従魔が主人に頼るのは、当然のことだろう?」

『うう……、分かった、ありがとう。ごめんね、主人。頼りきってばかりで。お返しもしなければならないのに』

「大丈夫だ」

『でもでも!お宝探しっていうのは本当だし、もし、お宝を主人が手に入れられたら、精霊門を開けてくれた報酬として、あげるから!』

『訳ありではあるが、良いお宝であることは間違いないぜ!』

「本当か!?それは、頑張らなきゃな」



 精霊のお宝とか、気になっていたのは確かだ。報酬として貰えるんだったら、むしろ、もらい過ぎなくらいだろう。

 元々、精霊門を開けるのは、精霊達からの依頼でもないし。



『でさ、本題に入ろうと思うんだけど』

「うん」

『まず、主人は四大精霊王については、知っているよね?』

「ああ。シルフ以外と会ったことはないが、ウンディーネ様、サラマンダー様、ノーム様の事だろ?この前もウィンドガイドから聞いたし、御伽噺によく出てくるから知っている」

『うん。だったら、四大精霊竜については?』

「四大精霊竜?初めて聞くな。聞いたことがない」

『やっぱりか。無理もない事だよ。彼らが、人間界に姿を表したらそれこそ大騒ぎだし。知らなくて当然』



 ほう。そんな存在がいたのか。

 竜っていうくらいだからドラゴンかな?



「精霊でドラゴンっていうとサラマンダー様が思い浮かぶが、違うのか?」

『うん。精霊竜は各精霊王の守護竜の事だよ。サラマンダーには、サラマンダーの守護竜が存在する』

「はーー。それは、是非とも見てみたいな。精霊竜というと、実態のない竜か?だとしたら、護衛としてもは最強だ」



 精霊には実態がない。

 だから、物理的に倒しようがない。

 だというのに、ドラゴンの戦闘能力を持っていたら、無敵の存在だろう。



『そう、そうだったんだけどね。その竜が、今囚われているんだ』

「囚われている?まさか……、この精霊門が閉じたのと、何か関係が?」

『流石、察しがいいね。その通りだよ。数年前、人間達がここへやってきて、僕たちを捉えようとした』

「ふむ」

『それ自体は過去にも数回あって、今回も撃退できたんだけれど、人間に勝てるわけないし』

「うん……、まあ、普通はそうだよな」

『だけど、この前の人間は、一筋縄ではいかなかったんだ。あろう事か、禁忌の魔道具を使って、僕を捉えようとしたんだ』

「なるほど……、それで、シルフの精霊竜が庇って……」

『ああ。その際に、精霊竜は捉えられた』

「なるほど」



 それで、俺に助けに行ってほしいと。



『まあ、禁忌の魔道具とはいえ、精霊竜は自力で、脱出出来たんだけどさ』



 それは、強すぎだろ。禁忌の魔道具って、殆どが国指定の国宝で、一国を破壊するほどの威力を持つ最終兵器ではなかったか?それを、なんとかしてしまうとは……、精霊竜は精霊王の最強の側近なのかもしれない。



「出来たんだ。てっきり、助けに行くのかと思っていた」

『精霊竜を助けに行くんだったら、僕一人でも充分だよ』

「確かに」



 シルフはめちゃくちゃ強いからな。

 一人でも十分か。



『だけど、風の精霊竜はその過程で力の大半を失ってしまった』

「ほう」

『オーウェンには、その力を取り戻してほしいんだ』

「良いけど、本当に俺にできるのか?」

『できる。……と思う。ただし……』



 試練が必要なんだよね、と、まっすぐ、受けてくれと断らせる気のない笑顔で言われる。

 うわっ……、その試練絶対、大変な試練だろう。

 やっぱり、これ。詐欺だったのでは?



『詐欺ではあるよ!』

「開き直んな、おい」



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