第36話 ヴァイオリンのメンテナンス
-side オーウェン-
神殿の中へ入ると、沢山の精霊がいた。
人型の精霊が多い。動物の姿をした精霊もいる。哺乳類と鳥類がほとんどだ。みんなシルフを見ると驚いて、感極まった顔で頭を下げている。
『やあ、みんな帰ってきたよ』
『『『『『お帰りなさいませ』』』』』
『ただいまー』
シルフはなんとも気の抜けた返事をし、手を振りながら奥の方へ進んでいく。
薄々気付いていたけれど、やっぱり、そんな感じの王様なのか。
『それで、俺がいなくなっている間、何があった。ウィンドガイド』
『はっ……!ある時、風の精霊領域だけでなく、精霊の国全体が黒い霧が覆われました。原因は解明できていません。植物は枯れ、太陽は陽の光をなくし、我々の力はどんどん失われていく一方でした。しかし、つい最近、神の音色が聞こえて、我々は救われたのです』
『神の音色?』
『はっ……!先程も述べたとおり、それはヴァイオリンの音色でした。きっと、我々の状況を憂いた神がヴァイオリンを弾いたのでしょう。その音色を聞いた瞬間、辺り一面は濃い魔力に覆われて、黒い霧を晴らし、領地が回復していくとともに我々も回復していったのです』
『ああ……、ククッ……!なるほど……。ククク……!』
シルフは、必死に笑いを堪えようとしている。俺はとても居心地が悪い。そんな状況をウィンドガイドは不思議そうにこちらをみている。
『先程も不思議に思いましたが、何がおかしいのですか?』
『その、ヴァイオリンを弾いたのはこの人だよ。僕の主人のオーウェン。君たちが言うところの神だ』
「俺は神ではないが」
『なんと……!それは、本当ですか!シルフ様を従える時点で只者では無いと思いましたが、あのヴァイオリンを弾いたのはオーウェン殿でしたか!』
『ああ。間違いない。俺が保証するよ』
『シルフ様がそこまで、言うんだってそうなのでしょうね』
ウィンドガイドはうんうんと頷いている。
勝手にハードルを上げられてしまっているような気がするのは気のせいではないだろう。
『主人。まだこの場所は元気が事に戻っていない。どうせだったら、ここに滞在中何回かヴァイオリンを弾いてくれると助かるよ』
「分かった。まあ、どうせここでも、ヴァイオリンの練習をしようと思ったから今更だな」
『やった!』
俺がそう答えると、みんなが嬉しそうに笑う。たまには人助けも、良いものだ。
それに、これは俺のためでもある。ヴァイオリンは弾いてないと鈍るからな。特に、弦を押さえる左手の指の動きが。
安定したペースで練習するのが望ましい。
シルフ達が弾いて欲しそうにしているから、ここにいる間は毎日練習するか。
『是非とも、我々にもお聞かせください。
我々もオーウェン殿のヴァイオリンを楽しみにしております』
『いーねー!どうせなら、お祭りで弾いてほしいよね?どうせやるんでしょ?』
『それはもちろん!良いアイディアですね!』
『お祭り?』
『うん!僕が帰ってきたからね。軽めのパーティを開くんだ!オーウェンもその時ヴァイオリンを弾いてよ!』
「別に良いが」
「やった!!」
お祭りか。人前でヴァイオリンを弾くのは久しぶりだな。楽しそうだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「一人になったし、久しぶりにヴァイオリンのメンテナンスでもするか」
『キャンキャン!』『ニャーニャー!』
「おっと、そうだな。お前達もいたな。」
フェルと黒猫が、自己主張をしてくる。
癒される。
ヴァイオリンのメンテナンスで代表的なものは、以下の5つだ。
1. 清掃: ヴァイオリンの表面を柔らかい布で拭き、汚れを取り除く。
2. 弦の交換: 弦は定期的に交換する。劣化や音質の低下を防ぐ。
大体、メンテナンスと言う場合、この2つをやっておけば良い。
3. ブリッジの調整: ブリッジの高さや位置を調整し、音質を最適化する。
4. 機械部の調整: ペグやテールピース、フィンガーボードなどの機械部分を調整し、正確なチューニングを保つ。
5.松脂の塗布: 弓毛に松脂を塗ることで、弦との摩擦を良くし、音を出しやすくします。これは、メンテナンス中よりも、ヴァイオリンを演奏する前に行う事が多い。
この3つは定期メンテナンスの時といよりは、ヴァイオリンを弾いていてトラブルが起こってから行うか、弾く直前に行う場合が多い。
『やあ!オーウェン。やっぱり、ヴァイオリンをいじってる』
「シルフ!仕事は、もう良いのか?」
『うん!ひと段落したよ!それよりも、ヴァイオリン聴きたいなと思って来た!』
「ふむ。せっかく、シルフと精霊達が再会もできた事だから、あの曲でも練習するか!」
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[コメント]
ヴァイオリンのパーツ説明は文章では、イメージがつきにくいと思ったため、近況報告ノートに画像を貼っておきます。
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